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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼が上手にホストになる方法
62/91

天野くんとホストクラブ





 翌日。

 天野と涼太りょうたは表参道にいた。

 天野が行きつけにしている美容院に行くためだ。


「ねぇ、勇二……。ホントにやるの?」

「なんだ、俺とお前はコンビじゃなかったのか? 服も時計も靴も貸してやるんだから文句あるまい。クリーニング代ぐらいは出せよ」

「それはいいけどさぁ、僕ちゃんホストなんてやったことないよ」

「俺様だってないさ。全く興味がない職種だ」

「うわぁ……。心配だなぁ……」


 涼太は頭を抱えた。

 突然天野から、「重要な作戦を実行する。今すぐ表参道に来い」と呼び出され、何かと思って来てみれば、「一緒にホストやるぞ」との誘いだ。

 なぜ、ホストをやらなければならないのか、理由がさっぱりわからない。

 涼太は激しく困惑していた。


「言っておくが借金なんか作るんじゃないぞ。そこまでは責任取れん」

「うげぇ、マジで? 初日からキャッシュ持ってる娘を捕まえろ、ってこと? そいつはいくら何でもハードル高いよ」

「そこはお前の腕で何とかしろ」


 2人は美容院に到着した。

 天野は馴染みの美容師に「一流のホストっぽくしてくれ」と注文した。

 美容師も突然のイメチェン宣言に困惑している。


「あ、天野さん、マジですか……? 何かあったんですか?」

「ただの気分転換さ。いつか連れてきたブタ野郎よりもマシに切れよ。金髪に染めてパーマもあてて盛ってくれ。あと、あいつもな」


 天野は涼太を指さした。

 拒否権なんか存在しないようだ。

 涼太は自分の髪を見つめ、ため息を吐いた。


「わ、わかりました。一流のホストに仕上げてみせます」

「頼むぞ」



**************



 天野と涼太は長い時間をかけて髪を整えた。

 用意したスーツ、アクセサリー、時計、靴を装着して仕上げる。

 2人は全身鏡の前に立ち、互いの姿を眺めた。



挿絵(By みてみん)



「こうやって見ると、僕ら結構悪くないね。一流のホストじゃん」

「そうだな。俺様のスーツのおかげ、ってことも忘れるなよ」


 涼太が着ているスーツは、天野が持っていた一流ブランド品だ。

 小物や時計、靴まで一流品。医者のボンボン、という力をフル活用していた。


 2人はそのまま歌舞伎町へ向かった。

 新井が勤めるホストクラブに到着する。

 店はちょうど開店前。

 新井は店の前を掃除していた。


「新井……いや響だったか。待たせたな」


 新井はポカンと2人のホストを見つめた。


「あ、あの、どこかのお店の方ですか……?」

「何を寝ぼけたことを言っている? 天野だ」


 新井は驚いて叫んだ。


「あ、天野さんっすか!? えぇッ! マジすか!?」

「当たり前だ。俺様ほどの男前が世界に何人もいると思うな。こいつは涼太。俺たちが来ること、ちゃんと店長に話したか?」

「は、はい。池袋ブクロでやってた人が移籍先を探してる、ってことで話してあります。ちゃんとランカーだったって話しときましたんで、下っ端の扱いは受けないと思うっす」

「上出来だ。涼太よ行こう」

「オッケー。響くん、今夜はよろしく」

「あ、はい……」


 天野は店の中に足を踏み入れた。

 地下にある小さな店だ。

 4組も入れば店は満席になるだろう。

 店内では白スーツの男と、2人の黒スーツの男が開店準備をしていた。

 白いスーツの男が店長だろう。

 天野はえりを正しながら声をかけた。


「はじめまして。池袋でやってた天野です」


 店長は天野と涼太を見て、一瞬呆然とした表情を浮かべた。

 それも無理はない。

 天野も涼太も精悍な男前だ。

 背丈は180cmオーバーでスタイルも良い。

 しかも装飾品は最高級。

 高級具合だけを見ても、店長を遥かに上回っていた。


「あ、えっと、こ、こんな小さい店ですみません。店長の『じん』と申します。失礼ですが、どちらの店にいらっしゃったんですか?」

「池袋の『Rude Genius』って小さな店ですよ。ご存知でしょうか?」


 天野はしれっと適当な店名を口にした。


「いや、すみません。池袋は詳しくなくて……」

「いえ、お気になさらず」


 天野は丁寧に頭を下げた。


「本日は突然の体入を認めていただき感謝します。新宿は初めてなのでご迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いします」

