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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼が上手にお姫様を守る方法
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天野くんと襲撃犯




 天野たちは廊下の壁に貼られたホテルの見取り図を見て、護衛のフォーメションを考えた。


 最上階フロアは中央に広いエレベーターホールがあり、東西それぞれへ向かって、一直線に廊下が伸びている。

 フロアへの侵入口は、中央の「エレベーター」と、東西の外部に設置されている「非常階段」のみ。サクラの部屋は西側の角だ。


 天野は西側の非常階段を指さして言った。


「敵が来るなら、西側の非常階段、もしくはエレベーターだな。黒崎よ、お前らの所持している装備を教えろ」


 黒崎は一瞬言いよどんだが、この際隠すのも馬鹿らしいと考えたのだろう。


「拳銃を1挺ずつ。あとスタングレネードを持っている」

「捨駒らしい立派な武装だ。あとは丸腰の俺様1人か。敵がエレベーターから来ても、非常階段から来ても、確実に殺してもらえるな」


 黒崎が見取り図を指しながら言った。


「俺がエレベーター。金城が非常階段を見張る。敵と遭遇すれば、銃撃の音で気づくはずだ」

「却下だな」


 天野はあっさり首を振った。


「それじゃ「殺してください」と言っているようなものだ。敵は確実に重装備で襲ってくる。このフロアに催涙ガスでも打ち込めば終わりさ」

「ならば、お前はどうしたらいいと考えているんだ」


 天野は見取り図を親指で指さし、当たり前のように告げた。


「ひとつしかない。ホテルからの脱出だ。サクラをこのホテルから逃がす。俺様もまだ死にたくはないからな」


 天野はそう言うと部屋に戻ろうとした。

 その肩を黒崎がつかむ。


「おい、俺たちはどうしろって言うんだ」


 天野は肩をすくめた。


「お前らも脱出すればいいじゃないか。むしろ、俺が王女様を勝手に連れ出しても、お前らは追いかけもしないのか? ……まぁ、どうするかは2人で相談して決めろ」


 それだけ言うと、困惑する黒崎たちを無視して、サクラの部屋に入った。

 サクラはまだ夜景を眺めている。

 あどけなさが残る幼い横顔だ。

 天野は「こほん」とひとつ咳払いをして、サクラに声をかけた。


「サクラよ、部屋を出るぞ」

「えっ? なぜデスカ?」

「このホテルに残るのは危険と判断した。侍女には『綺麗な夜景が見える場所があるらしいから案内してもらう』と告げてくれ」

「ハ、ハイ……。わかりマシタ」


 サクラは侍女たちに母国語で何かを告げると、天野と共に部屋を出た。

 廊下には黒崎と金城が立っている。


「天野、俺たちもお前と共に行こう。どこかアテはあるのか?」

「ああ、コネがある病院に連れて行く。要人も身を隠すほどの設備がある病院だ。そこならば安全だろう」

「よし……。急ごう」


 黒崎と金城が頷き、天野の後を追いかける。

 中央のエレベーターを操作して、到着を待った。



 ──チン



 エレベーターの扉が開く。

 中には武装した覆面姿の男たちが3人立っていた。


「またかよ!」


 今回は3人とも、サブマシンガンを手にしている。

 黒崎と金城は右に飛び、天野はサクラを抱いて左へ飛んだ。



 バババババババッ!



 マシンガンが火を吹いた。

 天野たちのいた空間を蜂の巣にする。


「黒崎! 金城! 足止めしろ!」


 そう叫ぶと、天野はサクラを抱いて走り出した。

 金城はいち早く体勢を立て直し、エレベーターめがけて発砲した。



 ──パン! パン! パン! 



