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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼が上手に愛人を捨てる方法
23/91

天野くんと殺人事件




 昨晩、深夜1時。

 中里美波なかざとみなみの『遺体』は歌舞伎町かぶきちょうにある『ラブホテルの一室』で発見された。


 遺体には何者かと争った形跡。さらに首を絞められた痕跡もあり、『絞殺こうさつ』された可能性が高いとのこと。

 ホテルには『男性』とチェックインした可能性が高いため、警察はその男性が事情を知っているとみて捜査を進めている。

 スポーツ新聞で報じられているのはそこまでだった。



「……どういうことだ。なぜ、あの女が殺されたんだ」



 天野が呆然と呟いた。

 何度もスポーツ新聞を睨みつけている。

 隣では涼太がスマホを操り、事件の情報を調べていた。


「……ダメだね。新聞に書いてある以上のことは報道されてない。誰に殺されたのか。いつ殺されたのか。遺体はどこのホテルで見つかったのか……。何ひとつわからないね」

「深沢の名前は出ていないのか? 歌舞伎町はアイツが中里と密会を重ねていた場所なんだ」

「そうなの? どこにも書いてないよ。警察はまだ深沢教授にたどり着いてないのかな? それとも……。一緒にいたのは、深沢教授じゃなかったのかな……?」


 天野はすかさず立ち上がった。

 スポーツ新聞を握りしめながらテラスの階段を駆け下りる。


「この時間、深沢はどこにいる? そもそもアイツは大学に来ているのか?」


 キャンパスを走りながら涼太に尋ねる。


「それが来てるみたいなの。深沢教授を見たって学生がいるんだ。たぶん今は法学部の教授棟にいるはずだよ」

「くそっ……。あのクズ野郎。何をしてやがるんだ」


 天野はキャンパスを駆け抜けた。

 法学部の教授棟に飛び込み、一気に階段を駆け上がる。

 目当ての部屋は2階の一番奥。殴りつけるように扉を叩いた。


「……はい、どうぞ……」


 天野は思い切り扉を開け放った。

 そこには青ざめた1人の男がいた。

 法学部の権威、深沢俊哉。

 ちょうど昼食中だったようで、豪華な弁当を机に広げている。

 深沢は天野の顔を見上げると、


「…………」


 何も言わずに顔を伏せた。


「このゲス野郎め」


 天野の全身から殺気が立ち上る。

 飢えた肉食獣のような表情を浮かべて、深沢を睨みつけた。


「女子大生を1人殺したというのに、自室で優雅に松花堂弁当を食らっているのか? 権力にしがみつく醜いブタめ。それ以上肥えて何がしたいんだ? 貴様はこの場で殺してやる」


 炎のような殺気が部屋に広がる。

 深沢は慌てて口を開いた。


「ち、違うんだ。私は殺してない……。私がやったんじゃない。信じてくれ……!」

「信じてくれ、だと? お前のようなゲス野郎の何を信じればいいんだ? お前が一学生に中絶の尻拭いを依頼するクズということは理解している。お前の倫理観なら『殺人』を仕出かしてもおかしくはない」


 天野はスポーツ新聞を机に叩きつけた。

 深沢の胸ぐらを掴み上げる。


「いったい昨日、何があった? なぜ中里を殺した? そして、なぜお前は自首していないんだ?」

「ほ、本当に私は殺してないんだよ……! 天野くん……! 信じてくれ……!」

「うるせぇんだよ。このクズめが」


 胸ぐらを掴んだまま深沢を引きずる。

 乱暴に床へなぎ倒した。


「俺は昨日、お前に中里美波としっかり話すように伝えたよな? ちゃんと『愛人』と向き合い、己の卑劣ひれつさを詫び、中里の意思を尊重しろと命じたんだ。その誓いは守れたのか? まず昨日、お前は中里と会っていたのか?」


 深沢は青ざめながら呻いた。

 鬼の形相を浮かべる天野に怯えている。

 胸ぐらを掴まれ呼吸が苦しい。


「おい、答えろよ。中里の遺体が発見されたのは歌舞伎町だぞ? 歌舞伎町といえば、お前が愛人と密会を重ねていたラブホがある街だ。昨日もそこで中里と会ったのか? 何を話したんだ? 何か言いやがれクズ野郎が!?」

「ちょ、ちょっと待って」


 涼太が慌てて止めに入った。


「勇二、落ち着いて。そのままじゃ本当に殺しちゃう。まずは深沢教授の話を聞こうよ」


 天野はようやく深沢から手を放した。

 深沢が酸素を求めて苦しげに喘ぐ。

 震える瞳で天野を見上げた。


「わ、私にも……。何が起きているのか、さっぱりわからないんだ……。確かに……。私は昨日、美波と会った……」

「それは歌舞伎町か? どこかのラブホテルに入ったのか?」


 深沢が微かに頷く。

 震える声でホテルの名前を口にする。


「歌舞伎町の『K』というホテルだ……。天野くんが言ってくれたように、私も真剣に美波と話しあったんだよ……。自分の不甲斐なさと、嘘を吐いていたことを謝罪した……。これからのこともしっかり相談した……。美波は……。美波は泣きながらも……。子供をろすことに同意してくれたんだ……」


 瞳を滲ませながら語っている。

 天野はそれを冷たい表情で見下ろした。


「美波はホテルに残りたいと言うから、私が先に1人で部屋を出た……。それっきりなんだ。それっきり、美波とは連絡をとっていないんだ」

「それは真実だろうな?」

「ああ、信じてくれ……! 私が部屋を出た時、美波は確かに生きていた……! それなのに、なぜ、こんなことに……! なぜ、美波が殺されているのか、私にもわからないんだよ……!」


