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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼が上手にホストになる方法
63/91

天野くんのパーリナイ




 年配の女性たちの手を引いて、天野は店への階段を下りていく。


「さぁ、レディたちおいで。足元に気をつけて」


 そのエスコート姿は実に洗練されていた。

 優しく握る手。小まめな気配り。親しみを浮かべた視線。英国紳士顔負けのエスコートだ。憎らしいほどに決まっている。

 この時点で女性たちは頬を赤らめ、天野が腰に手を回すだけで吐息を漏らしていた。


「ようこそ! いらっしゃいませ!」


 店長の仁とホストの翔が笑顔で出迎えた。


「ご新規3名様だ。一番大きいところを使わせてくれ」

「了解しました」


 天野は一番奥の席までマダムたちを案内する。

 店長も名刺を差し出して挨拶すると、新井と一緒に天野のヘルプについた。


「まずは乾杯しようよ」

「あらそうねぇ、しかし男前ねぇ」

「ねぇ、こんなに男前なんてねぇ」

「今夜は楽しめそうだわぁ」


 パジャマ姿のマダムが天野の太腿に手を伸ばす。さわさわと動く手のひらが、筋肉をでるように撫でている。

 天野はその手を優しく掴むと、マダムの耳元に唇を近づけ


「……悪い子だね」


 と、官能的なボイスを届けた。

 パジャマ姿のマダムは「きゃあきゃあ」と、生娘きむすめのような歓声をあげて悦んでいる。


「まずは最初の一杯、どうなされますか? 一杯目は店のサービスとして無料で……」

「おっと店長。野暮なことを言わないでくれ」


 天野は店長の言葉を遮ると「こんな素敵なレディたちに、安いお酒なんて似合わないよ」と言って、メニュー表をあっさり投げ捨てた。


「そうでしょ? なんたって俺様と飲めるんだよ? こんな機会、もう二度とないかもしれないぜ?」


 色気たっぷりの笑みを浮かべ、緑ジャージのマダムに顔を近づける。

 熱い吐息がかかる距離。微かに触れる鼻筋。情熱的な瞳の輝きに射抜かれる。唇を尖らせれば届いてしまいそうだ。

 マダムは熱にうなされたように頷いた。


「そうねぇ……。一番素敵なのを頂こうかしらぁ。皆様、よろしくて?」

「いいじゃないのぉ。早く乾杯したいわぁ」

「ねぇ店長さん、一番のお酒を持ってきてくださる?」


 店長は驚いてマダムたちに尋ねた。


「え、えっとぉ……。うちですとドンペリのゴールドになりますが、構いませんか?」

「それでいいじゃん。レディたちには輝くゴールドが似合うよ」

「あら本当? じゃあ、それにしちゃおうかしら」

「ド、ドンペリゴールド入ります!」


 翔が慌てて厨房からドンペリゴールドを持ってきた。

 シュワシュワした黄金色のシャンパンをグラスに注ぐ。

 そして、お決まりのコールを始めた。


「こちらの素敵なお客様からドンペリいただきましたーー! 従業員、全員集合! はい!!! ドンドンシャンシャンシャン! ドンドンシャンシャンシャン!」


ホストたちが集結し、全力で合いの手を入れる。


「ドンドン! (シャンシャン!)

 ドンドン! (シャンシャン!)

 ドンペリ! (飲んで!)

 ドンペリ! (ニョンで!)

 まだまだ! (飲めちゃう!)

 まだまだ! (いっちゃう!)

 ドンドン! (ペリペリ!)

 ドンドン! (ペリペリ!)

 角膜! (ペリペリィー!)

 お酒を飲むなら!? (ドンペリ!)

 カンパイするなら!? (ドンペリ!)

 色は何色? (ゴールドゴールドゴールドゴールド!)

 まだまだおかわりもっとイッちゃう!?」


 天野はマダムの肩を抱きながら「イッちゃう!」と叫んだ。

 コールの合間にも、マダムの耳元で甘い言葉を囁くことを忘れない。

 コールと乾杯が終わると、天野は爽やかな笑みを浮かべ言い放った。


「ねぇ、あれ見たくない? シャンパンタワー。黄金の滝なんて、輝くレディたちにこそ相応しいじゃない。俺見たいなぁ。レディたちがもっと輝くところが見たいなぁ。それにさ……」


