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天才クソ野郎の事件簿  作者: つばこ
彼女を上手にミスコンで優勝させる方法
10/91

天野くんの学園祭



 あっという間に日は過ぎていき、学園祭の当日を迎えた。


 この日は大学もキャンパスを解放し、一般の来場客を招き入れる。

 大学の生徒や関係者。卒業生や高校生。

 様々な人々が楽しそうにキャンパスを歩いていた。


「ねぇ……。本当にこんなことを、やらないといけないの?」


 天野と高木はひとつのステージの隅で打ち合わせをしていた。

 高木は何度も台本に目を通し、うんざりした顔つきで天野を見上げる。


「何度も同じことを説明させるな。お前はミスになれない。優勝は前島悠子で決まっている。このデキレースを覆すことは不可能だ」

「そのデキレースをぶち壊すのが、天野くんの仕事でしょ」

「黙れ。俺様にも不可能なことはある。だが、不可能を捻じ曲げることぐらいはできる」

「だからって、こんな作戦……」


 天野は厳しい声をあげた。


「グダグダ言うんじゃない。お前が欲しいのはミスの座ではなく、女子アナになるための『肩書』だろう?」

「そうだけどさぁ……」

「スポーツ選手に近づき、玉の輿に乗りたいんだろ? これは未来のお前がすべき仕事でもあるじゃないか」

「私はこんなのやりたくない。こんな女子アナ御免だわ」

「ほう、それじゃお前は死ぬまで、お偉いさんの上で腰を振りたいのか。くだらねぇ人生だ」


 天野は厳しい表情で台本を掴み、高木に突きつけた。


「俺様から見れば、こっちの方が枕営業よりラクだ。お前だって、本心じゃそう思っているんじゃないのか?」


 高木はムスっとした表情で黙り込んだ。


「それにな、どんな手段を選んだとしても、最後はお前が力を出し切らなければ夢は叶わない。わかったか」


 高木はじっと台本を睨みつけた。

 そして、天野の顔も恨めしく睨む。


「……もう、わかったわよ」


 高木は台本を取り、ヘッドセットを装着してスタンバイした。


「よし、行け! 特訓の成果を見せつけろ!」


 高木は四角いリングを見上げた。

 台本をさり気なく目の前に置く。

 大きく息を吸い、この1週間、練習し続けた台詞を叫んだ。


「お集まりの皆様方! 大変お待たせいたしました! 今ここにひとつの伝説が蘇る! 我が学園が誇る英雄の登場です! 赤コーナー! マスクドゥーーキャメレオォォォォーーーン!」


 絶叫に近い高木のアナウンスに合わせて、赤コーナーより『カメレオンマスク』が姿を現した。

 自慢の筋肉を観客に見せつけ、リングへ颯爽と飛び上がる。


「青コーナァー! 好物は豚肉! 恋人も豚肉! お前をしゃぶしゃぶにしてやる! 共食い上等だ! イベリコォォゥゥーーーーーカメェェェーーーン!」


 声のキーを限界まで上げて、青コーナーの『イベリコ仮面』をアナウンスした。

 イベリコ仮面が豊満な腹を観客に見せつけ、よたよたとリングに上がる。


 両者がリングインするとゴングが鳴った。

 高木は熱い実況を繰り広げた。


「さぁ、注目の両者の立ち会い! おっと、いきなりイベリコ仮面のトンカツチョップ! チョップ! チョップの連打! いいトンカツが出来そうだ! ジュシーなチョップ音がリング上にこだまする!」


 イベリコ仮面のチョップを嫌い、カメレオンマスクは場外へ逃げ出した。


「たまらずカメレオン場外に! おっと! パイプ椅子を取り出した! 近くのお客様、お逃げください! 選手に近寄らないでください! 危ないイベリコ仮面! いや、イベリコがトップロープに上ったぞ!? まさか飛ぶのか? 飛べない豚はただの豚だぞ! イベリコまさか、まさかの……!」


