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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼女を上手にミスコンで優勝させる方法
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天野くんとミスコン



 そして最後のメインイベント、ミスキャンパスコンテストが中央の広場にて開催された。

 学生や一般客はもちろん、沢山のマスメディアが集合しており大混雑だ。


「それでは、ミスキャンパス候補の皆様、ご登場ください!」


 ここでも司会を務めているのは高木だ。

 ピンクのビキニ姿でマイクを握っている。

 元々、水着審査などは存在しなかったのだが、


「少しでも目立て。お前は貧相なのだから、それぐらいでちょうどいい」


 という天野の指示により、無理やり水着姿にされていた。

 天野は高木の司会姿を満足気に眺めながら、実行委員長である葛西に声をかけた。


「葛西よ、無理を言ってすまなかったな」

「いや、いいんだ。天野の頼みなら仕方ないさ」


 葛西は心の中で「過去のネタで散々脅しやがって。このクソ野郎」と、毒づいていた。


「これもそれなりに盛り上がっているじゃないか。さすが俺様のアイデアだ」

「まぁ、確かにな……。ウケは思ったよりいいな」


 運が良いことに、司会に関してはスポンサー様からの指示はなかった。

 水着姿の『司会者兼エントリー者』というのは物珍しく、会場のテンションも上々だ。


 しかし、それがミスとしての評価に繋がる訳ではない。

 舞台上ではビキニ姿の高木が、


「エントリーナンバー5番は、本日の司会も担当している高木美穂です! 皆さんよろしくお願いします! チャームポイントはフラフープで鍛えた自慢のウエストです! 私の『セクシーフラフープ』を見てください!」


