表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼が上手にお姫様を守る方法
86/91

天野くんとお姫様の外遊




 天野たちは金城の運転する車に乗り、まずは浅草を目指した。

 助手席には黒崎。後部座席には天野とサクラがいる。


 サクラは車窓に流れる風景を興味深そうに眺めている。

 景色の全てが新鮮で珍しいのだろう。

 天野は苦笑しながら言った。


「そこは皇居さ。なかなか綺麗な場所だぜ」

「コウキョ……。つまりロイヤルファミリーのご自宅なのデスネ」

「なぜかわからんが、東京じゃこの周囲をジョギングするのが流行りでな。何人も走っている人間がいるだろう?」

「本当デスネ。日本の皆サンは走るのが好きなのデスカ?」

「そうかもな。きっと『走り続けないと死ぬ』とでも、思っている人間が多いのさ」


 皇居を離れ国道に出る。

 車窓の風景が移り変わる。

 天野は色々と説明してやった。


「この通りを真っ直ぐ行くと、秋葉原という街につく」

「アキハバラ……。聞いたことありマス」

「その先には上野公園。君の名前と同じ、桜の名所のひとつさ。通りの先まで桜並木が続くんだ」


 サクラは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「ワァ……。一度、行ってみたいデス」

「日本人は弁当や酒を持ちより、桜の下で騒ぐのが好きでなぁ。春になればそんなヤツらで溢れかえるぜ」

「とっても楽しそうデス」

「日本には桜を見たことがないヤツなんていない。君は日本人にとって、最も有名な花の名前の持ち主なんだ」

「嬉しいデス。そのような名前をいただけるなんて」


 車は都内を走り、浅草に到着した。

 目的地は工芸品が並ぶ博物館。


 天野はサクラに寄り添い、移動には細心の注意を払った。

 いくら万能のクソ野郎でも、ライフルなどで遠距離狙撃されれば打つ手はない。

 この時ばかりは黒崎たちと協力して、サクラを見えない火線からガードした。


 博物館に入ると、都議会議員や職員、そしてマスコミがサクラを歓迎した。

 地元の子供たちが列を作り『ようこそサクラおうじょさま』という横断幕を持たされている。

 サクラは嬉しそうに子供に近づき、ひとりずつ丁寧に声をかけた。

 その様子をマスコミがしっかり撮影している。


(無邪気な娘でも、やはり王女なのか)


 天野は微笑ましい光景を眺めながらも、周囲をしっかり警戒している。

 博物館は貸切状態。都議会議員もマスコミも本物だろう。

 怪しい人物の姿はなく、危険の気配も感じられなかった。


 博物館を出て車に戻ると、サクラが嬉しそうに言った。


「天野サン、ステキなものをたくさんいただきマシタ。私の名と同じ、桜の模様が入ってマス」


 サクラはかんざしや織物などを興味深そうに見つめている。


「綺麗なものだろう。こうした古き良き文化は失われつつある。経済が発展しすぎると、こんな文化には興味を持てなくなるのかもな」

「残念デス。こんなにキレイなのに」

「貸してごらん。俺がさしてやろう」


 天野は髪飾りをサクラにさしてやった。


「どうデスカ? 私でも似合いマスカ?」

「ああ、君の綺麗な黒髪によく映えるよ」


 サクラは照れ臭そうに微笑んだ。


*************


 昼は大臣との会食だ。

 当然ながら天野の席は用意されていない。

 仕方なく部屋の隅に立ち、会食の様子を見守った。


「おい、金城」

「どうされました?」


 天野は同じように部屋の隅に立っていた金城を小声で呼びつけた。


「腹が減った。お前らは何を食うんだ」


 金城は冷たい目で天野を見た。


「何も。護衛中は水分も食事もとりません」

「そうなのか。なかなか辛い任務だな」

「当たり前のことですよ」


 金城は平然と答えている。


(なるほど……。トイレの時間も許されないワケか。さすがスパイだ。本職は気合の入り方が違うな)


