天野くんの二次会
同窓会が終了すると、天野と涼太、星崎と坂上の4人はバーへ向かった。
「この4人なんて、珍しい組み合わせだよな」
星崎が笑いながらビールを飲んでいる。
「そうだね。僕と勇二はコンビみたいなもんだったけど、ホッシーに坂上さんなんて珍しいよね」
天野はジンを舐めながら、涼太に尋ねた。
「涼太よ、星崎を誘ったということは、綾瀬のことを聞きたいんだろう?」
天野が涼太の背中を押した。
涼太は深く頷いた。
「……うん。ホッシーに綾瀬さんのことを聞きたかったんだ」
「綾瀬さんって、確かお日様に当たれなかった……」
「そうそう。厄介な難病を抱えてたよね」
坂上は日本酒を飲みながら微笑んだ。
「涼太くんと綾瀬さんは仲良しだったわね。同じクラブだったし。いつも一緒にいたような気がする」
「そうだったねぇ。6年の時は毎日一緒だったよ」
星崎はそんな涼太の横顔を切なげに見つめ、ゆっくり口を開いた。
「あくまで電話で聞いた話なんだけどさ、肝臓がかなり悪いらしいんだ。外出できないほど弱ってるって。なんでも……」
星崎は辛そうにビールを飲み干した。
「ガンが見つかったそうなんだ」
残酷な言葉に、その場は凍りついた。
星崎は場を静寂させた責任を取るように言葉を続けた。
「ただでさえマトモな日常生活を送れないってのに、酷い話だよな」
「肝臓か?」
天野が星崎に尋ねた。
星崎は「たぶんな」と答えた。
「正直、もう長くないらしい。同窓会で誰か気になる人がいれば、見舞いに来て欲しいと伝えてくれって、頼まれたよ」
星崎はビールを追加で注文した。
涼太は青ざめて黙り込んだままだ。
「だけど、今日の場ではそのことを話せなかった。一気に場が冷めてしまうし、俺には話す勇気もなかった。見舞いになんて行けないよ」
星崎は涼太を強い視線で見つめた。
「だけどな、涼太には見舞いに行って欲しいんだ」
坂上がその言葉に続く。
「そうよね。涼太くん、誰よりも綾瀬さんに優しかったじゃない」
涼太は呆然と目の前のグラスを見つめていた。
ショックのあまり頭が真っ白になっているのだろう。
星崎たちの言葉すら耳に入っていない。
「涼太、しっかりしろ。一番辛い思いをしているのはお前じゃない。綾瀬だ」
涼太はその言葉で自分を取り戻した。
「……そうだね。お見舞いに行くよ。綾瀬さんはどこに住んでるの?」
星崎は懐からメモを取り出し、涼太に差し出した。
「鎌倉で静養しているらしい。正直、俺は会いに行ける資格がない。行ける資格があるのは、涼太と勇二くらいだろう」
星崎が辛そうに息を吐く。
坂上が慰めるように背中をさすった。
「仕方ないわよ。小学生なんだから。2人が特別だっただけよ」
「そうかもな……。俺は綾瀬さんどころか、坂上さんにも酷いことを言った。今更ながら申し訳なく思うよ」
「星崎くんも私のこと、ブスって馬鹿にしたもんね。結構傷ついたのよ」
「だけど、その度に殴られたぜ」
「あら、ごめんあそばせ」
ちっとも悪いと思っていない口調だ。
どこか艶っぽい表情を浮かべ、星崎をじっと見つめた。
「当時は本当に傷ついたのよ。女子に『肉団子』なんて「あだ名」をつければ、殴られるのが当然じゃない」
「ああ、そうだよな。ごめんな」
坂上は悪戯っ子のように微笑んだ。
「ううん。本当はもう気にしてないわ。あの時のことがあったから、逆に頑張れたと思うし」
星崎と坂上が話している間、涼太はメモに書かれた住所をじっと眺めていた。
天野はタバコを吸いながら、涼太の横顔を見つめた。
「なぁ涼太。明日、一緒に行こう」
涼太が驚いて天野を見つめる。
天野は構わず言葉を続けた。
「明日は日曜日だ。暇だろ? ……いや、暇じゃなくても予定を全てキャンセルしろ。ガンだというならば、急いだほうがいい」
涼太は黙って頷いた。
そして天野の顔を見つめた。
「勇二も、一緒に来てくれるの?」
「ああ、綾瀬がどうしているのか見たいな」
涼太は小さな笑みを浮かべた。
「会ってうまく話せるかな。僕は怖いよ。症状の重い綾瀬さんに何を話せばいいのか、よくわからないんだ」
天野はタバコの火を消し、涼太の肩を軽く叩いた。
「この俺様がついている。安心しろ。俺様にかかれば全てうまくいくさ」
その言葉を聞き、坂上が嬉しそうに声をあげた。
「ああー! 懐かしい! 勇二くんの決め台詞! あの頃と変わってない!」
星崎も嬉しそうに笑った。
「そのセリフを聞くと勇二だな、って気がするな」
涼太は苦笑しながら言った。
「今でもしょっちゅう言ってるよ。子供の頃から何も進歩してないんだからさ」
涼太たちは声をあげて笑った。
天野はその様子を嬉しそうに眺める。
懐かしい旧友との再会。共に飲む酒の味は格別だと、天野は感じた。
「……わかった。明日、行くよ。綾瀬さんに会ってくる」
涼太は力強く頷いた。
「辛い思いをさせるが頼む」
「きっと綾瀬さんも涼太くんに会いたがってると思うわ。優しく声をかけてあげて」
天野は静かに言った。
「病状はかなり重いだろう。覚悟して行こう」
涼太は黙って頷いた。




