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悪魔は囁き天使は怒鳴る

作者: 雉白書屋

 俺の頭の中には天使と悪魔がいる。そいつらは俺が選択を迫られた時に現れるんだ。

 妄想? イカれてる? どうだっていいさ。大事なのはそれが俺にとって事実だということ。

 そして今……。


「ねぇ……自分のものにしちゃいなよ」

「駄目です! 急いで交番に届けるのです! 社会の役に立つのです! さぁ、ほら! 走って!」


 彼はため息をついた。そして、キッと睨み言った。


「あのさぁ、何でいつもそう高圧的なわけ?」


「え、わ、私?」


「そうだよ。何でいつもいつもそう大きな声で俺にしつこく命令するんだ。悪魔のほうがまだいい。囁くだけだし、しつこくないし……」


「え!? は!? はぁ!? 私がいつ、しつこくしたって言うんですか! それに悪い奴ほど優しい言い方をするものでしょう!

何なんですか! 悪魔の肩を持つなんて! 貴方最低ですよ!

私が悪いんですか! いつも貴方のためを思って言っているんですよ!

そうでしょうそうでしょうそうでしょう! 貴方のためを思うからこそ厳しい言い方をするのです! 人間もそういうものでしょう!

それを貴方は本当に何なんですか! 何考えてるんですか!? はあ!? はああああ!?

謝って下さいよ! 傷ついた私に! 今! すぐに! できないんですか! 私は常に貴方を――」


「それそれそれ、そういうところが本当に……」


「本当になんですか! 何を言うつもりですか!

言葉は良く考えてから言ってくださいよ! 取り消せないんですから!

私の心をこれ以上傷つけるっていうんですか! 貴方はそこまで悪魔に毒されてしまったんですか!

……ちょっと待ってくださいよ。そもそも命令しているとは何ですか!

私は提案しているんですよ! て・い・あ・ん! わかりますか! 決めるのは貴方です!

それをまた私が考えを押し付けているような言い方をして! いいですか! 私はねぇ!」


「い、いや、これまでいつも天使の言うことを聞いてきたじゃないか。

この前だってわざわざ交番に十円を届けて一瞬、戸惑われたじゃないか。そもそもたかが十円で手続きとか手間を、他にもこの前――」


「たかがとは何ですか! 信じられません! もう絶句です絶句! 私絶句中!

もしかしたら子供が落として探していたかもしれないじゃないですか!

どうして貴方はそこまで薄情になってしまったんですか!

悪魔ですね! 悪魔の仕業なのですね! いいや、これは貴方自身の問題です! 悪魔のせいにしないでください!

ああああ、私は悲しい! 正しい道に導くつもりがいつの間にか悪の芽が! 根付いてしまっている!

でも! 私は! 諦めません! 貴方を必ず救います! 貴方に幸せを掴んで欲しい!」


「いや、だから言うことを聞いてきたのに幸せどころか友達とかいな――」


「それは貴方の内気な性格のせいでしょう! 何なんですか! 今度は私のせいにするって言うんですか!

そうやって人のせいにするところも悪いんじゃないんですか!?

そもそも最終的な決定権は貴方にあるんですからね! 自分が決めたことなのに私のせいですか!

大体! 貴方が……何ですか! 何の真似ですか!

落し物ですよ!? 勝手に使っていいと思っているんですか!

あーあーいいでしょうとも! やれるものならやってみなさいよ!

私を消し去りたいんでしょう! ほら! 早く! やれるもんならね! ほらほらほらほらほら!」



 轟く銃声。彼の手にある紙袋には焦げ跡がついた一つの穴。そこから一筋の煙が出た。まるで魂が空に昇るように。

 天使は消え、彼が求めていた静寂が訪れた。

 しかし、それは一瞬の事。天使が視界から消え、代わりに彼の目の前に現れたのは、まさに今、膝から崩れ落ちるように倒れる人。そして悲鳴が木霊する。


 真昼の街中での凶行。幸い、犠牲者は一人だけだった。

 取調べにて「天使に言われたから」と答えた彼に向けられた刑事の目には「悪魔じゃなくて天使?」とあったが彼は特に気にしなかった。

 牢屋の中にいる今も、ようやく手に入れた静けさに満足していた。

 ただ時折考える。

 あれは両方とも悪魔だったのではないかと。

 二人一組で人間の魂を罪で汚そうと。

 ……いや、ただの妄想。そう、全て。そしてそれももう終わったこと……。


「……私は貴方を見捨てませんよ」


 背後から囁くたった一つの声。それは悪魔か、それとも……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み始めた段階では、まさか、最後そんな展開になるとは思いませんでした、、、! 短い文の中でも、読み応えのある文章でした!
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