05 マカロン
過去回です。
これは、昔の話。
俺が、まだ小学四年生の頃のこと。
「あっ………。」
俺は、昔っから裁縫とか料理とか、そういうのが好きだった。
その日も、マカロンとクッキーを作っていた。
クッキーはまぁまぁの出来だったのだが、マカロンの生地はどれも膨らんでいなかったり、ひび割れていたり、少し焦げていたり。
メレンゲかマカロナージュがだめだったのかな……。
そんな事を考えながら失敗したマカロンの生地をよける。
これは後でクッキーに作り直そう……。
うまくできたクッキーのみをラッピングして、カバンに入れる。
そうだ、と、よけたマカロンの生地からあまりひび割れていない、少し焦げている程度の生地を選別し、バタークリームを挟む。
ついでに、母さんが買いすぎていたいちごも間に入れる。
生地の焦げやひびなどを気にしなければ普通のマカロンである。
よし、と頬を緩ませて、皿に盛り付け、木のお盆に乗っけて部屋へ持っていく。
キッチンを片付けた後に食べよう、と部屋を後にした。
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「ふぅ……。」
流石に片付けには時間がかかった。
父や母などの大人の力は借りれないしね。
この趣味は父や母、兄たちなどには隠しているのだ。
……妹の雨にだけは知られちゃったけど。
うまくできたクッキーなどはおじいちゃんに持っていっている。
材料費などもじいちゃんからもらっていた。
まぁ、じいちゃんからはお菓子を買ってきてって頼まれてるだけなんだけど。
トン、トンと階段を上がる。
俺の家は昔から一人一部屋だったから、部屋は自分の城みたいなものだった。
―――ガチャッ
部屋の扉を開け、部屋に入る。
「え…?」
俺の部屋には、黒葉兄ちゃんと白夜兄ちゃんがいた。
そしてなぜか二人して俺のベットに座ってマカロンを食べていた。
「……あ。」
「あー。」
そして、俺が帰ってきたことに気づくなり、二人してやばいって顔でこちらを向いた。
そんな二人を見て、俺の頭の片隅でさすが双子、と思っている自分がいた。
「……なんでいるの? そしてなんでそのマカロン食べてるの?」
「すまん! ただ少し留依と遊ぼうと思って……。」
「来てみたら、このマカロンがあってね。くろが食べちゃって。」
俺の声を聞いて、兄たちは必死に弁明しようとしている。
「しろだって、食べてただろ!」
「それはお前が口に突っ込んできたからだ!!」
そして、いつの間にか兄たち二人の喧嘩になってしまっていた。
「ねぇ、くろ兄ちゃんもしろ兄ちゃんもなんでマカロン食べたの?」
「うまそうだったからだ!
……あ、もしかして留依が楽しみにしてたマカロンだったのか!?」
「くろ、もしかして気づいてない?
……あのマカロン、留依が作ったんでしょ?」
しろ兄ちゃんは昔から頭が良くて、いつも言い負かされていた。
なんで気づかれたんだろう。
その時、俺はその事ばかり考えていた。
「お店で売ってたマカロンにしては生地が焦げてたり、ヒビが入ってたりしていた。
ヒビが入っているのは留依がなにかしたから、で済ませられるけど、焦げはどう考えたって作ったときにしかできないだろ?」
その言葉にう、と俺は言葉に詰まる。
「なんで、かくしてたの?」
「……女みたいで、おかしいってみんなに言われたし。」
そう言うと、しろ兄ちゃんは笑いながら言う。
「なんでそれだけで「女みたい」っていうんだろうな。
料理の手伝いくらい、誰でもやったことあるんじゃないか?」
「でも、俺が作ってるのはお菓子だし……。」
「ん? というか、女らしかろうが、なんだろうが、好きなものは好きなんだろ?
……それとも、留依には俺たちが人の好きなものを馬鹿にするような人間に見えるか?」
くろ兄ちゃんがそういう。
おれはこの時、ほんとにくろ兄ちゃんがかっこいいと思った。
「ううん。」
「じゃあ、今度からはちゃんと話して。」
「そうだぜ。」
「――うん!」
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このときから、俺は好きなものや秘密を兄弟の間で共有するようになった。
「はは。」
小さい頃の、思い出だ。