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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼女を上手にスキャンダルから守る方法
50/91

天野くんのスキャンダル

※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。




 その日、天野は学生食堂の2階テラスで昼食であるパンを頬張り、のんびりとコーヒーを飲んでいた。


「勇二! 大変だよ! エライことになったよ!」


 そこに涼太が真っ青な表情を浮かべて飛んで来た。

 片手には週刊誌を持っている。

 随分と慌てている様子だ。


「どうした? 人妻にでも手を出したのか?」

「違うよ! これ! これを見て!」


 涼太はテラスのテーブルに週刊誌を叩き付けた。

 ひとつのページがスキャンダルなニュースを紹介している。

 天野はそのページを見て仰天した。


「おい、これは俺様じゃないか」

「メインは勇二じゃないよ! 前島さんだよ!」


 週刊誌のページには、


『人気アイドル前島悠子、噂の大学生との密会現場をスクープ!』


 という記事が掲載されていた。

 ピントのぼやけた写真も載っている。

 場所はテラス席。天野と前島が談笑している場面だ。

 見開きのページには、『突然のグループ卒業発表には、この男が関係している?』といった文章や、『この男との交際が卒業の理由?』といった文章、『もう2人は肉体関係に発展している!』などの憶測記事が書かれている。


 写真は高所から撮影されている。

 望遠で盗み撮りされたものだ。

 天野と涼太は素早く周囲を見回した。


「あそこだ」

「そうだね」


 天野と涼太はテラスの近くにある校舎を睨みつけた。

 7階建ての校舎だ。

 撮影された角度から推測すると、最上階から撮られた写真の可能性が高い。


「くそっ、俺は一般人だぜ。モザイクや目線を入れ、顔を隠すのが普通じゃないのか」


 一般人である天野の顔は一切隠されていない。

 涼太が不安気に尋ねた。


「ねぇ、前島さんは勇二のアドバイスで卒業を決めた、とか言ってたよね。それがマスコミにリークされないかな?」

「アイツはそんなことを喋る女じゃない。だが、この記事は厄介だ」


 その懸念はすぐに当たった。

 テラスに4人の男たちが上がって来たのだ。


「……どうした? この天才クソ野郎に依頼したいのか?」


 天野は白衣のポケットに両手を入れながら、嫌そうに侵入者を睨みつけた。

 男たちは週刊誌を丸めて持っており、すでに殺気立っている。

 その中の1人が叫んだ。


「天野! お前、ゆうこちゃんとやった、ってのは本当か!?」


 その言葉を聞くと、天野は指先をパチリと鳴らした。


「おいおい。昼間から下品なことを言うものじゃない」


 気障キザったらしく指先を振り回す。

 天野は偉そうに言葉を吐き出した。


「そんな話はもっとオブラートに包んで尋ねるべきだ。そうだな、『天野様と前島さんはコウノトリさんに赤子を注文したんですか?』ぐらいのウィットに富んだ質問を心がけてくれないか? さては、そんなシャレも通じないほど女に飢えたバカな童貞なのか?」