 歓声に応え、イベリコ仮面が場外へ舞った。


「飛んだぁぁぁ!!! 場外のカメレオンマスクに、ダイビング・トンカツ・チョォォップ! これは効いたか!? 両者、倒れて動けません!」


 学生プロレスの実況席で、高木が戦いの模様を叫んでいる。

 集まった観衆は高木の熱気溢れるアナウンスと、リング上のコミカルな戦いに笑っていた。


「うむ。練習したかいがあった。実に良いアナウンスだ」


 天野が会場の隅で、満足気に高木のアナウンスを聴いている。


「確かに女の子の、学生プロレスの実況アナウンサーなんて珍しいけど……」


 隣には涼太の姿。呆然と高木のアナウンス姿を見つめている。

 高木は唾を飛ばし、顔を真っ赤にして叫び続けている。

 そこにはどこか高飛車だった普段の面影はなかった。



**********



 激戦は20分に及んだ。

 最後はカメレオンマスクがシットダウン式ラストライドからのフェニックススプラッシュでフィニッシュ。

 イベリコ仮面から3カウントを奪い、白熱した戦いに幕を下ろした。


 高木は最後まで全力で叫び続けた。

 天野の指示通り、全ての声量を込めて実況したのだ。

 さすがに体力を使い果たし、肩で息を吐いている。

 天野は拍手で高木を出迎えた。


「良いアナウンスだったぞ。だが、やはり終盤は声のボリュームが落ちたな。もっと腹から声を出せ。最低でも腹式呼吸ぐらいはマスターしろ」

「う、うるさいわねぇ……」

「ほら、休んでる暇はないんだ。次に行くぞ」

「わ、わかってるわよ……」


 天野たちは次のイベント会場に移動した。

 場所は講堂の近くに設置された野外ステージ。沢山のお客が集まっていた。

 学園祭のために人気お笑いコンビを呼んでいるのだ。


「はいはーい! どうも!」


 天野と高木はステージに飛び出すと、漫才師のように挨拶した。


「こんにちは! 経済学部の高木ですぅ」

「どもども。医学部の天野ですぅ」

「今日は、お笑いコンビのケミカルキングさんに来ていただいてるんですよ!」

「えぇ? あのケミカルキング? 超人気者じゃないですか?」

「みんな、会いたいですかぁ?」


 会場に問いかけると「会いたぁーい!」という歓声が響く。

 観客のほとんどは、お笑いコンビであるケミカルキングの大ファンだ。

 天野は恐縮しながら頭を下げた。


「もうすぐなんで、楽しみにしてくださいね! 俺たち前座なんですよ!」

「そうそう。会場を温めないといけませんからね」


 頭に手を当ててコミカルにおどける高木を、天野がわざとらしく持ち上げる。


「皆さん知ってます? この高木さん、今年のミスコン候補者なんですよ! 美人でしょ!?」

「そうなんですよ。いや、うち恥ずかしいわぁ」

「ミスコン候補者の前座漫才なんて、うちの大学でしか見れませんよ!」

「ねぇねぇ、せっかくだから、うちの良いとこアピールして!」


 高木が甘えてねだると、天野が楽しそうに高木の顔を指さした。


「なんと! 凄いんですよ! この高木さん、顔に目が2つもあるんです!」

「そうそう、ぱっちりお目々が2つ……って誰でもそうでしょ! 他に褒めるとこないの!」


 ちなみに天野がボケ役で、高木がツッコミ役だ。

 天野はいきなり悲しそうに泣き出した。


「ひっぐ……なのに……口がひとつ……」

「誰でもひとつだよ! しかもなんで泣いてるのよ!」

「しかも、汚い……」

「汚いとか言うな!」

「心が……」

「心かよ! 口じゃなくて心か! それ最低じゃない!」


 天野は途端に泣き真似を止めて、高木を惚れぼれとした表情で見つめた。


「でも高木さん、スタイルが素敵なんですよねぇ」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわぁ」

「見せちゃって! 会場のお客さんに見せちゃって!」

「もう。うち、恥ずかしいわぁ」


 高木は堂々とコートを脱ぎ捨てた。

 コートの下に隠れていたのはピンクのビキニ姿。

 冷ややかに眺めていた観客も思わず「おおっ」と歓声を漏らした。

 高木は艶っぽく肢体したいを披露していたが、天野はそれを見ると、また悲しそうに泣き出した。


「ひっく……。うぇっぐ……ぐすん……」

「ちょっと、なんで人が脱いでるのに泣いてるのよ」

「ビキニ姿じゃ……心の汚さが隠せない……」

「やかましい!」


 会場は一瞬沸いたが、後は冷めた目で2人の漫才を観ていた。

 お目当てはこの後に出てくるプロの漫才師だ。

 学生の漫才なんて端から興味がなかった。

 2人は一通り漫才を終えると、ステージからコミカルに去った。


「はぁ、はぁ……。やっぱり、全然ウケてなかったじゃない……」


 肩で息をしている高木とは対照的に、天野は平然としている。


「当たり前だ。前座だぞ。おまけに学生の漫才なんか滑って当たり前だ。別にお笑いコンビを目指しているワケじゃないんだ」

「そうは、言っても……。せっかく脱いだのに……」

「そんなことより息が切れすぎだ。まだ次があるんだぜ」

「少しだけでも、休憩できないの……?」

「休憩の暇はない、と言ったろう。時間がない。走るぞ」

「わ、わかったわよ……」


 2人は次々と学園祭の出し物に参加してアナウンスを行った。

 映画研究部、落語研究部、演劇部、吹奏楽部、軽音楽部……。

 あらゆるイベントに参加し、空いた時間は迷子や落とし物などの、総合アナウンスまで行った。


 全て事前に天野と涼太が各サークルや部活動に頭を下げ、司会などを任せてくれるように頼んだものだ。針の穴を縫うようなスケジュールを作成している。


 これが天野の用意した「肩書」だ。

 あらゆるサークルの司会やアナウンスを任されるフットワークの軽い女子アナ、という肩書を作るつもりだった。


 高木はキャンパスのあちこちで声を張り上げた。

 昼を過ぎた頃には、喉はすっかり枯れていた。



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