 突如、天野はシャツのボタンをいくつか外し始めた。

 鎖骨を官能的にチラつかせる。

 雄のフェロモンが素肌から飛び散る。

 そして、偉そうに自らを指さした。


「黄金色に輝く俺様を見たくない? そんな姿、レディたちだけしか見れないぜ? ねぇ、見たいでしょ?」

「見たいわぁ!」

「早く見たいわぁ!」

「もっとぉぉ! もっと見せて欲しいわぁ!」

「仁! 響! シャンパンタワーだ!」

「は、はいっ!」


 店長と響(新井)は慌ててグラスを重ね、高さ1メートルほどのシャンパンタワーを作成した。

 そこに天野が遠慮なくドンペリを注ぎ込む。


「翔! 全然足りんぞ! ドンペリ全部持ってこい!」


 もう色なんて関係ない。

 シュポンシュポンとシャンパンを開け、手当たり次第にぶち込んでいく。

 カラフルな滝が作られ、その場は一気に盛り上がった。

 それを遠目で眺めていた涼太は、2人のキャバ嬢に言った。


「ねぇ……。僕らもいっちゃおうよ。乾杯したいなぁ」

「えー? 1杯だけって言ったじゃん」

「ゴールドなんて無理だよ。高すぎるもん」

「ダメなの? 君たちと乾杯したいのに」

「ゴールドなんて入れたことないってば。ゴールドは無理」

「そっか。ゴールドは無理、なんだね」


 涼太はペロリと舌なめずりした。

 背の低いキャバ嬢はガードが緩い。

 押せば押し倒せる。


「僕はあんな下品な色じゃなくて、君の服装みたいな可愛いピンクがいいな」


 背の低いキャバ嬢の肩を抱き寄せる。

 突然の接近に驚くキャバ嬢。

 一気に勝負を仕掛けた。


「ね、いいじゃん。あんなオバサンの下品な乾杯なんて見てらんないよ。君にこそシャンパンが似合うってのにさ」

「え、でもなぁ……」

「あんな下品なコールのために君から離れたくないし。君と出逢えた記念すべき夜を邪魔されたくないんだ。だからお願い。僕を助けると思ってさ。ね、いいじゃん?」

「うーん……。お兄さんのイッキ見せてくれるならいいけど……」

「オッケー! 翔! ピンドンお願い!」


 翔は慌てて厨房からドンペリのロゼを持ってきた。

 涼太は2人のグラスにロゼを注ぐと、さらに甘い声で囁いた。


「2人が飲み干す前に、僕がボトルの残りをカラにしたら、もう一杯ってどう?」

「え、それは無理でしょー」

「んー……。私ちょっと、見たいかも……」

「はぁ? それじゃタクヤに会えなくなっちゃうよ!」

「タクヤもいいけどさ、僕ともっと楽しい夜を過ごさない? そのほうが刺激的じゃん? それに君たちは、僕がこの街で初めて出逢えた女の子。この街で初めての乾杯。永遠に忘れられない乾杯。きっとこの出逢いは奇跡がくれた贈り物さ。どこにも行かせたくない。行ってほしくない。そのためなら、僕は泥水だって飲み干せる。ねぇ、いいでしょ?」