 その発言で男たちがさらに殺気立つ。

 1人が天野に向かって叫んだ。


「お前がゆうこちゃんを卒業させたのか!」

「卒業するかどうかは本人が決めることだ。俺様には関係ない話だな」

「天野のことは前から気に入らなかったんだ! ゆうこちゃんの恋人で、関係を持っているなら容赦しないぞ!」


 男は刃物を取り出した。刃渡りの短いナイフだ。


「うわっ、ちょっと落ち着こうよ」


 涼太が怯えて遠ざかる。

 しかし、天野は悪の笑みを満面に浮かべた。


「容赦しない? それは脅しのつもりか? そんな刃物1本で、この天才クソ野郎に挑むつもりなのか? ……だが、これだけは言っておこう」


 天野は偉そうに両手を広げた。


「前島は俺様の弟子だ。お前らが勘ぐっているような男女関係ではない。安心するんだな」


 天野としては場を治めるつもりの発言だったのだが、男たちの怒りはさらに燃え上がった。


「で、弟子だと! ゆうこちゃんを弟子呼ばわりとは何様だ! てめぇ絶対に許さねぇ!」


 1人が天野に殴りかかった。


「まったく……。単細胞な生物だ」


 天野は冷静に構えると、男の拳を避け、その手首を素早く掴んで逆手に捻りあげた。


「いづづ!」


 手首を捻りあげたまま、鳩尾みぞおちに膝を叩きこむ。


「がはっ!」


 男の息をつまらせると、その体を反転させ、前蹴りで吹き飛ばした。

 残りの男たちはそれを見て一気に怖気おじけづく。


「どうした? もう終わりか? 次は手加減しないぞ? 喧嘩がしたいなら買うぜ。だが俺様は柔術、合気、骨法、空手を習得した殺戮さつりく兵器だ。おまけに骨の位置を細かく知っており、効率よく人体を破壊する術を身につけている。これ以上、俺様に近づくなら本気でやるぞ。これは最後の警告だ」