 襲撃者たちは金城の発砲により、外へ出るタイミングが掴めない。

 それを確認すると、黒崎は懐からスタングレネードを取り出した。


「金城! 投げるぞ!」


 そう叫ぶと、襲撃犯めがけてスタングレネードを投げつけた。

 黒崎も金城も耳を塞ぎ、相手に背を向ける。

 スタングレネードが発光と大音量をあげて爆発。

 視界と聴覚を破壊する。

 襲撃犯たちは混乱し、マシンガンを乱射した。


「くそっ!」


 黒崎も金城も、銃弾を避けるだけで精一杯だ。

 何度か拳銃で応戦する。

 しかし、マシンガンを避けながらではうまく当たらない。


「チッ、派手なことになりやがった」


 背後の爆発音を聴きながら、天野は非常階段を目指していた。

 ようやく東側の端までたどり着く。


「サクラ! このまま1階まで下りる! 辛いだろうが走ってくれ!」

「ハイ! わかりマシタ!」


 非常階段の扉を開ける。

 そこに武装した男が2人立っていた。

 2人とも突然現れた天野とサクラを驚いて見つめている。


(くそ、ここは東側だぞ。全方向に人員を配置しやがったな)


 そう考えながら、天野は先頭の男が持っているサブマシンガンを素早く蹴り飛ばした。

 そのまま二段蹴りを放ち、男を吹き飛ばす。


「うわぁぁぁ!」


 男は非常階段から落ちそうになり、手すりにしがみついた。

 もう1人が救助すべきか、天野を撃つべきか迷った。

 天野はその隙を見逃さない。

 迷った男のサブマシンガンを、かかと落としで地面に叩き落とした。


「おらぁ!!!」


 肘と掌底を放ちながら接近。

 鳩尾に膝を叩き込んで姿勢を崩す。

 頭を掴んでかがませると、無防備な側頭部へ膝蹴り。

 ゴキッ、と鈍い音が響く。

 うずくまる敵の左腕を絡めとり、捻り上げながら肩と腕を破壊した。


「悪く思うなよ」


 天野はさらにサブマシンガンを拾うと、両足を容赦なく撃ちぬいた。

 非常階段に男の悲鳴が響き渡る。


「天野サン! 後ろデス!」


 サクラが叫んだ。

 非常階段から落ちそうになっていた男が体勢を立て直している。

 すかさずサブマシンガンを突きつける。


「動くな! フリーズ!」


 男は天野の姿を見てニヤリと笑い、素早く腰の拳銃を抜いた。

 サクラに銃口を向ける。


「クソッタレが!」



 バババババババッ!



 天野は男の手を撃ち抜き、拳銃を叩き落とすと、一気に間合いを詰めた。

 サブマシンガンを捨てて、肘を鳩尾に叩き込み、ショートアッパーを顎に放つ。

 男の脳が揺れてよろめく。


「バカな、男め!」


 よろける男の首を脇に挟み、フロントネックロックで絞め上げる。

 後方にも勢いよく倒れ、男の頭頂部を床にガツンと打ちつける。

 そのまま足で相手の胴を挟み、気絶するまで絞め続けた。


「俺様をなめやがって……。サクラ! 大丈夫か!?」

「ハ、ハイ……。でも、天野サン……。出血してマス……」


 左腕にマシンガンの跳弾がかすっていたようだ。

 白衣を切り裂き、赤く染めている。


「大した怪我ではない。気にするな」


 天野は迷った。

 東側に敵が配置されたのであれば、西側の非常階段にも敵が潜んでいる可能性が高い。 このままでは黒崎と金城が殺される。


 見殺しにして逃げるべきか。

 危険をおかしてでも助けるべきか。


 天野は迷いを吹っ切るように叫んだ。


「くそっ! サクラ、銃は撃てるか!?」

「ハイ! 撃てマス!」

「よし、それならば覚悟を決めろ! 黒崎たちの援護に向かう!」


 サクラにベレッタを1挺手渡す。

 襲撃者たちの武装を漁り、ベレッタを奪う。

 手榴弾を1個ずつ持っていたので両方とも拝借。

 武器はサブマシンガン、ベレッタが2挺、手榴弾が2つだ。


「行くぞ! 俺様から離れるな!」

「ハイ!」


 非常階段の扉を開け、エレベーターホールへ走る。

 襲撃犯の1人が倒れている。

 黒崎と金城は素手で男たちと格闘していた。

 それを見た天野は素早く駆けつけ、ベレッタで襲撃犯の足を撃った。



 ──パン! パン! 