 会食も無事に終わった。

 午後は神社と寺院をめぐり、スカイツリーの見学だ。


 天野はサクラの隣で色々と解説していたが、危険の兆候はまるで感じられない。

 日中の襲撃はなさそうだ。

 天野はのんびり東京見物としゃれこんでいた。


 夕方に近づくと、車は皇居に入った。

 この後はロイヤルファミリーとの歓談。

 さすがに天野はもちろん、黒崎や金城も同行を拒否された。


「天野サン……。どうシマショウ……?」


 サクラは不安気な表情だ。


「ここは日本で最も安全な場所だ。俺がいなくとも問題ない。立派に大役を果たしてくればいいさ」

「ハイ。わかりマシタ」


 サクラが歓談を済ませるまでしばしの休息。

 天野が外でタバコを吸っていると、黒崎が小声で話しかけてきた。


「天野、今晩の宿を変える」

「なんだ。何かあったのか?」

「襲撃に備えて別のホテルを手配した」

「ホテルだと? 外務省に戻らないのか?」


 黒崎は少し黙ったあと、重い口を開いた。


「……外務省は使うな、という上からの指示だ」


 天野は黒崎を睨みつけた。


「それはおかしい。なぜそんな話になる」


 黒崎は問いかけを無視した。

 天野はじっと黒崎の瞳を見つめる。

 恐ろしいことに、この男は相手の目を見ることにより、ある程度の心理を読んでしまう。


「お前もこの件には納得していないな。外務省に脅迫か圧力でもかかったのか?」


 黒崎は何も答えない。

 天野は瞳を睨みながら言葉を続けた。


「もし襲撃されるならば、外務省は巻き込まれたくないだろう……。つまり、襲撃犯は夜の決行を計画している可能性が高いと、判断したんだな」


 黒崎は深く息を吐いた。

 微かに口唇を歪める。


「……悪くない読みだ」


 黒崎は車のトランクからベストを取り出した。


「これを貸してやる。服の下に着込んでおけ」


 防弾ベストだ。

 天野は装着しながら尋ねた。


「ニューナンブかベレッタでも貸してくれないのか」


 黒崎は呆れたように笑った。

 静かに首を横に振る。


「民間人の銃の所持は禁止だ。そこまではできんさ」


 サクラの歓談が終わった。

 天野たちは再び車に乗り込み、新しいホテルに向かって出発した。


「サクラよ、今晩の宿が変わった。俺も泊まったことがあるが良いホテルだぜ」


 軽い口調だったが、サクラはその言葉の意図をすぐに理解した。


「……襲撃があるかもしれないんデスネ」

「大丈夫さ。俺も黒崎も金城もいる。危険を避けるためだ」


 車は湾岸線を走り、新しいホテルに到着した。

 天野は荷物をトランクから取り出しながらホテルのロビーを見渡す。

 怪しい人物は見当たらない。それでも油断はできない。


「サクラ、俺から離れるな」

「ハ、ハイ……」


 サクラは慌てて天野の隣に移動した。

 白衣の裾を不安気に掴む。


「……行きましょう」


 先頭は金城。

 中央に天野とサクラ。

 後方は黒崎が警戒している。

 4人は周囲を警戒しながら、何とかエレベーターまで移動した。


「黒崎よ、SPはどこにいる? 室内で待機しているのか?」


 黒崎はその問いに答えない。

 ただ苦しそうに俯いている。


「おい黒崎。聞いているのか?」


 黒崎は絞り出すように言った。


「……俺と金城。この2人で護衛することになっている」

「なんだと?」


 天野は金城の顔を見つめた。

 金城の顔には緊張が浮かんでいる。

 問い詰めたいところだが、今は隣にサクラがいる。

 天野はぐっと堪えた。


 やがてエレベーターが最上階に到着した。

 廊下に怪しい人影はない。

 それでも黒崎と金城は先ほどから殺気を放ち続けている。

 いつ襲撃者が現れても対処できるよう、覚悟している表情だ。


「黒崎よ、部屋はどこだ」

「西側の一番端だ。侍女が待っている」


 天野は静かに部屋の扉をノックした。

 ゆっくりと扉が開く。

 室内にいたのは2人の侍女。

 こちらも不安気な表情を浮かべ、サクラを出迎えた。


(どうなってやがる……)