 天野は殺気をみなぎらせ、まだ倒れている男に近づいた。


「ひいいっ!」


 悲鳴をあげて男たちはテラスから逃げ去った。

 涼太が安堵あんどして後ろ姿を見送る。


「マジでビビった。刃物とか心臓に悪いよ」

「おいおい、あれで終わりだと思うか?」


 しばらくすると沢山の足音が響き、10人ほどの男たちがテラスに上がって来た。

 先ほどの男たちが援軍を呼んだのだ。

 金属バットや、木刀、刃物を手にした男もいる。


「天野! これ以上お前に支配されるのはごめんだ! ここでカタをつけてやる!」


 男の1人が威勢いせいよく叫ぶ。

 天野はその顔に見覚えがあった。


「おや? お前は確か、法学部の女生徒をストーキングしていた男じゃないか。前島のファンだったのか? 前島のストーカーだとは知らなかった」


 天野はそう言うと、全身から並々ならぬ殺気を放ち出した。


「お前はタチの悪いクズだったな……。次に顔を見せれば殺すと、警告したはずだぞ」


 ストーカーと呼ばれた男は吐き捨てるように叫んだ。


「いつか復讐してやろうと思ってたんだよ! 前島悠子の件で、お前に恨みを持つ連中が増えた。お前でもこの人数は勝てやしない! 覚悟しやがれ!」


 男たちは一斉に襲いかかった。

 場所は2階テラス。入り口は一ヶ所。逃げ場はない。

 天野は仕方なくテラスの椅子を取り、男たちに投げつけた。


「うわっ!」


 男たちの動きが一瞬止まる。

 わずかに椅子を避けて後退した。

 天野はすぐさま男たちに近づき、掌底しょうていと肘を先頭の男2人に打ち込んだ。


「ぎゃあ!」


 男たちの悲鳴と鮮血が飛ぶ。

 鼻骨が折れる嫌な音が響いた。


「こ、この野郎!」


 1人の男が金属バットで殴りかかるが、天野は紙一重で避け、男の鼻柱を掌底で叩き潰す。


「ぐあっ!」


 手のひらについた返り血を嫌そうに払い、前蹴りを連発して男たちを後退させる。

 死角から木刀が襲いかかるが、涼太がハイキックではじき飛ばした。


「涼太、よこせ」

「はいよ!」


 天野が差し出した手に、涼太が椅子を投げる。

 それ取ると振り回して投げつけ、さらに男たちを後退させた。

 もう後方にはテラスの階段が迫っている。


「くそったれ!」


 刃物を持った男が突きを入れ、わずかに天野の頬をかすめた。

 その男の手首を掴んで引き、真っ直ぐに固定すると、肘の外側に容赦なく掌底を打ち込んだ。


「うぎゃあああ!」


 骨が折れる嫌な音が響く。

 男の腕は逆側に折れ曲がった。


「さて、面白い玩具オモチャが手に入った」


 天野の手に相手の刃物が残っている。

 狂気に満ち、返り血を浴びた白衣姿の悪魔。

 男たちの膝は完全に震えていた。


「お前ら、人体の解剖なんてやったことがあるまい」


 男たちが怯えて後退。

 真後ろにはテラスの階段が迫っている。


「飛びやがれ!」


 天野は前蹴りで1人、また1人と階段の上から蹴り飛ばした。

 悲鳴をあげて男たちがテラスの階段を転げ落ちていく。

 1人が何とか階段にしがみついたが、その指を天野は容赦なく踏み潰す。

 天野は基本的に鉄板を仕込んだ安全靴を履いている。

 男の指は派手な音をたてて折れた。


「ひぃぎゃあああ!」


 男たちは戦意を喪失して逃げ始めた。

 しかし、本気を出した天野はそれさえも許さない。


「全員、飛びやがれ!」


 背中を向けて逃げる男たちも突き落とす。

 階段の下に、男たちが何重にもなって倒れこんだ。


「クックック……。警告してやったのに。俺様に喧嘩を売るからこうなるんだよ」


 天野は階段から飛び降りると、1人の男の首を掴みあげ、思い切り壁に叩きつけた。

 先ほど天野に『ストーカー』と呼ばれた男だ。


「あ、あう……やめ、やめて……」

「おいストーカー野郎。これだけの人数が相手では、俺様が何をやっても正当防衛で罪には問われないだろう。潰した時に言ったはずだ。次に顔を見せた時は殺す、とな」


 刃物を投げ捨てると、白衣の胸ポケットからメスを取り出した。

 ナイフよりも切れ味の鋭い刃物。

 銀色の小さな輝きが、ストーカー男に死を届ける。


「冗談を言っているとでも思ったのか? 甘いんだよ」


 天野は首筋にメスを当てると、一切の迷いなく切り裂いた。

 鮮血が勢いよく吹き出す。


「ひぃぃぃっ!」


 男は悲鳴をあげながら首を押さえた。

 その手も真っ赤に染まっていく。


「た、たすけてぇ! 殺さないでぇぇ!」


 男は吹き出す血を押さえながら悲鳴をあげている。

 天野はメスに付着した血を飛ばし、狂気の笑みを浮かべながら叫んだ。


「次にオペされたいのはどいつだ!? まだメスは何本もある! 何人でも解剖してやるぞ! お前らもこいつのように殺されたいか!?」


 その声がトドメとなった。

 男たちは互いの体を支え、必死に逃げ出していった。


「だ、大丈夫? あれ、本当に死んじゃうよ……?」


 涼太が心配そうに声をかける。


「死ねばいいのさ」


 天野は極悪の笑みを浮かべたまま、男たちの背中を見送った。


「俺様の忠告を守らない馬鹿は死ねばいいんだ。……だが、残念ながら頸動脈けいどうみゃくを切っちゃいない。すぐに血も止まる。あれじゃ死ねないな。あと5ミリ横を切っていれば死んだのに。実に残念だ」