 涼太が得意の甘い声で2人に囁いた。

 ゲスでヘタレなキモオタの要素が目立つ男だが、涼太は基本的にナンパとコンパを3度の飯より愛するチャラ男だ。

 しかも、並のホストじゃ敵わないルックスの持ち主。

 口説き文句も、色気のある声質も、さりげないボディタッチも、抵抗感を抱かせない笑顔も、全てが一流のチャラ男。

 キャバ嬢の2人はコクンと頷いた。


「はいじゃあ、かんぱーーい!」


 実はこのチャラ男、恐ろしいほど酒が強い。

 女の子たちが半分飲み干したところで、あっさりボトルを空にした。


「はい!!! ごちそうさまー!!!」

「嘘でしょ!? はやーーい!」

「今度はアイツに飲ませてみようっか?」


 涼太は遥を指さした。

 遥は「ぎょっ」と怯えて涙目だ。


「えー。そんなにお金ない」

「じゃあ、ハウスボトルの焼酎飲ませようよ! それなら安いじゃん!」

「あははは! それなら見たい!」

「遥くん! さぁ飲んで! 飲んで!」


 遥が涙目で焼酎を飲んでいる頃、天野のテーブルでは、もう10本目のゴールドが開けられていた。


「なんだこの色は!? こんな薄い色のドンペリが飲めるか! 響! これ全部飲め!」


 ノーマルなドンペリを響に押し付けると、天野はマダムたちに囁いた。


「ねぇ、愛しのレディたち。アイツがボトル全部飲めたら、俺様がレディたちの頬にキスしちゃうってどう?」


 マダムたちは「キャーーー!」と歓声をあげた。


「飲んで! 飲んで!」

「キスして欲しいわぁ!」

「響くん早く飲んで!」

「は、はぁ……」


 響は歓声に応え、一気にドンペリのボトルを3本、立て続けに飲み干した。


「よくやったぞ響! ご褒美の時間だ!」


 マダムたちの頬に爆撃機と化した天野が、熱い口づけを落としていく。


「キャーーー!!! チュウされちゃったわよ!」

「響くん!!! もっと飲んで!!!」

「飲んで!! 飲んで!!」


 店長がさすがに天野を呼んだ。


「龍さん! さすがに飲ませ過ぎです! これ以上は掛けじゃ出せませんよ!」

「なるほど」


 天野はマダムたちに向き直り、残念そうに声をかけた。


「愛しのレディたち。これ以上のお酒はキャッシュじゃないとダメなんだってさぁー。店長に怒られちゃったよ。そんなこと言われたら場が冷めちゃうよねぇー」

「もう! 興ざめすること言わないで!」

「そうよ! 甘く見ないでちょうだい!」

「カードがあるわよ! カードが!」


 マダムたちは揃って財布からクレジットカードを取り出した。

 その色を見て、店長は青ざめた。

 カードの中でも最高ランク。ブラックカードだ。

 なんと、それが合計3枚。このカードに上限は存在しない。


「じゃあ……ドンドンシャンシャン! イッちゃう!?」


 マダムたちは狂乱状態で叫んだ。


「イッちゃう!!!!」

「じゃあ響! 俺様と一緒に飲め!」

「飲んで! 飲んで!」


 響はさらに飲まされ、天野自身もガンガン飲んだ。

 実はこのクソ野郎、恐ろしいほど酒が強い。


「りゅ、龍さん!!!」


 20本目のドンペリゴールドを開けたところで、店長が泣きついてきた。


「もうドンペリがありません!」

「はぁ? ねぇレディたち、もうレディたちに見合うお酒がないんだって。場が冷めちゃうよねぇー」


 マダムたちから「えぇーーー」と非難めいた声があがる。

 天野は翔に向って叫んだ。


「翔! ダッシュ!」

「は、はい!」


 翔は店長からお金を受け取り、店を飛び出した。

 金の尽きたキャバ嬢をとっとと帰した涼太も、天野の席に加わった。


「素敵なレディたち! 僕ちゃんもご一緒していい!?」

「キャーーー! こっちの子も男前じゃない!?」


 新たな男前イケメンの登場。

 マダムたちはご満悦だ。


「そんな嬉しいこと言われたら、ホッペにチュウしちゃう!」

「キャァァーーー!!」


 天野を中心として、ホストたちはこの太客に群がった。

 完全に貸し切り状態だ。

 ここまでの太客を満足させない理由なんて存在しない。

 天野が残っているシャンパンを全て飲み干し、イライラしながら叫んだ。


「おい仁! シャンパンは他にないのか!」

「龍さん! それが最後のシャンパンなんですぅ!」

「なんだと? レディたちにはシュワシュワした極上の酒しか似合わないんだぞ! 愛しのレディたち、代わりに店長の肉体美で我慢してくれない?」

「キャーー! 脱いで! 脱いで!」

「ほら仁! とっとと脱げ!!」


 店長はしぶしぶ脱ぎ始めた。


「店長の裸飲み見たい人!? はいはい! 俺見たい! レディたちはどうだ!?」

「見たぁぁーーーい!」


 店長は天野に煽られ、ウイスキーをガンガン飲み始めた。

 天野は舌打ちして、店長からボトルを奪い取る。


「そんなチンタラ飲んでどうする! こうだ!!!」


 一瞬でボトルを空にした。


「響! 取り替えろ!」

「は、はい!」

「いいね!!! 龍サマ! 最高じゃん!! よぉし僕ちゃんも飲んじゃうぞぅ!!」


 涼太も参戦し、光の速さでボトルを空にする。

 これだけ飲める上に、人にもどんどん飲ませるのだ。

 店にあるボトルが底を尽きようとしていた。


「しょうがない! 遥! 残ったボトル、まとめて全部飲め! 飲めたらレディたちにチュウしてやる!」

「キャアァァァッ! 飲んで! 飲んでぇーー!」

「いけいけいけいけいけーーー!!!」


 新井も、店長も、遥も。

 天野に無理やり酒を飲まされた。


「えぇーーい! こんな安い酒が飲めるか! 翔! 翔はまだか!」


 高らかに叫びつつ、緑ジャージのマダムのお姫様抱っこして持ち上げる。


「レディ……いや、俺様のプリンセスよ。今キスしたら、もう一度シャンパンタワーやっていい?」

「もちろん!!!」


 「ぶちゅう」と熱い口づけを贈る。

 他のマダムからも「私も!」「私にもちょうだい!」と悲鳴があがった。


「戻りましたぁ!」


 ようやく翔が帰って来た。

 両手に大量のドンペリを持っている。

 天野は指を「パチーーン」と鳴らして叫んだ。


「よし! タワーの時間だ! ドンドンシャンシャンいくぞ! 翔! まずはお前が飲むんだ!!!」


 涼太も両手にマダムを抱いて叫ぶ。


「さぁさぁ、まだまだパーティは終わらせないよーー!!!」


 結局、閉店まで天野たちのパーティは続いた。





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