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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼女を上手にスキャンダルから守る方法
56/91

天野くんと握手会当日




 天野はここで襲撃されることも覚悟していたが、その気配は感じられなかった。


 3時間交代で部屋を見張り続けたが、朝まで異常は発生しなかった。


 朝の7時半になると、宮元と川口が急いで最上階まで上がって来た。



「天野さん! おはようございます! 柏田は無事ですか!?」

「来たか。今、2人を呼び出そう」


 スマートフォンを取り出して前島に電話をかける。


「天野だ。起きているようだな。川口たちが来ている。扉を開けてくれ」


 しばらくすると静かに部屋のロックが外された。

 欠伸をしながら前島が顔を出す。


「ふわぁぁぁ……。師匠、おはようございます」


 背後から柏田も顔を出した。

 丁寧に頭を下げる。


「皆さん、おはようございます。昨晩はありがとうございました。おかげで安心して眠れました」


 2人とも無事だ。

 川口は安堵して前島に声をかけた。


「悠子ちゃん、早速握手会に行きましょう。……あら? 珍しいわね。もうメイクしていたの?」

「あ、当たり前じゃないですか。私はアイドルなんですよ。いつだって人様にお見せできるようにメイクをしていますよ」

「おかしいわね……。いつも寝癖すら直さず起きてくるのに……」


 川口が首を捻っていると、柏田が悪戯っ子のように微笑んだ。


「ゆうこちゃん、師匠にスッピンは見せられないって、早起きしてメイクしてたんですよ」

「も、もう! まきりん内緒にしてって、言ったのにぃ!」


 恥ずかしそうに抗議する前島を無視して、天野は宮元に尋ねる。


「宮元よ、今日は柏田の護衛に入れるな?」

「もちろんです。天野さんと共に護衛するため、一日の予定を空けております」

「それでいい。ちょっとスケジュールを作成しよう」


 涼太、佐久間、宮元。

 3人の顔を見つめる。

 天野にとってここからが本番だ。


「10時までは、俺と涼太がペアで入り口を見張る。その後は佐久間と宮元がペアで、12時まで見張りを頼む。午後からは3人体制に移行し、順に2時間ごとに交代していこう」


 3人とも黙って頷いた。

 天野は柏田にも言い聞かせる。


「この部屋の扉は終日ロックしてくれ。誰が電話しても開けるな。銃でも突きつけられて脅されれば、誰だって拒否するのは難しい。それを防ぐために、このルールを守ってもらいたい」


 そう言ってカードキーを取り出した。


「扉を開けることができるのは、このカードキーだけだ。念のため、見張り役の人間に持たせる。病院のセキュリティは甘くなっている。敵が襲って来るならば、この昼間の時間帯、そして握手会が開催される時間帯になるだろう。この病院を知られている可能性は低いと思うが、各自油断するな。あと柏田、これを飲め」


 天野は懐から青い錠剤を取り出した。


「睡眠薬だ。夕方までゆっくり眠れる。疲れもとれるだろう」

「はい、わかりました」


 柏田はすぐに薬を飲み込むと、念を押すように尋ねた。


「私は誰が呼んでも、扉を開けてはいけないんですね」

「そうだ。絶対に外へ出るな。むしろ電話やメールを全て無視しろ。宮元よ、それでも構わないな?」

「大丈夫です。何事もなければいいんですが……」

「事務所に追加の犯行声明は届いているか?」

「いえ、何もありません」

「そうか……。涼太よ、見張りに立つぞ。柏田、ゆっくり休め」

「はい、皆様どうか、よろしくお願いします」


 柏田は何度も頭を下げた。


「私のためにご迷惑をおかけし、本当に申し訳なく思います……。この恩は一生忘れません。どうか皆様、ご無事で」


 静かに部屋の扉を閉める。

 そして内側から鍵をかけた。

 それを見届けると前島が元気よく言った。


「師匠! それでは握手会に行ってきますね!」

「ああ、頑張れよ。川口よ、ちゃんと前島にもボディガードをつけてやってくれ」

「はい。天野様、ご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願いします」


 前島と川口は握手会へ向かった。

 その背中を見送り、佐久間が尋ねた。


「天野さん、私は休んだばかりです。代わりにお立ちしましょうか?」

「いや、それには及ばない。握手会は12時から始まる。この一番危険なメインの時間帯を、プロである佐久間にまかせたいと考えている。10時までは自由にしてくれ」

「なるほど。了解しました」


 その言葉を聞き、宮元も尋ねた。


「では私も10時まで休んだ方がよろしいですか?」

「その方が助かる。結局のところ、一番頼りになるのはプロと関係者の人間だ。危険な時間帯になるが頼むぞ」

「了解しました。おまかせください」


 佐久間と宮元は仮眠室へ向かった。

 2人の背中を見送りながら涼太が呟く。


「……ねぇ。本当に勇二の予想通りになるかな」

「なるさ。天才クソ野郎の作戦に穴はない。完璧に進行しているだろう?」

「まぁねぇ。地球は天才クソ野郎を中心に回ってるのかな、なんて思うね」


 涼太は大きく背伸びをし、念入りにストレッチをしている。


「襲撃犯に勝てるかなぁ。僕はそれだけが心配だよ」

「お前の華麗な足技に期待してるぜ」

「僕ちゃんの『必殺・稲妻キック』が、相手をぶちのめせればいいんだけど」


 涼太は脚を高く上げながら「必殺・稲妻キック!」と叫び、ポーズを決めている。


「中学生みたいなネーミングセンスだな」

「威力を考えたら、それしかないでしょ」

「クックック……。確かにそうだ」


 天野は腕組みしながら不敵な笑みを浮かべ、どこか楽しそうに呟いた。


「さぁ、ネズミ共め。今度は逃がさないぜ。確実に潰してやる」




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