表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼を上手にご主人様にする方法
32/91

天野くんと表参道の奇跡




 楽しい時間は過ぎ去り、夜になってしまった。

 結局、買い物から食事代まで、全て奥田の財布から捻出された。


「じゃあ、私とマユちゃんは一緒に帰るね」


 表参道の駅でWデートはおしまい。

 天野たちは2人を見送ることにした。


「ああ、今日は楽しかったよ。色々とありがとな」


 メグにゃんはさり気なく天野に近づき、小声で囁いた。


「……ねぇ、私はひとり暮らしだし、もうちょっと遅くなっても大丈夫だよ。どうせなら天野くん、家に来る?」

「遠慮しとくよ。奥田のこともあるしね」

「寂しいなぁ。まだ帰りたくないよ……。カンちゃんのことなんて、どうでもいいじゃん……」


 メグにゃんはほほを膨らませた。どこかいじけた表情だ。

 天野ほど好条件が揃ったイケメンはなかなか存在しない。もっと親しい仲になりたいのだろう。

 天野は「それも当然だな。さすが俺様だ」と思いながら言った。


「俺はメグちゃんとの関係を大切にしたいんだ。この続きは、2人きりのデートの時に取っておきたい。……ダメかな?」


 天野は甘い笑顔を浮かべた。

 好条件の揃ったイケメンに甘い笑顔で「ダメかな?」と訊かれれば、返す言葉はひとつしかない。


「……ダメじゃない。寂しいけど、嬉しいな」

「ありがとう。メグちゃんはいい子だね」


 天野は満足気に微笑んだ。

 その微笑みにメグにゃんは魅了され、頬を染めている。

 裏に隠された黒い笑顔には気づいていない。

 もう天野はメグにゃんと再会するつもりなんてないのだが、そんなことに気づけるはずもない。本当に可哀想な女の子だ。


 天野は奥田とマユにゃんの様子を眺めた。

 2人の距離は縮まっただろうか。1歩だけでも前進しただろうか。

 まぁ、ここまでやれば後は当人たちの問題だろう。


「ねぇ、カンちゃん」


 マユにゃんがスマートフォンを差し出した。


「連絡先、交換しよ?」

「え? で、でも、メイドさんとの交換は禁止だって……」


 マユにゃんはゆっくり首を横に振った。


「今はメイドじゃないよ。友達じゃん」

「と、ともだち……!!!」


 奥田は感動のあまり硬直した。


「……スマホ」


 天野が小声で囁くと、慌てて奥田はスマートフォンを取り出した。


「カンちゃんのスマホ、すごく古いんだね。あちこちボロボロ」

「う、うん。買った時から、一度も変えてないから」

「あ、これLINE入ってないじゃん。しょうがないなぁ」


 マユにゃんは奥田のスマホを取り上げ、自ら連絡先を登録した。


「はい」


 入力が終わると奥田にスマホを戻す。

 奥田は画面を見て首を傾げた。


「あれ? マユじゃない……?」


 画面には見知らぬ女性の名前、携帯番号、メールアドレスが表示されている。


長島香澄ながしまかすみ。それが私の本名なの。香澄って、気軽に呼んで」

「か、かすみちゃん……?」


 奥田はスマホの画面と、マユにゃんを見比べ呆然としている。

 脳が展開に追いついていない様子だ。


「……あのねカンちゃん、聞いて欲しいことがあるの」


 マユにゃんは小さく深呼吸をすると、静かに口を開いた。


「私、『メイドにゃんにゃん』。もう辞めようと思うんだ」


 マユにゃんは衝撃の告白を始めた。


「え、えええぇっ!? そ、そんな……。どうしてぇ!?」


 奥田は衝撃を受けて今にも倒れそうだ。


「あのね、たった1人のメイドさんになりたいって、思っちゃったの」


 マユにゃんは真摯しんしな眼差しで奥田を見つめた。



「私だけの『ご主人様』になってくれますか?」



 奥田の脳はあまりの展開に停止してしまった。


「あ、あああ………ああぁあああああ……ああああ、ああぁあぁぁ………」


 わなわなと震える奥田の顔を見て、マユにゃんは照れ臭そうに微笑んだ。

 お互いの頬はバラ色に染まっていた。


「まずは機種変しよ? せっかくだからカンちゃんと私、同じスマートフォンにしようよ」


 奇跡だ。俺は今、奇跡を見ている。

 天野はそう感じた。

 メグにゃんはぎゅっと天野の手を握りしめている。

 恐らく同じことを思っているのだろう。


「ううう、うん……。き、きききき機種変、するお……」

「やったぁ! じゃあ後でメールするね! またね! いこ、メグちゃん!」

「う、うん! またね天野くん!」


 2人は表参道の駅に吸い込まれていった。


「……お、奥田!」


 我に返った天野が奥田の肩を揺さぶる。


「おい! 天才イベリコ! やったじゃないか! これは奇跡だ! 今俺たちは奇跡に遭遇したぞ! それもただの奇跡じゃない! 100年に1度あるかないかの奇跡だ! イベリコが、たった1人のご主人様になったんだ!」


 天野は興奮のあまり叫んだ。

 奥田の携帯電話を持つ手も、ぷるぷると震えている。


「ボ、ボクが、マユにゃんのご主人様……。たったひとりだけの……!!!」


 奥田の瞳から「ドババッ」と涙があふれた。

 天野の顔を見上げて叫ぶ。


「天野くん!」

「イベリコ!」


 2人は激しく抱き合った。

 表参道の街灯が、静かにひとつの奇跡を照らしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