「こ、こちらこそよろしくお願いします。お2人のような方に来ていただけるなんて光栄です。あ、おい、みんなこっち来て!」


 店長は他の2名を呼び寄せた。

 2人とも大したことのないルックスだ。

 ホストとしてもレベルが低い。

 店長で持っている店なのだろう、と天野は判断した。


「うちのしょうと、はるかです。あと響ってのがいるんですが……」

「いえ、響くんにはもうお会いしました。翔くんに遥くん、今日はよろしく頼むよ」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 翔と遥は「自分より格上のホストがきた」と判断したようだ。

 天野は2人と握手しながら、店長と奥の部屋に移動した。


「しかし、お2人ともご立派で……。ホントにうちの店でいいんですか?」


 店長はとても恐縮していた。

 涼太は「そりゃそうだよねぇ」と思いながら、自らの腕時計を眺めた。

 ロレックスに無数のダイヤがギラギラ光っている。

 この時計だけで、相手は「只者じゃない」と萎縮してしまうだろう。


 店長は住所などを尋ね、簡単に店の説明をした後、給料の話をしようとした。


「あ、給料は結構」

「……え? ど、どういうことですか?」

「今日は歌舞伎町の感覚を知りたいだけですから。売り上げは全て店に入れていただいて構いません」

「ほ、ほんとですか?」

「もちろん売り掛けがあれば被ります。それで構わないな涼太?」

「ええ、店長、よろしくお願いしますね」

「あ、ありがとうございます!」


 店長は深く頭を下げた。

 天野はそれを制して言った。


「源氏名は店長が決めていらっしゃるんですか?」

「そうなんですが、お2人であれば好きに決めていただいて構いません」


 天野は少し思案して言った。


「では店の空気に合わせましょう。自分は『りゅう』で。涼太、お前はどうする?」

「僕も店に合わせます。『ひかる』でお願いします」


 天野も涼太も強きの名前で攻めた。

 店長は自信満々の2人を見て、嬉しそうに言った。


「いやぁ、お2人が店に残ってくれれば、こんな心強いことはありません! よろしくお願いします!」


 天野たちは店内に戻った。

 もうすぐ開店だ。

 響も店の中で開店準備をしている。


「こちらが上座。上客の席になります。入り口へ近づくにつれてランクが下ります」

「なるほど。コールを教えていただけますか?」

「はい、了解しました。おい! みんな! コールだ! 翔!」


 店長が合図を送ると、翔が大声で叫んだ。


「こちらのお客様からドンペリいただきましたーー! 従業員、全員集合! はい!!! ドンペリィー!!!」

「シャンシャン!」

「ドンペリ!!!」

「シャンシャン!」


他のホストが翔のコールに合いの手を入れていく。


「ドンドン! (シャンシャン!)

 ドンドン! (シャンシャン!)

 ドンペリ! (飲んで!)

 ドンペリ! (ニョンで!)

 まだまだ! (飲めちゃう!)

 まだまだ! (いっちゃう!)

 ドンドン! (ペリペリ!)

 ドンドン! (ペリペリ!)

 角膜! (ペリペリィー!)

 お酒を飲むなら!? (ドンペリ!)

 カンパイするなら!? (ドンペリ!)

 色は何色? (ゴールドゴールドゴールドゴールド!)

