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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼女を上手に中退させる方法
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天野くんの作戦会議




 翌日。大学の入学式当日。

 キャンパスを凄まじい数の人間が埋め尽くしていた。


 天野が通っているのは、都内にある一流の有名私大のひとつ。

 学部の数はかなり多く、キャンパスには校舎が乱立。あらゆる学部が集結しているマンモス校だ。 入学式ともなれば、新入生はもちろん、サークルや部活の勧誘のため在学生も集まる。


 それなのに、今年は『国民的アイドル』が入学してしまうのだ。


 女子大生になったアイドルの姿をカメラに収めようとするマスコミ、ファンの見学者、暇だった野次馬などが集結し、キャンパスはかつてないほどの混沌に陥っていた。



 そんな中、天野はいつも通り白衣をまとい、学生食堂の2階にあるテラス席でのんびりタバコを吸っていた。

 隣には依頼人である中尾。相棒である涼太の姿もある。


「中尾よ、本日の作戦に協力してくれるヤツを紹介しよう。佐伯涼太さえきりょうただ。俺様の右腕であり、信頼できる相棒だ」

「佐伯さん、ですね。宜しくお願いします!」


 涼太は「こっちこそヨロシクね」と軽く手を振ると、天野に向き直った。


「ところで勇二。実際の作戦はどうするの? 僕も具体的なプランは聞いてないんだけど」

「抜かりないさ。全て準備してある」

「どうやって入学式を潰す? 式場を爆破するの? 毒ガスでもばら撒く? もしくはアイドルちゃんをピンポイントで狙撃する?」

「どれも悪くない。だが、式場はキャンパス内にある講堂だ。爆破したりガスをばら撒いたりすれば、数百人単位の死者が出るだろう」


 物騒な発言が場に飛び出し、中尾の顔がどんどん青くなる。


「どうせターゲットはアイドルの小娘だけだ。俺たちは小娘に接触し、入学を断念させるように動こうと思う。式場を破壊するのは、それに失敗した後だな」

「オッケー! アイドルちゃんに接触ね。上手いことサシで会えるかな?」

「会えるさ。入学式のスタッフを買収したよ」

「ヒュー! やるねぇ。さすが金持ちはスケールが違うね」


 わざとらしい世辞を受け、天野は嫌らしく笑ってみせた。


「そうだろう? これが医者のボンボンが持つ、金という力さ」


 実はこのクソ野郎、父親は産婦人科などを手広く経営しており、実家はかなりの金持ちだ。

 頭脳は天才。容姿はイケメン。これに「資産」という武器まで加わるのだから、世の中とは不公平だ。


「ば、買収……。ぼ、僕はお昼しか奢ってないのに、そんなお金、いいんですか……?」

「構わないさ。別に俺様は儲けるために『学園の事件屋』をやってるんじゃない。どうせ親の金だ。気にすることはない」


 天野はタバコの煙を吐き出しながら、作戦の説明を始めた。


「式の終了後、混乱を避けるために小娘を別ルートで移動させるらしい。その誘導役を俺たちがやる。ほんの数分となるが、移動中に話すことは可能だ」

「そこで入学を諦めるように説得するんだね」

「ああ、多少手荒な手段を使っても首を縦に振ってもらう。俺様の脅しと暴力があれば簡単なことさ。どうだ中尾よ、これならばお前も満足するだろう?」

「はい! さすが天野さんですね! 僕も全力で説得します!」

「そうだ。その覚悟が必要だ。きっとお前の心からの説得が、小娘の心を揺り動かすことだろう。何せ、お前は小娘を守るためだったら命をかけてもいい……。そう言っていたからな」

「もちろんですよ! 僕は悠子ちゃんのためだったら死ねますから!」


 唾を吐きながら叫ぶ中尾の顔を見つめ、天野は気障キザったらしい指先を振り回した。


「なぁ、中尾よ。実は少しだけ気になっていることがあるんだ」

「え? なんでしょうか?」

「お前の覚悟と、小娘に向けられた愛は見事なものだ。そこまで想える男なんて、もしかしたらこの世界にお前しかいないかもしれない」


 実にわかりやすい世辞だったが、中尾は照れ臭そうに頬を赤くした。


「そ、そうですかねぇ……。デヘヘ……。僕以上に熱心なファンだっているかもしれませんよ」

「いや、少なくとも小娘のアイドルとしての未来を考え、そのために命をかける男はお前しかいない」


 天野が軽やかに指をパチリと鳴らす。それを見て涼太が口を挟んだ。


「言えてる。中尾くんは前島悠子ちゃんにとって、必要不可欠のファンだよね」

「ほう涼太よ、お前もそう思うのか」

「僕はアイドルにも詳しいから言えるけど、中尾くんほどのファンは稀だよ。本音を言えばさ、中尾くんみたいな男子が前島悠子ちゃんを近くで守ってくれればいいのに、って思うなぁ」


