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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼女が上手にグアムでバカンスする方法
69/91

天野くんのバカンス




【グアムロケ2日目】

※イパオビーチ・現地時間AM11:15



 グアムロケも2日目。


 太陽の下で前島と柏田のツーショットが撮影されている。

 これが終われば待ちに待ったオフ。

 2人とも全力で取り組んでいる。


「しかし、危険の気配はまるでないな」


 天野は残念そうに呟いた。

 グアムは平穏そのものだ。


「海外ロケのほうが案外平和なものですよ。むしろ国内のほうが気を使いますね」

「つまらんな。グアムのギャングとも一戦交えてみたかったのだが」

「物騒なことを仰らないでください。もう撮影が終わりますよ」


 川口の言う通り、2人の撮影がようやくクランクアップした。

 前島も柏田も飛び跳ねるように川口のもとへやって来る。


「マネージャー! あとは帰りの時間までオフですよね!」

「ええ、2人ともお疲れ様。良く頑張ったわね」

「やったぁ! 師匠! 行きましょう!」

「どこに行くんだ?」

「買い物ですよ! 買い物! グアムに来たら買い物しかありませんよ!」


 柏田がそれをさえぎるように口を挟んだ。


「天野さん、一緒にビーチで泳ぎませんか!?」

「ビーチか、それいいな」

「し、師匠! 師匠は私のSPなんです! 買い物に付き合ってくださいよ!」


 天野は面倒くさそうに言った。


「俺様は女の買い物に付き合うのが嫌いなんだ。ビーチで過ごしたいな」


 前島は天野の腕を掴み、無理やり引っ張った。


「たまには弟子にも優しくしてください! 行きましょう!!!」




【グアムロケ2日目】

※グアム・プレミア・アウトレット・現地時間PM2:40



 しょうがなく天野は前島に連れられて、ショッピングモールへ向かった。

 財布役として川口も同行だ。


「ねぇ、まきりん! これみんなに買っていこうよ!」

「うん。こっちも可愛いね」

「本当だぁ! 全色欲しいなぁ……」


 2人は化粧品やマニキュアなどを、ぽんぽん購入していく。


(チッ、まずいな……)