 まだまだおかわりもっとイッちゃう!?」


 翔が尋ねると他のホストが「イッちゃう!」と叫ぶ。


「はいまだまだ! いっちゃうペリペリ! ドンドンシャンシャンシャンドンシュビドゥバパラッパーー……」


 翔がコールを続けている。

 天野は内心「前島のコンサートとレベルが変わらないな。どの世界もくだらないな」と思っていた。


「コールはこんな感じです。音頭は翔にとらせますんで、高い酒が入った時は参加お願いします」

「まかせてくれ」


 天野は腕時計を眺めた。

 こちらもロレックスにダイヤがギラギラ光っている。

 もう開店30分前だ。


「龍さん、光さん。申し訳ないんですがキャッチ頼めますか?」

「もちろんです。捕まえてきますよ。光、行こう」

「わかったよ、龍」


 店長と翔を残し、残りのホストたちは街に飛び出した。

 遥が通りを指さし、天野たちに注意した。


「この通りと、一本向こうの通りにある中華料理屋までがうちのエリアです。ここ以外の場所で声かけると、他店と揉めます。ケツモチが違うんでかなり厄介ですよ」


 ケツモチとは店のバックにいる極道、もしくは半グレのことだ。

 ホストやキャッチの縄張りを破ると、かなり面倒なことになってしまう。

 天野がため息を吐いて言った。


「随分と狭いな。これじゃやりにくい」

「そうなんです。まだうち小さいんで、すみません」

「君のせいじゃない。なに、光はキャッチのプロだ。まかせておけばいいさ」


 涼太は内心「無茶言うよ」と思いながら、通りを眺めた。

 天野も涼太も、この日だけしかホストをやる気はない。

 現金もしくはカードを持ってない女性は無視だ。


「おっと、あれいいな」


 天野は早速女の子に声をかけ始めた。

 涼太もその後に続き、違う娘に声をかける。


「なぁ、やっぱ違うな」


 遥が新井に声をかけた。


「慣れない街だってのに、キャッチのスピードが圧倒的に速いぞ。どこであんなのと知り合ったんだ?」

「いや、まぁ……客の知り合いで……」

「俺たちも行くぞ」

「はい!」


 4人は狭い通りに散らばった。

 最初に捕まえたのは涼太だった。

 2人で歩いていたキャバ嬢の娘たちだ。


「ねぇいいじゃん。いいじゃん。ちょっとだけ。ちょっとだけ飲もうよ」

「違うとこ行きたいんだけど」

「楽しくさせるよ。まだ小さい店だけど、そんなに高くないしさ」

「お兄さん見たことないね」

「そうそう、今日が初日なんだ。ね、記念に行こうよ」

「えーどうするぅ?」

「タクヤに行くって言っちゃったし……」


 涼太は爽やかに、さりげなく装飾品を見せつけながら言った。


「予定があるなら1杯だけでいいよ。損はさせないって約束するからさ。キミたちみたいな娘と飲みたいんだ」

「1杯だけだって。それなら良くない?」

「んー。1杯だけならいいけど……」

「全然オッケー! 行こう行こう! こんな可愛い娘と飲めるなんてラッキーだね!」


 涼太は天野にウィンクして店に女の子を連れて行った。

 天野は「よくやった」と、親指でグッジョブのサインを送る。

 そこに新井がやってきた。


「天野さんの連れ、凄いすね」

「そうだろ? まぁ、あいつの得意分野だよ。だがしかし……」


 天野はイライラしながら言った。


「この通り、ロクな女が来ないな。こんな通りでよくやっていけるな」

「そうなんすよ。キャッチが難しいんす」


 店のエリアは大通りから外れている。

 まともな人間が通らない。

 ターゲットを求める天野と新井の視界に、年配の女性の3人組が見えた。


「新井よ。あれ行け」

「あれですか? 見るからに金持ってないっすよ」


 確かに年配の女性たちは、その辺の主婦がコンビニに行くような服装だ。

 天野は言い聞かせるように言った。


「だからお前は東京でやっていけないんだ。あの女たちは金を落とす。よく見ろ」


 年配の女性たちは、楽しそうに世間話をしながらのんびり歩いている。

 3人とも地味な出で立ちだ。

 1人は地味な緑のジャージ姿。隣は紫色のパーマをあて、ド派手なヒョウ柄模様。その隣は青い寝間着のようなシャツを着ている。

 どう見ても金を持っているようには見えない。


「いや、あれは声かけるだけ時間の無駄ですって」


 天野はため息を吐いた。


「しょうがない。ついて来い」


 天野は新井を引っ張りながら年配の女性たちに声をかけた。


「お姉さんたち、こんばんは!」


 天野は女性たちの前に立ちはだかり、両手を広げて歩みを止めた。


「レディたち待ってたよ! あなたたちに出会うのが今日の運命! 今そう決まった!」


 年配の女性たちは突然現れた天野に驚き、その姿を頭からつま先まで眺めた。

 天野は3人の間に立ち、馴れ馴れしく肩を抱いた。


「俺たちホストなんだけどさ、みんな、今夜は飲みたい気分でしょ? うちの店においでよ。レディたちと飲みたいな」


 年配の女性たちは満更でもなさそうに天野を見ている。


「ねぇ奥様ホストですって」

「あら、どうしようかしら」

「男前ねぇ、素敵じゃない?」


 年配の女性たちは天野の服装と顔を見て、にやにやと笑っている。


「嬉しいなぁ。そんなこと言われたの初めてだよ。今日は俺とこいつが、レディたちを最高のパーティに誘うからさ。言っておくけど、拒否なんかさせないよ? だってもう俺は、レディたちのことしか、目に入らないんだからさ」

「あらぁ、楽しみだわぁ」

「どんなパーティなのかしらぁ」

「いいじゃないのぉ。飲みたかったのよねぇ」

「よし、さぁ行こう!」


 天野は嬉しそうに年配の女性たちの肩を抱き、唖然あぜんとする新井と共に店へ向かった。




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