天野くんの後日談
「……それはそれは。随分と楽しい旅行だったみたいだねぇ……」
学生食堂の2階テラス席。
天野たちの土産話を聞き、涼太は案の定不機嫌になっていた。
「スネるなよ。土産だって買ってきたじゃないか」
「土産っていってもさぁ。マジでこれだけなの?」
テーブルの上には無骨な黒い機械。
小型のスタンガンだ。
威力が強すぎるため、日本で購入することはできない。
「持ち込むのに苦労したぜ。存分に使え」
涼太はがっくりと肩を落とした。
前島が励ますように言った。
「涼太さん、私からはチョコですよ」
「あはは……。チョコかぁ、ありがとう。ところでさぁ、まきりんからはないのかな?」
「まきりんからはないです」
またがっくりと肩を落とす。
天野は不満そうに声をあげた。
「なんだ、不満なのか? こいつは日本じゃ手に入らないんだぜ。これで少しは『稲妻キック』も強くなる」
黒い機械のスイッチを押す。
「ジババッ」と過激な音が鳴り響く。
熊だって裸足で逃げ出すほどの威力を持つあるスタンガンだ。
「何かグアムっぽいものが良かったなぁ……。というか、僕もグアムに行きたかったなぁ……。ねぇ前島さん、次の海外ロケの予定はないの?」
「ありますよ」
「えっ!? マジで!? じゃあ今度は僕をSPとして雇ってよ!」
「アジアをめぐるワールドツアーなんです。かなり長くなりますよ。オフの時間もないし、ちょっとお呼びできませんね」
涼太は再び肩を落とした。
もう肩が地面を突き破ってマントルに達するのではないか、というほど落としている。
「あ、涼太さん、これはどうですか? グアムでの生写真ですよ」
前島が涼太を励ますため、鞄から何枚かの写真を取り出した。
「えぇ! ホントに! 見たい見たい!」
生写真を見て、涼太は歓声をあげた。
「ああ!!! まきりんの生写真だ! しかも水着じゃん! これ貰ってもいいのかな?」
「いいですよ」
「やった!」
デレデレしながら写真を漁る。
「……あれ」
その中の1枚を見て、涼太の動きが止まった。
「……ゆ、ゆゆゆ勇二……? こ、これはなにかな?」
夕陽に照らされた天野と柏田のツーショットだ。
柏田は天野に抱かれ、幸せそうな笑顔を浮かべている。
「ああ、それか。綺麗だろ。夕陽が」
「そこじゃないよ! なんでまきりんと抱き合ってんのさ!?」
前島がため息を吐きながら言った。
「まきりん、それ何枚も印刷して家に飾ってるんです。師匠、罪作りすぎです」
「えっ……。なにそれ……! ま、まさかさ、まきりんも勇二の『毒牙』にかかったの……?」
前島が不満そうにコクンと頷く。
涼太は跳ね上がって叫んだ。
「勇二ぃ!!! 今日という今日は決着をつけよう! 立て! まきりんをかけて勝負だ!」
空手の形を構えた。
天野はにやにや笑いながら立ち上がった。
「ほう? 組手か。お前とは久しぶりだな。いいぜ、ちょうどこいつの威力を試したかったんだ」
天野はスタンガンを手にとった。
グアムからの土産品だ。
熊だって裸足で逃げ出す高威力のスタンガン。
涼太が慌てて声をあげた。
「ゆ、勇二さぁん……。それは、さすがに……。卑怯じゃないかなぁ……」
天野は極悪の笑みを浮かべ、ゆっくり涼太に向い直った。
「卑怯だと? それは天才クソ野郎への褒め言葉だな」
「いや、待って! ちょっと待って! 待っててば勇二! やめて! 僕はユーのフレンド! ギブミーマイフレンド! 友達にスタンガンを向けるのはやめて! もうイヤだって! もうこのパターンはイヤだっての!!! って、うわ、やめ……ぎゃあああああ!」
テラスに絶叫が響き渡る。
前島は嬉しそうにいつもの穏やかな日常を眺めていた。
(おしまい)
ご愛読いただきありがとうございます。
何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。