 襲撃犯の動きが止まる。

 黒崎の拳と、金城の蹴りが襲撃犯に炸裂した。

 黒崎が安堵して言った。


「天野か。助かった」

「油断するな! 西からも来るぞ!」


 天野の言葉を合図にしたかのように、西側の非常階段の扉が開いた。

 襲撃犯の姿が見える。

 天野は迷うことなくサブマシンガンの引き金を引いた。



 バババババババババッ!



 襲撃犯たちは慌てて扉を閉めた。

 それを見て、黒崎が提案した。


「天野、ここは俺たちが食い止める。サクラ王女と逃げろ」

「わかった。頼む」


 天野は黒崎にサブマシンガンを渡し、金城にも声をかけた。


「金城よ。とっておきだ。使え」

「……はい!」


 金城に手榴弾を渡し、エレベーターにサクラを連れて乗り込んだ。

 1階を目指し、エレベーターがゆっくり下りていく。


「あ、あ、あ、天野サン……」


 サクラがか細い声をあげた。

 ガタガタ震えながらベレッタを握りしめている。

 天野はベレッタを取り上げてポケットに突っ込むと、サクラの肩を抱いた。


「大丈夫だ。もう怖くない」

「ハイ……。すみマセン……」


 サクラは白衣の裾を掴んで震えている。

 天野はサクラに優しく語りかけた。


「大したものだ。よく泣かなかったな」

「ハイ……。このぐらい……オチャノコ……サイサイ、デス……」

「フッ……。さすが王女様だ」



 ──チン



 エレベーターが1階に到着した。


「走るぞ!」


 サクラの手を引っ張り駆ける。

 すると、ロビーに佇んでいた異国の男が慌てた表情で立ち上がった。

 懐から拳銃を取り出し、天野たちに向ける。


「マジかよ!」



 ──パン! 



 とっさに天野はサクラを抱いて飛んだ。

 倒れこみながらベレッタを撃ち返す。



 ──パン! 



 天野の腕では当たらない。

 しかし、異国の男は思わずしゃがみこんだ。

 1階ロビーに悲鳴が響き渡る。


「くそっ!」


 天野はさらにもう1発撃つと、ホテルの玄関を飛び出し、停車していたタクシーに乗り込んだ。


「とりあえず出せ! 急げ!」

「え、えっと? ど、どちらまでですか?」


 タクシーの運転手がのんびり尋ねる。

 ロビーを見れば、先ほどの異国の男が仲間を連れて追ってくる。

 天野は拳銃を突きつけて叫んだ。


「早く出せ! 早く! 撃ち殺すぞ!」

「は、はい!」


 運転手は慌てて発進させた。

 ホテルから少し遠ざかった時、ドカーンと花火の上がったような音が聴こえた。


「あ、天野サン……」


 サクラが震えて指をさす。

 ホテルの最上階。

 西側の非常階段が爆発して燃えている。

 金城か誰かが、手榴弾を使ったのかもしれない。

 凄まじい威力だ。

 まだポケットにはひとつ残っているが、使い時を誤れば自らも死にかねない。


「お、お客さん……。どちらまで行けば……?」


 天野は迷った。

 背後を確認する。

 タクシーを尾行しているような車が1台、後方に見える。


(尾行されているかもしれん。病院へ連れて行っても、追っ手をまかなければ意味がないぞ……)


 天野は迷ったあげく、実家の住所を告げた。


「サクラよ。ちょっとスリリングだが、東京の夜を案内してやろう」


 気分を変えるため、あくまで楽しげに言った。

 サクラはすっかり怯えて縮こまってしまっている。

 震える肩を抱き、天野はデートにでも誘うかのように言った。


「東京の夜、興味ないかい? いい社会見学になるぜ」


 サクラは琥珀色の瞳を伏せて詫びた。


「天野サン……。すみマセン……。私のせいでご迷惑を……」

「迷惑なんかじゃないさ。お姫様との秘密のデート。目的地は夜の東京。なかなか気の利いてる映画シネマだよ。まるで『ローマの休日』みたいじゃないか」


 天野は「あはは」と笑った。

 それでようやくサクラの顔に笑顔が戻った。




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