 天野は全員の顔を見つめた。

 全員の顔には戦慄が浮かんでいる。


(黒崎と金城も、この侍女たちも、戦場に放り込まれたような顔をしているじゃねぇか……)


 天野は慎重に窓に近づき、カーテンを開ける。

 東京の夜景がよく見える。

 その隣にサクラが立ち、あえて明るい声を出した。


「観てくだサイ。キレイな景色デスネ」

「ああ……。東京タワーがよく見える。君が観てきたスカイツリーも見渡せるじゃないか」

「さすが日本デス。すごく美しいデス」


 部屋は25階の高所。

 この高さ、そしてこの位置であれば窓からの狙撃はない。

 天野は夜景に見惚みとれているサクラを置いて部屋を出ると、すぐさま廊下に立っていた黒崎を問い詰めた。


「おい、どういうことだ。護衛がお前ら2人だけとは。昨日より減っているじゃないか」


 黒崎は唇を歪めながら言った。


「ホテルを変えれば危険は少ない。そのため護衛は最小人員で良いだろう、という上の判断だ」


 天野は「馬鹿馬鹿しい」と呟き、大きく両手を広げた。


「昨日の襲撃犯の武装を忘れたのか? あれだけの装備で襲ってきやがったくせに、もう諦めてくれると楽観視しているのか? それとも何か? 金城はあいつらに勝てるほど強いのか?」


 黒崎は口唇を噛み締めた。

 黙って俯いている。


「おい金城よ。お前、ライフルにサブマシンガンに拳銃。おまけに手榴弾を所持した3人相手に、1人で立ち向かえるのか?」


 金城も黙って俯いた。

 天野は大きく天を仰いだ。


「何を考えているんだお前らのボスは!? 敵が武装を強化して再襲してくるに決まってるだろう!? どうせ内通者が見つかったワケじゃあるまい。お前らの様子を見ていれば、このホテルが敵に伝わっている可能性があることも理解できる。……いや、そうか」


 天野は舌打ちした。


「サクラは殺されても構わない、と考えているのか? まさかお前らが内通者じゃないだろうな」


 天野は構えて2人に向き直った。

 黒崎は冷静に言った。


「誤解するな。俺たちは内通者じゃない」

「ならばお前らの狙いは何だ!? 俺には理解できんぞ! ここまで来て秘密を貫くのか!?」


 黒崎は諦めて口を開いた。


「……天野、お前が昨日言った通りだよ。捨駒だ。俺たちは2人で襲撃犯を迎え撃つが、あえなく殺されるんだ。日本は最善を尽くしたが王女は殺されました、というシナリオなんだよ」

「なんだと……!?」


 天野は驚いて黒崎と金城の顔を睨みつけた。

 黒崎も金城も、血の気が引いている。

 冗談を言っている顔ではない。

 2人の顔に死相が浮かんでいる。


「お前ら……。ボスに死ねと、言われたのか」


 黒崎は苦笑した。


「そんなはっきりとは言わない。ホテルは変えた。危険は少ない。最小人員で護衛できる。危険があれば撃退しろ。これが上からの指示だ」


 黒崎は呆れながら言葉を続けた。


「内通者が誰かもわかってないのにそんな指示だ。死ねってことだ。天野、お前の表現がピッタリさ。俺たちは捨駒だよ」


 天野は「クソが」と呟き、壁をドンと叩いた。


「ふざけてやがる。そんなくだらん事情に巻き込まれてたまるか。俺は王女を守ってみせる。貴様らが死のうと知ったことじゃない。だが、俺は王女を守るぞ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