 天野は周囲を警戒していた。

 ショッピングモールの中は日本人で溢れている。

 面倒ごとが起きそうだなと感じた。


「……ねぇ! 伊達ってば! あれ見てよ!」

「なんだ加藤。集中力が途切れるから大声を出すな」


 ひとりの小太りな男が気づいた。

 前島たちを指さしている。


「あれ! あれってさ! ゆうこちゃんと、まきりんじゃない!?」

「はぁ……? まきりんたちがグアムにいるワケない……うおっ! ほ、ほんとだ! やべぇ! 話しかけようぜ!」


 2人組が駆けてくる。

 天野はすかさず壁役となり、2人組の前に立ちはだかった。


「悪いな。貴重なオフなんだ。遠慮してくれ」

「な、なんだてめぇ!!! 邪魔だ! どけよ!」


 天野は舌打ちして相手を睨みつけた。

 見た限り高校生ぐらいの年頃だ。

 片方の男は平々凡々の顔立ち。もう片方は小太りのメガネ。

 恐らく修学旅行で訪れているのだろう。


「ほう……。ガキのくせに生意気な口を叩くじゃねぇか……!」


 天野は全身から殺気を解き放った。

 飢えた肉食獣のような気配。

 高校生の2人は瞬時に青ざめた。


「そ、そそそそそそのぉ……ぼぼぼくたちはあ……彼女たちのファンでしてぇ……」


 天野は即座に平凡な男の手首を掴んだ。

 乱暴に逆側へと捻り上げる。

 男が「ひいい!」と悲鳴をあげた。


「俺様はSPだ。俺様のターゲットに近づくやつは全員潰すぞ。グアムに来てまで骨を折りたくはあるまい。大人しくグアムの街でも観光してろ」


 男は涙目でコクコク頷いた。

 小太りの男は恐怖のあまり失禁しているようだ。

 それも無理はない。

 天野の放つ殺気は、下手な極道より怖いのだ。


「わかったな? わかったならば、消えろ」

「は、はい! すんませんでした!」


 2人組は脱兎の如く逃げ去った。

 その様子を眺めていた柏田は、うっとりと乙女の声をあげた。


「天野さんは頼りになりますね。やっぱり初カレシは天野さんがいいなぁ」

「残念でしたー。まきりんは恋愛禁止条例で恋愛禁止ですぅー」

「ゆうこちゃんだけズルい。私も卒業しよっかなぁ」


 その言葉を聴き、川口が動揺しながら尋ねる。


「ま、麻紀ちゃん? 今のは冗談よね?」

「うふふ。どっちかなー?」

「麻紀ちゃん! お願い! あなたはまだダメ! まだ卒業しないで!」


 川口が泣きついている。

 天野はそれを見てため息を吐くばかりだった。




【グアムロケ2日目】

※タモンビーチ・現地時間PM3:40



 前島たちの買い物が終わった。

 荷物を一旦ホテルに預け、天野たちは「タモンビーチ」へ向かった。


 ビーチでは前島と柏田が一般客に混じって、ボードで遊んでいる。

 天野はフルーツのジュースを片手に持ち、のんびりグアムの空を見上げていた。


「いい風だ……。こんな休日も悪くないな」


 常夏の陽気と風が心地よい。

 空を眺め鼻歌を奏でているとスマホが鳴った。

 涼太からの着信だ。


「……おう、涼太か」

「どうしたの? 今日はお昼食べないの?」

「今、グアムに来ていてな」

「グアム!?」


 涼太の声が大きくなった。

 そういえば、涼太には結局グアムに行くと伝えていなかった。


「な、な、なんでグアムになんかいるのよ!?」

「頼まれたんだよ」

「頼まれたぁ? なにをさ? 誰によ?」

「前島に頼まれて……おっと、噂をすれば本人が来たぞ」


 携帯で話している天野を見つけて、前島が嬉しそうにやってきた。


「師匠? 誰と話してるんですか?」

「前島、涼太からだ。代わるか?」

「涼太さん! はい! 代わります!」


 天野は前島にスマホを手渡した。


「あ、涼太さーん。前島ですよー」


 何か涼太が喚いている声が聴こえる。


「そうですよ。涼太さんにお土産買っていきますね」


 前島は天野に電話を戻した。


「そういうワケだ」

「どういうワケよぉ!? ちゃんと説明してくれないかな! かな!?」

「だから、またボディガードを頼まれたんだよ」

「えぇっ!? 前島さんに?」

「ああ、そうだ。正確にいえば、前島と柏田に頼まれたんだ」

「ま、ま、ま、ま、ままままきりん!!! まきりんも一緒なの!? グアムにいるの!? 僕はまきりん推しだよ! なんで僕を誘ってくれなかったのさ!!!」

「いや、涼太も呼ぶかと訊いたんだが、2人とも俺だけでいいって言うからよ」

「そんな!? ウソでしょ!?」

「あ、おい、前島」


 海辺ではしゃぐ柏田のビキニの片方がずれて、左側の胸が露出している。


「なんですか師匠?」

「柏田の水着がずれて片乳が出てるぞ。注意してこい」


 前島が柏田の姿を見て「ぎょっ」とした。

 豊満な乳房がポロリしている。


「まきりーん! おっぱい出てるよ! 早くしまって!」

「……えっ? きゃあ!!! ほ、本当だ!」


 慌てて片乳を押し込む。


「……どう? もう大丈夫かな?」

「うん! ばっちり!」


 天野はその光景を苦笑しながら眺めていた。


(まったく騒がしいヤツらだ)


