表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼が上手にホストになる方法
65/91

天野くんの後日談



 その日、天野は空を眺めながら、いつものテラス席でのんびりパンを食べていた。

 そこに弟子である前島がやって来た。


「し、師匠!!!」

「なんだ、前島か」

「こ、これが師匠の金髪! 超カッコイイじゃないですか! すごく似合ってます!」

「そうか? すぐに黒に戻すぞ。週末までには戻す」

「いやぁ、師匠の黒髪も好きですけど、金髪もイケてますねぇ。やっぱり男前だと何でも似合うんですね」

「まぁな」


 前島はスマホを取り出して、写真を見せつけた。


「これ、涼太さんが送ってくれたんです」


 ホストになった時の記念写真だ。

 『龍』と『光』がふてぶてしい笑みを浮かべている。


「ズルいじゃないですか。どうして私をホストクラブに誘ってくれなかったんですか?」

「お前、大した給料を貰ってないんだろ? 学生相手にふんだくるのは俺様の美学に反する」

「何を言ってるんですか! 私は天下のアイドル様ですよ? あぁ、ホストの師匠に接客されたかったぁ……。もうやらないんですか?」

「もう、やらん」


 前島はがっくりして机に突っ伏した。


「あっ、そうだ!」


 何かを思い出したようにスマホを持ち、天野の隣に並ぶ。

 ピロリーン、とシャッター音が鳴った。


「貴重なホスト師匠とのツーショット! いただきました!」


 嬉しそうにスマホを眺める。

 せっかくだから壁紙にしよう、いや印刷して部屋に飾るのも悪くないな、そんなことを考えているようだ。


「あれ? 前島さんじゃん?」


 そこに涼太がやって来た。

 大きなダンボールを持っている。


「あー!!! 涼太さんも本当に金髪だ!」

「うぷぷ、どうよ? 僕ちゃん結構、イケてるでしょ?」

「似合ってます! 涼太さんチャラいからピッタリです!」

「でしょ? 僕は顔立ちが派手だからさぁ、こっちのがウケがいいんだよねぇ。しばらくこれでいこうかなぁー」


 天野は涼太が持っている大きなダンボールに目をやった。


「なんだ? その大げさな荷物は」

「愛媛からの産地直送品だよ」


 中には大量のみかんが入っていた。


「おお、来たか。待ちわびたぞ」

「新井くんからの手紙も入ってたよ。林さんと一緒に頑張ってるみたい。結婚式に来て欲しいって。勇二には仲人なこうどもお願いしたいってさ」

「愛媛なんて遠いところに行ってられるか。感謝の気持ちにみかんを送れ、と返してくれ」

「あはは。わかったよ」


 天野たちは早速みかんを食べ始めた。


「うわぁ、甘いですねぇ。果肉がゼリーのようにプルンプルンですね」

「それは『紅マドンナ』だからな。1個1000円もする愛媛が産んだみかんの傑作だ。味わって食えよ」


 天野たちは新井のみかんに舌鼓したつづみをうった。


「……ねぇ、勇二」


 涼太がみかんを頬張りながら言った。


「前から言おうと思ってたけど、あれは卑怯じゃん。僕は自力でキャッチしたのにさ」

「ほう、やはり気づいたか」

「そりゃそうだよ。気づくのがフツーだって」


 天野はみかんを口に放り込み、不敵な笑みを浮かべた。


「医者の奥様方マダムには、夜遊びを好む連中が多くてな。その中でも特にホスト好きの連中に、歌舞伎町の良い店を紹介してやったのさ。しかも、医療界期待の天才、おまけにイケメンの御曹司が1日ホストをやる……。それだけの餌をばら撒いただけだよ。あんな金、あの連中にとっちゃいつもより安いぐらいだ。何せ一番高い酒がゴールドだぜ? しけた店だよ」

「どうせなら事前に言ってくれれば良かったのに」

「敵を騙すなら味方から、ってな。俺様の常套手段さ」


 前島は嬉しそうに天野を見つめた。


「相変わらず師匠はやり方が汚いですねぇ。勉強になります」


 涼太は呆れながら言った。


「しかしさぁ、何でホストなんかやる気になったの? 勇二、その手の連中は嫌いじゃん。心が動かされることでもあったの?」

「ああ、あった。新井の実家を尋ねたら『みかん農家』だと言うじゃないか」


 天野は新しいみかんを取りながら言った。


「俺、みかんが好きなんだ」


 みかんを頬張りながらタバコに火をつける。

 ゆっくり煙を吐き出し、空を見上げた。

 涼太も前島も、天野の次の言葉を待っていた。

 天野はそんな2人を不思議そうに眺める。


「……どうした?」

「いやいやいや……」


 涼太がツッコミを入れた。


「みかんが好き、の後は?」

「何もないぜ」

「ええぇ!?」


 涼太は慌てて天野に詰め寄った。


「何かあるでしょ!? 土下座する姿に心打たれた、とか。瞳に情熱と見込みがあった、とか。2人の真摯な態度に心動かされた、とか」

「何でいちいち土下座するヤツの頼みごとを聞かなきゃならないんだよ。こっちはボランティア団体じゃないんだ。土下座なんか俺様にしてみれば、ごくごく当たり前の行為だ。俺様は産地直送のみかんが食えそうだと思ったからやっただけだよ」

「そ、それだけなの?」

「そうだ」


 天野はみかんを手に取り、太陽に透かせてみた。

 みかんが陽の光を遮る。

 まるでみかん自身が太陽として輝いている、そんなようにも見える。

 天野は恍惚こうこつの笑みを浮かべた。


「みかんは素晴らしい。オレンジ色の果実。太陽の光を放つ果実だ。皮を剥いても果肉が輝きを放ち、甘さと程よい酸味が俺様を震わせる……。前島、どうせ余るから持っていって構わんぞ」

「わぁ、ありがとうございます」


 前島は鞄にみかんを入れ始めた。

 涼太は髪をかきむしって叫ぶ。


「マジで!? マジで言ってんの! なにそれ!? たかが『みかん』のために、あんな苦労したっての!?」


 天野は涼太をたしなめた。


「みかんを馬鹿にするな。みかんに失礼だ。みかんは愛媛の心。農家の愛をみしめろ」

「なんだそりゃ! ワケわかんないこと言わないで! なんでみかんを食べるためだけに、ホストやんなきゃいけないのよッ!? みかんなんてさ、スーパーとか八百屋さんで買えばいいじゃんかよぉぉ!!!」


 今日も涼太がテラスで吼えている。

 至極当然なことを叫んでいる。

 天野と前島は涼太を無視して、のんびりと甘いみかんを頬張っていた。





(おしまい)





ご愛読いただきありがとうございます。

何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