 深沢は真っ青な顔で告げている。

 絶望と恐怖に包まれた哀れな表情。

 天野は顔を歪めながら吐き捨てた。


「そんなバカな言い訳を誰が信じるんだ? もし遺体が『K』というホテルで発見されたなら、部屋にはお前の指紋がたっぷり残っているだろう。ゲス野郎なお前のことだ。死体の中に体液が残っていても不思議じゃない。俺が警察に通報すれば『第一容疑者』はお前で決まり…………」


 天野は「いや、違う」と自らの言葉を否定すると、


「お前が犯人で決まりだ。それで事件解決だよ。警察はお前以外の犯行を想定することもないだろう」


 深沢は慌てて天野の足にしがみついた。


「た、頼む! 天野くん! 本当に私は殺してない! 無実なんだよ! 信じておくれよ!」


 涙を浮かべて天野を見上げている。

 慈悲を求める罪人のような表情。天野はそれを嫌そうに睨みつけた。


「チッ……。なんてことだ……」


 すがりつく深沢を振り払い、腕を組み、苛立ちの表情を浮かべる。

 何度も舌打ちしながら尋ねた。


「お前が中里を残し、ホテルの部屋を出たのは何時のことだ? ついでにホテルにチェックインした時間も教えろ」

「チェックインしたのは20時。ホテルを出たのは21時過ぎだった。私は1時間ほどしかホテルにいなかったんだよ」


 深沢は食い気味に答えた。

 恐らくその質問を警察から受けることを想定していたのだろう。


「中里の遺体が発見されたのは深夜1時……。お前の証言が真実であれば、中里が殺されたのは21時から25時の間ということか……。何か証明するものはあるのか?」

「ホテルの領収書がある。少なくとも、それでチェックインの時間は証明できる」

「領収書だと? そんなもの簡単に偽造できる。目撃者はどうだ? ホテルのスタッフと顔を合わせたりしたのか?」


 深沢は苦しげに首を横に振った。


「それは……。いないんだ……。あのホテルは、誰とも顔を合わせずにチェックインできる……。入る時も、出る時も、誰とも顔を合わせてはいないんだよ……」


 天野は呆れたように肩をすくめた。


「だから『K』というホテルを愛用していたのか。愛人との逢瀬おうせを楽しみ、人知れず殺すには最適なホテルだな。今の証言では話にならない。警察も耳を傾けようとはしないだろう。真犯人が出てこなければ、お前が犯人で終わりだよ」

「そ、そんな……! 天野くん頼むよ! 私を助けてくれ!」

「ならば助言してやろう。すぐに警察がお前のところにやって来る。身辺整理を済ませておくんだな」


 そう言い放ち、天野は深沢の部屋を後にした。

 廊下を足早に歩き、思い切り壁を蹴り飛ばした。


「くそっ……! くそったれが!」


 怒りの咆哮をあげながらタバコを取り出す。

 ここは法学部の教授棟。禁煙の場所だが、無視して火をつけた。

 猛烈もうれつな苛立ちを煙と共に吐き出す。


「ゆ、勇二……。ここは禁煙だよ……。喫煙所に行かなきゃ……」

「黙ってろ!」


 涼太を一喝いっかつ

 恐ろしいほどの形相を浮かべている。

 通り過ぎる教授や学生たちも、天野を注意することができなかった。

 涼太が携帯灰皿を持ちながら尋ねる。


「ど、どうなのかな……? やっぱり深沢教授が、中里さんを殺したのかな……?」


 天野はゆっくり首を横に振った。


「俺は目を見れば、ある程度の『心理』を読み取ることができる。特に『嘘』を吐いているヤツはすぐにわかる。人を殺したヤツの顔も、それなりに見破れるつもりだ」

「そ、そうだね。勇二には、そんな特技があるよね」

「俺が見る限り……。深沢は『無実シロ』だ。アイツは嘘を吐いちゃいない」


 涼太が「ぎょっ」とした表情を浮かべた。


「マジなの!? それじゃ……。他に真犯人がいるってこと!?」

「いや……。まだわからんな」


 天野は携帯灰皿を取り出した。吸い殻を乱暴にねじ込む。


(くそっ……。甘かった。深沢と中里を2人きりで会わせるべきではなかったんだ……)


 昨日、涙を流しながら「産みたい」と呟いていた中里の姿が浮かぶ。

 もっと違うやり方で接触すべきだった。違うアプローチで攻めるべきだった。深沢と中里の接触を遠くから監視し、どんな会話をするのか把握すべきだった。

 そうすれば『殺人』を防げたかもしれない。

 天野は短絡的だった自らの行動を恥じた。


「……何にせよ、今のままでは情報が足りない」


 厳しい瞳で涼太に告げる。


「俺は独自の情報網を使って事件を調べる。お前は中里の関係者から話を聞いてくれ。知人、友人、恋人、家族……。全てから話を聞き出せ。怪しいヤツはアリバイも調べろ」


 涼太は震えながら頷いた。


「わ、わかった……。警察には、まだ通報しなくていいんだね?」

「通報すれば深沢が逮捕されて『ジ・エンド』だ。あのゲス野郎にはそれほどの制裁を与えてやりたいが、もし『真犯人』が別にいるのであれば、そいつを逃がすことになる。それだけは絶対に避けなければならない」


 天野は虚空こくうを睨みつけた。呪いのような声で呟く。


「人殺しのクズめが……。絶対に見つけ出して処刑してやる。天才クソ野郎に目をつけられて、逃げ切れると思うなよ」




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