 2人は椅子を拾ってテラスに戻った。


「相変わらず、勇二は容赦ないね」

「これでしばらくテラスは平穏だ」

「また襲われたらどうしよう? 僕らの「秘密兵器」準備しとく? 防刃シャツとか、スタンガンとかさ」


 野蛮な「クソ野郎」にとって、このような喧嘩は日常茶飯事に近い。

 ストーカーを退治したり、犯罪者にお仕置きすることがクソ野郎の日常でもあるのだ。


 そのため天野たちは、多少の脅威に対抗するため、大学にいくつかの「兵器」を隠している。

 防具ならば、防刃シャツやグローブ。武器ならば、スタンガンやテーザー銃、メリケンサックにスラッパーに特殊警棒……。

 日本では購入できない強力な武器まで隠し持っている。一般人には縁のないものばかりだ。


「そこまでは必要ないさ。あれだけ脅してやれば二度と近づきやしない」


 返り血の付着した白衣を脱ぎ、丸めてゴミ箱に投げ捨てる。

 嫌そうに週刊誌を睨みつけた。


「どこかの馬鹿がこんな記事を書いたせいで、面倒なことが起きるんだ。記者は骨を折られた人間に謝罪するべきだな」


 自分が暴力を振るって骨を折ったくせに、平然と人に罪をなすりつける。

 よく見る光景とは言え、涼太は苦笑するしかなかった。


「おっ、弟子から電話だ」


 スマートフォンが前島からの着信を告げている。


「師匠! 師匠の大切な弟子ですよ!」

「知っている」

「あの、週刊誌の記事を読みましたか?」

「読んだぞ。おかげで何人か骨を折る騒ぎになったぜ」

「師匠は大丈夫ですか?」

「ああ、俺様は無敵だ」

「じゃあ良かったです!」


 前島は嬉しそうに笑っている。

 師匠がクソ野郎なら、この弟子も相当なものだ。


「本当にすみません。私のせいでご迷惑をかけてしまって」

「別にお前が気にすることじゃないさ。そっちこそ大丈夫なのか?」

「えへへ。事務所の方にとても怒られました」

「お前も損な役回りだな」

「大丈夫です! こんなのへっちゃらです!」


 元気良く声を張り上げている。

 どうやら前島は無事の様子だ。


「師匠、実は記事の件でご相談があるんです。是非とも会ってお話したいのですが、今晩はお暇ですか?」

「20時まで大学だ。それ以降なら空いている」

「それでしたら、終わった後に大学でお会いできませんか?」

「ああ、構わんぞ」

「では、20時に校門でお願いします!」


 タバコを取り出しながら電話を切ると、すぐに涼太が興味深そうに尋ねた。


「ついに前島さんから『おデート』のお誘い? スキャンダルを報じられたばかりなのに度胸あるね」

「いや、何か相談があるらしい」

「相談ってことはデートじゃないね。相棒である僕が一緒でも問題ないよね」

「別に構わないが、今の俺様に近づくと、闇討ちに巻き込まれる恐れがあるぞ。大丈夫か?」


 涼太は誇らしげに拳を握った。


「僕も勇二と一緒に空手を習ったじゃん。腕には自信あるよ」

「よく言うぜ。さっきは静観してたくせによ」

「あっ、僕の活躍シーンを見てなかったでしょ? 残念だなぁ」


 涼太が肩を落としながらタバコを取り出すと、またテラスに人がやって来た。今度は女の子だ。


「あ、あの、すみません。天野さん……」


 彼女も週刊誌を手にしている。


「なんだ?」

「天野さんがゆうこちゃんと付き合ってるって……。本当なんですか?」


 天野はうざったそうに言った。


「付き合ってねぇよ」

「ほ、本当なんですか!? ちゃんと教えてください! 私、ゆうこちゃんの大ファンなんです!」


 天野は心底嫌そうに顔を歪めた。

 ちらりと涼太にアイコンタクトを送る。

 涼太は苦笑しながら頷き、女の子に近づいた。


「前島さんは勇二と男女の関係なんかじゃない。安心していいよ。君もそんなデマに振り回されちゃダメだって。大人しく帰りなさい」

「は、はい……。わかりました……」


 女の子は涼太に説得され、しぶしぶテラスを後にした。


「おいおい。詫びが一言あってもいいんじゃないのか」

「この分じゃ、まだお客さんが来そうだね」


 涼太の言葉を合図にしたかのように、また何人かの人間がテラスに上がって来た。


「いた! 天野さんだ! 天野さん! ゆうこちゃんとデキてるってマジですか!?」


 天野と涼太は顔を見合わせ、深くため息を吐いた。





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