 グアムの心地よい風と太陽を浴び、天野は涼太に語りかけた。


「いやぁ、涼太よ。グアムはいいぞ。心の洗濯とはまさにこのことだな。お前も良かったら来いよ」

「そりゃ行きたいっての! なんだよその余裕!?」


 涼太が「ぎゃーぎゃー」喚いている。

 こちらもかなりやかましい。

 やはり誘わなくて正解だったな、と思いながら言った。


「じゃあな。電話代が高いから切るぞ」


 電話を切ると、少々厄介な連中が柏田に絡んでいるのが見えた。恐らく地元の不良だろう。

 少々油断したな、と反省しながらビーチサンダルを脱ぎ捨て、柏田のもとへ走った。


「ちょっと待て。俺の連れだ。悪いが引っ込んでくれ」


 天野は英語で語りかけた。

 相手は3人。肌は浅黒く体格は良い。ハーフパンツの水着姿で上半身はタトゥーだらけだ。

 しかも厄介なことに1人の男の尻ポケットには拳銃がある。


 柏田は男たちに囲まれ、すっかり怯えていた。

 1人の外国人がニヤニヤしながら天野に言った。


「お前に用はない。引っ込んでろクソジャップのイエローモンキーが」


 突然、天野は男の股間を蹴り上げた。


「グアァッ!?」


 男たちはいきなりの暴力を放った天野に驚き、身構えた。

 その様子を天野は鼻で笑い飛ばす。


「お前ら、何考えてるんだ? そんな言葉使いしたら殴られるに決まってんだろ? 日本人が英語を知らないと思って舐めるなよ。クソ共が」


 汚い英語での挑発。

 舌打ちしながら柏田に声をかける。


「柏田よ、俺の背後にいろ。やれやれ、グアムにまで来て乱闘か」


 柏田は怯えて天野の背中に隠れる。

 股間を蹴られた男は、倒れながら「ファックファック」と、やかましく喚いている。


「さて……」


 天野が素早く突進した。

 狙いは拳銃を持った男。右手で目を潰し、左手で喉への貫手。男は喉元と目を押さえ、思わず前かがみになる。

 その首を正面から抱え込むと、フロントチョークで絞め上げながら男の動きを封じ込める。そして尻ポケットに手を伸ばした。

 あっさりと拳銃を奪い取り、男を前蹴りで吹き飛ばす。


「ほう、安い銃だ」


 天野は拳銃を見つめ、極悪の笑みを浮かべた。

 男たちは必死に両手を広げている。

 「撃つな」とジェスチャーしているのだ。


「お前らの銃だぞ? 馬鹿なイエローモンキーでも撃ち殺すための銃だろ? このレイシスト共が」


 英語で男たちに怒鳴りながら拳銃を突きつける。

 伏せるように促した。


「ジャップだからって甘く見るなよ。このクソッタレどもが」


 天野は英語でののしりながら銃身をスライドさせ、弾薬を全て取り出し海へ投げ捨てた。

 そして空に向けて、一発撃った。



 ──パン! 



 命を簡単に奪う発砲音が響く。

 男たちは恐怖に震え上がった。

 天野は拳銃を投げ捨てると、両手をボキボキ鳴らしながら男たちに飛びかかった。


「おらぁ!」


 1人の頭を掴み、側頭部への膝蹴り。

 その一撃であえなく昏倒。

 残りは目と首元を押さえて呻く男と、股間を押さえている男のみだ。

 もう勝負はついていた。


「物足りないがこの辺にしておこう。場所を変えるぞ」

「は、はい!」


 天野は柏田の手を取り、前島に声をかけた。


「前島、ちょっとトラブルになった。帰るぞ」

「はい! 見てました! 戦略的撤退の準備はできてます!」

「できた弟子だ。行くぞ」

「はい!」




【グアムロケ2日目】

※アウトリガー・グアムリゾート・現地時間PM5:10



 天野たちは急いでホテルに戻った。

 ホテルの客しか入れないプライベートプールへ向かう。


 念のためガードマンに不良たちの特徴を伝え、中に入れないよう警告した。

 そこに川口がやって来た。


「天野様。何かトラブルですか?」

「ちょっと地元のチンピラに絡まれてな。舐めたこと言われたんで、うっかり潰してしまった。申し訳ない」


 悪びれた様子もなく謝っている。

 川口は苦笑しながら言った。


「前島と柏田が無事なら構いません」

「ああ、それは大丈夫だ。まったく、美人ってのは厄介な生物だ。どんな国にいても、厄介な連中に絡まれる」


 天野がため息を吐いていると、前島が慌ててやって来た。


「師匠、ちょっといいですか?」

「なんだ」

「まきりんが師匠に会いたがってます」


 天野がプールに向かうと、青ざめて自らの肩を抱く柏田の姿があった。


「どうした柏田? 怖かったか?」


 柏田はこくんと頷いた。

 そして、そっと天野に抱きついた。

 前島が声にならない悲鳴をあげている。


「そうか……。だがもう大丈夫だ。安心しろ」

「はい……。天野さん……すみません……」


 柏田は腕の中で微かに震えている。


「ま、まきりん……。ちょっと抱きつく時間、長くない……?」


 恐る恐る声をかけられても、柏田は離れようとしない。


「間もなく日が沈む。グアムのサンセットを見て帰ろう」

「はい……」


 柏田は天野に抱かれたままだ。

 前島はそわそわと落ち着きがない。

 天野の周りをうろちょろしている。


「まきりん……。もう、離れても、いいんじゃない……?」


 柏田は何も答えない。

 完全に無視している。


「天野さん……。しばらくこうして頂いてもいいですか?」

「ああ、構わないぞ」


 グアムの美しいサンセットが天野たちを包み込む。

 オレンジ色に染まる世界。

 水平線の彼方に今日が沈んでいく。


 天野は絶景に見惚れ、柏田はその横顔に見惚れ、前島は不満気に頬を膨らませ、後方では川口が苦笑しながら3人を眺めている。


 こうして天野たちのバカンスは終わりを告げた。





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