表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼が上手にお姫様を守る方法
85/91

天野くんと外務省の夜





 黒崎の運転する車は外務省に入り、VIP待遇の宿舎へと向かった。


 外務省のある霞が関は、国内でもトップクラスの要人が集まるエリアだ。

 すぐ側には皇居。桜田門には警視庁。通りに立っている警備の人間も圧倒的に多い。ここならば危険は少ないだろう。


(しかし、いくら何でも所持している武器が少なすぎる……)


 天野は武装の面が心配だった。

 持っている武器は「鉄板を仕込んだ靴」。

 護身用として持ち歩いている「メス」が2本。

 ホテルでは奇跡的に襲撃犯を返り討ちにしたが、マシンガンや拳銃に対抗できる装備ではない。


「おい、黒崎よ」


 宿舎に到着すると黒崎を呼んだ。


「本当に俺に武装させないつもりか? さすがにテロリストに対して勝ち目はないぞ」


 黒崎は挑発するように笑った。


「腕には自信があるんじゃなかったのか? 民間人の武装を許せる訳がないな」


 天野はため息を吐いた。


「仕方ない。いざとなったらお前を盾にして死んでもらい、お前の拳銃をいただくよ。別に俺様はお前が死んだところで悲しくも何ともないからな」

「なんだと……?」


 黒崎は挑発に乗り、天野をギロリと睨みつけた。

 天野も負けじと、上から見下すように黒崎を睨みつける。


「なんだ? 何か文句があるのか? 武装をさせないお前が悪いんじゃないか」


 天野はいつものスタンスを崩さない。

 黒崎は唇を歪め、吐き捨てるように言った。


「……本当に、口の減らないガキだな。何を食って育てばそんなひねくれた性格になるんだ? まずお前から始末してやりたいよ」

「ほう? お前にやれるのか? 俺様にとって、お前などゴミクズ程度にしか感じていないぜ。試してみるか? 俺様も負け犬の鳴き声が聴きたいと思っていたんだ」


 両者は額をつき合わせた。

 互いの身長はほぼ同じ。

 激しく睨みあう。


「……このクソガキめ」


 黒崎が鼻を鳴らし、天野から静かに離れる。


「いい度胸をしてやがる。お前がどんな名医になっても、お前の病院にだけは行きたくないものだな」


 黒崎はそう言うと宿舎を後にした。


「さて……」


 宿舎を見回しSPの数を確認する。

 正門とロビーに1名ずつ。

 部屋の入り口にも2名配置されている。

 自分が担当すべきは室内だろう、と感じ、天野はサクラのもとへ向かった。


「天野サン、よろしくお願いいたしマス」


 サクラが改めて頭を下げた。


「こちらこそよろしく頼む。襲撃犯が撃退され、敵は計画を練り直しているはずだ。今夜は安心できるだろう。まずは明日のスケジュールを教えてくれないか?」

「ハイ。こちらになりマス」


 サクラはスケジュール表を取り出した。

 じっと読んでみるが、サクラの母国語で書かれており、さすがによくわからない。

 サクラはそれを察し、説明を始めた。


「午前中はアサクサにて博物館を見学し、昼は大臣の方々と会食。午後は神社に寺院やスカイツリーなどを観てまわりマス。夕方は日本のロイヤルファミリーの皆サンと歓談。その後ホテルに戻りマス」


 天野はスケジュール表を見て唸った。

 襲撃するタイミングは何ヶ所もある。

 だが、国内外のマスコミが取材のためについて来るだろう。反王政派とやらは、マスコミの前で自国の王女を殺害するだろうか。

 天野は思案しながらサクラに尋ねた。


「君の国の情勢が知りたい。反王政派というのはかなり強いのか?」

「ハイ。かなり強いデス。実は私の国は、少々不安定な状況にありマス」


 琥珀色の瞳は真っ直ぐに天野を見つめている。


「国王である父上は高齢。王位継承の時期が近づいてありマス。国は民主制を取り入れているとはいえ、父上の持つ影響力は小さくありマセン。それを無力化したいと考えている方々が、反王政派なのデス」

「だが、君が殺されても他に王子や姫がいるだろう? 王位が継承されるのは、どちらにしても変わらないはずだ」


 サクラは小さく頷いた。


「私には従兄弟が1人ありマス。まだ9歳。しかし男の子なのデス。反王政派は女王として私が君臨するよりも、王子に王政を継がせたいと考えているのデス」

「なるほどね。若い王子に継承させ、王政を傀儡かいらい化させたいのか。よくありそうな話だ。出来損ないの映画シネマのようだな」


 天野は腕組みをして思案した。

 タバコを取り出しながら尋ねる。


「王女の前で失礼だが、タバコを吸っても構わないか?」

「もちろんデス」

「明日の宿はどこだい?」


 サクラは都内にある一流ホテルの名を告げた。


「ほぼ間違いなく、襲撃はそのホテルになるだろう。親日派の王女を日本で殺すということは、日本との関係を悪化させることに等しい。日本にゆかりのある場所は避けるだろう。それとも反王政派は、日本に喧嘩を売っても構わないと、そこまで考えているのかい?」


