天野くんの後日談
その日、天野はテラスにいた。
昼食を食べながら、奥田の結婚式の写真を眺めている。
美しい香澄の姿がほとんどだが、ケーキを顔面にはりつけた奥田の写真が出てきて、天野は思わず苦笑した。
「師匠! おはようございます!」
「ほう弟子か。久しぶりだな」
前島がうどんを持ってテラスに上がってきた。
そして驚いてテーブルの上を見つめた。
「あれ師匠、定食を食べてるんですか? しかもこれ、一番お高い定食ですよ。パンじゃないんですか?」
「ああ、ちょっと臨時収入があってな。たまには贅沢がしたくなったんだ」
前島はお盆をテーブルに載せると、すぐさま天野が見つめている写真に目をやった。
「あら、結婚式の写真じゃないですか。もしかして奥田先輩の結婚式ですか?」
「そうだ。お前があっさり欠席したやつだ」
「ドラマの収録がなければ参列したのに……。うわぁ、新婦さんのドレス綺麗ですねぇ。いいなぁ。私も結婚したいなぁ。お医者さんのお嫁さんになりたいなぁ」
写真を見ながらうっとりしている。
しかし、中にあった1枚を見て、前島はぎょっとした。
「な、何ですか? この異様な4人組は?」
『混沌のカルテット』の集合写真だ。
4人が友情を確かめあった後に、天野が記念として撮影したものだ。
全員が号泣した後のため、かなり醜い顔をしている。
「ブサイクなヤツらだろ? 医学部のOBたちだよ。『混沌のカルテット』と呼ばれていた仲良し4人組さ」
「ふむふむ。タキシードを着ているのが奥田先輩ですね。確かにブタ野郎ですね」
そこに涼太が上がってきた。
「勇二に前島さんじゃん。相変わらずイチャコラしてるねぇ。あれ? 何その写真?」
「涼太さん知ってますかね。混沌のカルテットですよ」
涼太は嬉しそうに写真を見つめた。
「うわぁ、懐かしいなぁ。奥田先輩に宮内先輩、あとは覚えてないなぁ」
「アイツら、卒業して別々の道に進んでも、集まればすぐ仲良し4人組に戻っちまう。友情とは愉快なものだな」
涼太が写真を見つめながら言った。
「先輩たちが『混沌のカルテット』だったら、僕らは何だろうね」
「おいおい、俺様は天才クソ野郎だ。孤高の存在だぜ?」
前島がニヤニヤして天野の顔を見上げる。
「師匠ってば混沌のカルテットに嫉妬してますね。大丈夫ですよ。師匠には涼太さんというコンビに、私という弟子がいます」
「そうそう。まさにトリオだよね。何かカッチョイイ名前が欲しいね」
「なに……?」
天野は驚いたように2人を見つめた。
前島がその視線に気づき、のんびり尋ねた。
「どうしたんですか師匠? 変な顔しちゃって」
「いや……。そうか、お前らは……」
自嘲したように微笑む。
「クックックッ……。そうだな。俺は1人でもなかったな。涼太に前島よ。いつも俺といてくれて、ありがとうな」
前島と涼太は礼を言い出した天野を気味悪く見つめた。
「……涼太さん。なんか師匠が変ですよ」
「うん、『ありがとう』なんて数年ぶりに言われた。ラリってるのかな」
天野は眩しげに『混沌のカルテット』の写真を見つめた。
「これが友情の絆か。意外と悪くないものだな」
前島と涼太はさらに天野を気味悪く見つめた。
「うげぇ、聴きました? 発言がポエミーです。師匠ってばクソおかしなこと言ってますよ」
「あれはやばいね。完全に薬をやったね。いつか手を出すんじゃないかって心配してたんだよ。通報したほうがいいのかな」
木漏れ日がさすテラス。
手の中には4人の男たちの写真。
いつまでも色褪せることのない絆。
天野は眩しげに目を細めて、『混沌のカルテット』のはじけるような笑顔を眺めていた。
(おしまい)
ご愛読いただきありがとうございます。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。