 と叫んでいるが、会場からの反応はかんばしくない。

 精一杯の谷間をアピールしても無駄。どれだけ官能的に腰を振ってみせても無駄。会場のリアクションは冷ややかなものだ。


 それも致し方なかった。

 最後のエントリーナンバー6番は、トップアイドル前島悠子だ。

 会場のお目当ては国民的アイドル様。

 観客や何台ものカメラが、その時を待っている。


「そして最後のエントリーナンバー6番は……。皆さん、お待たせしました! トップアイドル、前島悠子ちゃんです!」


 一斉にカメラのフラッシュが焚かれる。

 会場のボルテージは最高潮に達した。


「どうも、皆さんこんにちは! 教育学部1年、前島悠子です!」


 照れ臭そうな笑みを浮かべながら、前島悠子が舞台上に現れた。

 小さく手を振りながら歓声に応え、純真無垢なアイドルの笑顔をばら撒いている。

 高木もおこぼれにあやかろうと、さり気なく前島に近づいていた。


「前島さんのアピールポイントを教えてください!」

「最近お菓子づくりにチャレンジしてるんです! 今日もクッキー焼いてきたんですよ!」

「うわぁ、凄いですね! みんな前島さんのクッキー食べたいですかぁ?」


 会場から「食べたーい!」という悲鳴のような歓声が上がる。


「それじゃあ……。えぇーい! とりゃー! うおりゃああぁぁーー!!!」


 前島はバスケットから小分けされたクッキーを投げ始めた。

まるで節分の豆のように舞台下の観客に投げている。観客はクッキーを取ろうと必死だ。


 アイドルの手作り菓子を取り合うイベントが過ぎ、全てのエントリー者がステージに並んだ。


「それでは、皆さんのアピールタイムが終了したところで、今年度のミスキャンパスを発表します! ただいま集計結果の用紙をいただきました!」


 司会役の高木が実行委員から紙を受け取った。

 ここに優勝者の名前が書かれている、というシナリオだ。


「今年度のミスキャンパスは……なんと! 圧倒的大差のため、準ミスキャンパスは今回、いらっしゃいません!」


 観客が「ええっ?」と大きくざわめいた。

 高木は一呼吸置くと、


「つまり、今年度のミスキャンパスは……」


 大声でその名を呼び上げた。


「エントリーナンバー6番! 前島悠子ちゃんです!」


 本日一番の大歓声が上がり、沢山のフラッシュが前島に焚かれる。

 前島はトップアイドルのスマイルを満面に浮かべてそれに応えた。



**************



 無事に全てのイベントが終わった。

 学園祭はつつがなく終了しようとしている。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


 高木は肩で大きく息を吐きながら、その場に倒れこんだ。


「もう、限界……。喉、ガラガラ……。お水、お水ちょうだい……」


 天野が高木にジャケットをかける。

 ペットボトルの水も手渡しながら声をかけた。


「最後まで見事な司会だったぞ。ただ声が途中かすれたな。技術が未熟すぎる。まだまだ、お前にはボイストレーニングが必要だよ」

「ハァ……ハァ……。アンタねぇ……。最後ぐらい、素直に褒めなさいよ……」


 ペットボトルの水を飲みながら毒づく。

 もう少々文句を言ってやろうかと口を開いた時、1人の娘がやって来た。


「高木先輩!」


 トップアイドル前島悠子だ。

 高木は驚いて前島を見上げた。


「あら、あなた、どうしたの……? まだ取材があるんじゃないの?」


 前島は倒れている高木に近づき、その手を強く握る。

 そして澄んだ瞳を潤わせながら言った。


「高木先輩、本当にありがとうございます!」

「……えっ? 私、あなたに何かしたかしら……?」


 前島は無垢な笑顔を浮かべながら袖口で瞳を拭った。

 前島が泣いていることに、高木はその時気づいた。


「本当に素晴らしい司会でした! 私とっても感動しちゃいました! イベントが無事に成功して終われたのは、全て高木先輩のおかげです! ありがとうございました!」


 高木は悔しそうに前島を見つめた。

 このアイドル様には逆立ちしても勝てないと、痛感するしかなかった。


「……そう。お世辞でも嬉しいわ」


 素直に前島の手を握り、賞賛の言葉を贈った。


「前島さん、おめでとう。あなたが、ミスに相応しいわ」

「ありがとうございます! あっ、呼ばれてしまいました」


 テレビ局の人間が前島を呼んでいる。

 まだインタビューの途中なのだ。

 前島が勝手に抜けてしまったので、少々ご立腹の様子だ。


「また学校で!」


 純真無垢な笑顔を浮かべて去って行く。

 天野はその後ろ姿を眺めながら呟いた。


「あいつ、お前に礼を言うために、わざわざ抜けて来たんじゃないのか?」

「だったらなんなのよ」


 隣にいた涼太も呟く。


「前島さん、よっぽど高木さんの司会姿に感動したんだろうね」

「そうだろうな。その気持ちはわかるよ」


 高木は2人の声を聞き、自嘲じちょうするような薄笑いを浮かべた。


「それが、なんだっていうのよ……」


 じわりと涙がこみ上がってきた。

 相手は大衆に愛されるトップアイドル。

 こちらは水着姿で喉を枯らして叫んでいた脇役。


 同じ女なのに。

 同じ大学生なのに。

 同じミスコン候補者だったのに。

 先ほどまで同じステージに立っていたのに、生きる世界はまるで違うように感じた。


「どうせ、あっちはトップアイドルで、ミスキャンパス……。私は水着姿の司会者……。あはは……。とんだ、ピエロじゃない……。ひっく……うっぐ……」

「それは違う」


 天野は高木に向かって怒鳴った。


「今日のお前はピエロなんかじゃない! 立派なアナウンサーだ!」


 高木が驚いて天野を見上げる。

 天野は指先を軽やかにひるがえし、自らの胸元を親指でさした。


「本物の女子アナは、そのアナウンスで観衆の心を打つ。まさしく今のお前がそうだ。お前は様々な会場で女子アナとして全力を尽くし、最後はあの前島悠子まで感動させた。お前の言葉が、お前の魂を込めた言葉だけが、トップアイドルの心を揺り動かしたんだ!」


 天野はどこか優しげに微笑んだ。


「お前はピエロなんかじゃない。アナウンサーという、欠かせない主役のひとりさ」


 高木は大声で泣き出した。



**************



 陽が傾き、キャンパスに夕陽が差し込んでいる。

 ミスコンのステージは撤去され、一般客もキャンパスを去った。

 それでも高木の泣き声は止むことがなかった。

 天野と涼太は高木が落ち着くまで、ただ黙って傍に立っていた。


「……私、思い出したわ……」


 鼻をすすりながら高木が呟く。


「どうして、女子アナになりたかったのか……。どうして、それが私の幼い頃からの夢だったのか……」


 高木は静かに立ち上がった。


「私は自分の声や、自分自身の存在で、沢山の人に色々なことを届けたかった……。そのことを忘れてた、忘れてたの……。天野くん……」


 涙で顔を濡らしながら、天野を見上げた。


「あなたは『力を出し切らなければ夢は叶わない』って、言ったわよね」

「ああ、そうだったな」

「ふふっ……。その通りよ……」


 高木は小さく微笑んだ。


「私には声量も、滑舌も、表現力も、何もかも足りなかった……。本当はそのことをわかってた。でも、それを改善する努力を怠って、ミスコンという肩書に頼ろうとした……。これじゃ立派なアナウンサーにはなれないわ……」


 高木はタオルで涙と鼻水を拭い、どこか吹っ切れた笑顔を浮かべた。

 はにかみながら天野に手を差し出す。


「天野くん、ありがとう。私、もっと努力する。そして、いつか本当のアナウンサーになってみせるわ」


 天野は力強く高木の手を握った。


「そうだな。俺はそのことを、お前に思い出して欲しかったんだ」


 涼太が「本当かなぁ」と心の中で呟く。

 3人をみかん色の夕焼けが包み、学園祭は終わりを告げた。




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