 中尾は2人の男からベタ褒めされ、どんどん頬を赤くしていく。

 まるで茹でタコのように真っ赤だ。照れているのだろう。


「デヘ、デヘッヘヘヘェ……。そりゃぁ、僕だったら、悠子ちゃんを誰よりも大切にしますからねぇ……。デヘェ……」


 中尾の気持ち悪い笑みを眺めつつ、天野は悪い顔で囁いた。


「もし、お前に小娘を守る覚悟があるならば、もうひとつ、俺様から提案したい作戦がある」

「もうひとつ……?」


 天野は小さく頷き、悪い顔で囁いた。


「前島悠子を、お前の女にしてしまえばいいんだ」


 中尾は驚いて飛び上がった。


「ぼ、僕の女!?」

「そうさ、お前だけの女だ。恋人、愛人、セフレ……。好きな言葉で呼べばいい」

「そ、そんなのダメです! 悠子ちゃんのアイドルグループは恋愛禁止なんです! そんなのダメです!!」


 中尾の興奮をなだめるように、涼太がフレンドリーに囁いた。


「ダメなことないじゃん? アイドルとファンの恋愛なんて、意外とその辺りに転がってるものだよ。相手だって女の子なんだからさ、恋愛したいに決まってるし」

「だけど、そ、それが僕なんて、あり得ませんよ!」

「あり得ない? なぜだ? お前以上に小娘を想う男はいないじゃないか? 小娘に全てを捧げ、心の底から愛しているんだろう?」

「は、はい……。そうですけど……」

「それならば資格なんて、むしろお前にしかないような気がするけどなぁ」


 中尾は予想外すぎる展開に慌てふためいていた。

 大好きなアイドルとの恋仲。ファンならば誰もが願う夢だ。

 クソ野郎たちは夢を現実にしてしまえ、と囁いている。


「だけど、僕なんかに、悠子ちゃんが振り向いてくれませんよ……。いきなり告白してみても、断られるに決まってます……」


 天野も涼太も「当然だな」と、心の中で呟いた。


「いきなり告白されれば相手も戸惑うさ。お前のことを何も知らないんだからな」

「そう、ですよね……」

「だが、もし一緒にキャンパスライフを過ごし、お前の誠実さと愛情を知れば、聡明な女であれば気づくぜ。お前こそ、自分が必要としていたファンだ、ということにな」


 中尾が「あっ」と小さな声をあげた。


「そうか……。最初は友達になって、一緒に過ごしていれば……」

「小娘はお前の魅力に気づく。しかもお前はアイドルを守る『親衛隊』として動くこともできる。常に傍にいて、パパラッチや悪い誘い、もしくはアイドルに近づく悪漢を退けるナイトになれるのさ」


 天野の口車に乗り、中尾の顔が興奮に満ちていく。


「ダーティなビッチの女子大生、そんなイメージが付着しないよう、お前が努力していればいい。愛と正義の信念を持ったボディガードになるのさ。入学式を潰して中退させても、小娘の未来までは守れないが、ボディガードであり秘密の恋人ならば違う。これがお前にとっても、小娘にとっても、最適な未来のような気がするんだが……。お前はどう思う?」


 中尾は興奮のあまり身体が小刻みに震えていた。ニキビ面の頬と唇がピクピクと振動し、口の端から泡を吐き出している。想像もしなかった未来を提示され、中尾の脳味噌はパニック寸前だ。


しばらく中尾は震えていたが、意を決したように口を開いた。


「……ぼ、僕、その未来が良いです! 悠子ちゃんを守る未来が欲しいです!!!!」


 すがるように天野を見つめる。


「お、お願いします天野さん! 僕、悠子ちゃんのボディガードになります! 親衛隊を結成して、悠子ちゃんのキャンパスライフをサポートします! そうすることがベストだったんですね!」


 天野は不敵な笑みを浮かべ、大げさに指先を振り回した。


「そういうことだ。入学式を潰すことも、アイドルを中退に追い込むことも、そして、お前をボディガードとして推薦してやることだって、この俺様にかかれば全てうまくいく。作戦を少々修正して、小娘とお前のキューピッド役になってやろうじゃないか」

「あ、あ、天野さん! 本当に、本当に、ありがとうございます!」


 まるで土下座せんばかりの勢いで、中尾は頭を下げた。

 天野と涼太は互いに顔を見合わせ、小さな笑みを浮かべていた。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 此処まで読み進めて見ると、comico時代と違った感じがわかりました。 以前は登場人物のセリフの横にキャラクターのアイコンがあったので、誰が何を言ったのか自然とわかっていたのが、多少そ…
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