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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼女を上手にミスコンで優勝させる方法
12/91

天野くんの後日談




 学園祭から幾日か過ぎた。

 その日、涼太は天野と一緒に昼飯でも食べようかと思い、学生食堂の2階テラス席へ向かった。


(あれ? 変わったお客さんがいるじゃん)


 天野の隣に1人の娘が座っている。

 トップアイドルの前島悠子だ。

 天野は涼太の姿を見つけると、嬉しそうに手を振った。


「ああ、噂をすれば涼太が来たぞ」

「涼太さーん! 前島悠子です!」


 2人とも楽しそうな笑みを浮かべている。


(やばい。お邪魔しちゃったかな)


 そう思いながら、涼太は2人に近づいた。


「前島さん、こんにちは。ちゃんと話すのは初めてだよね」

「はい。入学式の時はありがとうございました。涼太さんにも助けていただいたんですよね」

「あれ? なんでそれを……ああ、そっか。勇二がバラしたんだね。あの時は驚かせてゴメンネ」


 涼太は苦笑しながら椅子に腰掛け、自らも昼食を取り出した。



挿絵(By みてみん)



「前島さんがテラスでお昼を食べてるなんて知らなかったよ。しかもクソ野郎とペアなんてさ」


 前島は無垢な笑みを浮かべ、ブイサインを作った。


「今日はですね、ゴチになってるんですよ」

「ゴチ? 誰が奢ってくれたの?」

「師匠に決まってるじゃないですか」


 前島は嬉しそうに天野を見つめた。

 天野はどこか不敵な笑みを浮かべている。


「……えぇっ? まさか勇二が奢ったの!?」

「はい! しかも『たぬきうどん』ですよ。私これ大好きなんです」


 涼太は驚いて天野を見つめた。

 天野は貧乏という訳ではないが、好んで他人に奢るような性格ではない。恋というパワーはクソ野郎の性格まで変えてしまうのか、と愕然としていた。


「なんだ涼太? 珍獣を見るような眼で俺を見るな」

「いやぁ……。勇二がお昼を奢るなんて、珍しいからさぁ……」

「前島には借りがあってな」

「か、借り?」

「ああ、ミスコンが終わった後、高木に礼を言って欲しいと頼んだんだよ」

「えぇ? お礼?」


 涼太はミスコン終了後の様子を思い出した。

 前島はインタビューを抜け、わざわざ高木の前にやって来て、涙さえ浮かべながら頭を下げていた。


「あれって、勇二の仕込みだったの?」

「そうなんですよ。師匠に頼まれたんです」


 前島は朗らかに頷き、『たぬきうどん(250円)』をすすっている。


「さすが国民的アイドルだ。希望通りの完璧な礼だった。あれがダメ押しになったな」

「あんなので良ければ、いつでも言ってください!」


 2人は仲良さげにハイタッチを交わしている。


「でも、本当に水着姿の司会が好評だったみたいで、事務所の人がスカウトしてみようかな、って言ってましたよ」

「ほう、女子アナの前にタレントになりそうだな」

「私もばっちり推薦しておきました!」

「良くやった。それでこそ俺様の弟子だ」

「ありがとうございます!」


 そう言って2人は、またハイタッチを交わしている。

 あまりに仲睦まじい光景に涼太は苦笑するしかなかった。


「あはは……。なんか、僕ちゃんお邪魔みたいだね……」

「はぁ? 何を言ってんだ。遠慮せずに食えよ」


 涼太が気まずさという味のおにぎりを頬張っていると、前島が時計を見て言った。


「あっ、もうこんな時間です。それでは仕事があるので、お先に失礼します!」

「おう。行ってこい」

「はい師匠! 行ってきます!」


 前島は元気良くテラスから走り去った。

 その背中を見送りながら、おずおずと涼太が尋ねる。


「ねぇ勇二、もしかして前島さんと交際することになったの?」

「はぁ? なんで俺があいつと付き合わなくちゃいけないんだよ」

「だって、かなり仲良しになったみたいだし、この間は惚れた、とか言ってたじゃん」

「あいつはな、弟子だ」

「で、弟子?」

「そうだ」


 天野はとんでもないことを言い出した。

 天下のトップアイドルを「弟子」扱いなんて、ファンが聞いたら許すまい。

 天野は困惑する涼太に、言って聞かせるように語り始めた。


「あいつは俺と同じ『クソ野郎』の素質がある。俺は生まれて初めて同じタイプの人間と出会い動揺したんだ。そのため、脳が恋と錯覚した」


 天野はまたとんでもないことを言い出した。

 天下のトップアイドルを「クソ野郎」扱いだ。

 ファンが聞いたら殺すだろう。


「あの小娘が持つ才能は素晴らしい。平然と嘘を吐くことができ、その演技力はピカイチ。腹黒のくせに純粋無垢な笑顔まで浮かべやがる。あれほどの素質を持つ女には会ったことがない。だから弟子にした」


 涼太は「なに言ってんのこの人、頭大丈夫かな」と思いながら天野を見つめた。


「あの才能は俺様に匹敵する。磨けば俺を超えるかもしれん。卒業したら『天才クソ野郎』の称号を譲っていいかもしれんな」


 いらないと思うよ、そんな称号、と涼太は思ったが、口には出さなかった。


「おっ、メールだ」


 白衣のポケットからスマートフォンを取り出すと、楽しそうに言った。


「噂をすれば、弟子からのメールだぜ」

「メ、メアドなんて交換したの? 天下のアイドル様と?」

「ああ、見るか?」

「う、うん」


 涼太は天野からスマートフォンを受け取った。


「『師匠、いってきまーす』」


 短くシンプルなメールだ。

 ただ、語尾にハートマークの絵文字が浮かんでいる。

 しかも唇を尖らせて瞳を閉じ、キスをねだるような写真まで添付されていた。


「付き合ってんじゃん!!」

「はぁ? だから交際していないと言っているだろう? 師弟関係だ」

「これは師匠に送るメールじゃない! どこの世界に師匠に「ちゅーしてもいいよ♡ ウフフ♡」みたいな写メを送る弟子がいるのさ! 恋人に送るメールじゃんか!」

「ああ、実に腹黒い女だろう? そこがいいんだよ。クソ野郎の弟子に相応しいじゃないか」

「なんだそりゃ!」


 涼太はスマートフォンを天野に投げつけて叫んだ。


「もう! なんなのよッ! なんで師弟関係になってんの!? せっかくクソ野郎にも春がやって来たと思ったのにさぁぁぁーーー!!!」


 涼太の悲しげな悲鳴がテラスにこだましていた。






(おしまい)



ご愛読いただきありがとうございます。

何かひとつでも心に残るものがあれば幸いです。

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