 サクラは首を横に振った。


「反王政派は決して日本との関係を悪くしたいとは思っていマセン。天野サンのお考え通りかと思いマス」

「そうか。ならば、今夜は休もう」


 天野は部屋を見回した。

 天野たちが話しているリビングとは別に、ダブルベッドが置かれた部屋が2つ。片方の部屋は2人の侍女が使うだろう。


「俺はここで眠ろう。君はシャワーでも浴びて眠るがいい」

「すみマセン……。こんな狭いところで……」

「気にすることはない。さすが外務省のソファだ。良い夢が見れそうだよ」


 天野はごろんと寝転がり、サクラに笑ってみせた。



*************



 その夜は天野の読み通り、襲撃されることはなかった。

 翌朝になると黒崎ともう1人、新しい男がサクラを迎えに来た。


「サクラ王女、本日は私とSPに加えて、金城きんじょうという者が護衛につきます」


 金城は黒崎よりも年下の若い男だ。

 長髪の黒崎とは対称的な短髪。すらりとした細身の体格。だが、かなり鍛え込まれた肉体の持ち主だ。


「護衛をつとめる天野だ。よろしく頼む」

「金城です。所属は同様です。本日はよろしくお願いいたします」


 互いに手を差し出し握手する。

 ごつりとした大きな手だ。

 捕縛術などにけているのだろう。

 この男と素手でやり合うのは危険だな、と天野は感じた。


「サクラと申しマス。この度はよろしくお願いいたしマス」


 サクラは丁寧に頭を下げている。

 天野は背伸びとあくびをしながら、感心したように黒崎に告げた。


「さすが外務省のソファだ。実に寝心地が良かった。しかし、昨日銃撃を受けて負傷したというのに、黒崎が護衛に立つのか?」


 黒崎は天野を嫌そうに一瞥した。


「そのためにサポートとして金城をつけた。金城はかなりの実力者だ。お前でも相手にならないさ」


 天野はニタリと悪い笑みを浮かべた。


「学習したじゃないか。自分だけじゃ護衛できないと判断したんだろう? しかし負傷したくせに護衛役を変えないとは、オタクのボスもなかなかのドSだな」


 黒崎はそれを無視してサングラスをかけた。

 金城も同じサングラスをかける。

 天野はそれを見て言った。


「なんだ、渋いサングラスじゃないか。俺様の分はないのか。くれよ」


 黒崎は完全に天野を無視して、ずんずん歩き出した。


「おい金城よ。お前の先輩、随分と愛想がないな」


 金城も天野を無視して黒崎の後を追いかける。

 天野は内心舌打ちした。


(やれやれ……。護衛のフォーメーションの打ち合わせも、スケジュールの確認もないのか。ガキ相手にムキになりやがって。本当に頼りになるのかコイツら)


 天野は仕方なくサクラに言った。


「サクラよ、本日は君の隣に立たせてもらう。だが、王女の隣に俺のような出で立ちの民間人が立つのは不自然だろう」


 天野は苦笑しながら衣服を指さした。

 天野は着替えなんて用意していない。

 今もずっと白衣を羽織っているのだ。


「だから、俺は君の『主治医兼通訳』であることにしてくれ。意味のわからない日本語が少しでもあれば尋ねろ」

「わかりマシタ。頼りにしていマス」

「どうせお偉いさんは堅苦しいエピソードしか話さないだろう。俺様が面白おかしく説明してやるよ」


 サクラは嬉しそうに琥珀色の瞳を輝かせた。


「ウフフ。とても楽しみデス」

「あと誰かに俺と離れるよう指示されても、必ず隣に置くようにと主張してくれ。俺は君を守る最後の盾になるのだからな」


 サクラは神妙な顔つきで頷いた。


「わかりマシタ。天野サン、危険な任務をお願いしてしまい、本当にごめんナサイ……」


 切なげに肩を落とすサクラの背中を撫で、天野は軽やかに笑った。


「案ずることはない。お姫様の命を守ることなんて、俺にとっては『お茶の子さいさい』さ」


 サクラはきょとんと小首を傾げた。


「オチャノコサイサイ? それは何デスカ?」


 天野は苦笑しながら答えた。


「『A piece of cake』。簡単な仕事ってことだよ。この天才クソ野郎にかかれば全てうまくいく。俺が隣にいる限り、君は世界の誰よりも安全なのさ」


 指先をパチリと鳴らし、天野は気障ったらしい笑みを浮かべている。

 サクラはその笑顔に不思議な頼もしさを感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