交易都市⑤
雑魚なんていってごめんよ。
照れながらそういって、少年は程なく眠りに落ちた。
結局宿にはいられなくなってしまったので、僕たちは路地裏の物陰で、宿から失敬したボロ毛布に二人一緒に包まっていた。
ふと、小さな手が僕の胸を掴む。
コノヤロウ、起きてるのか?!……そう思ってアダーンの顔をみると、安らいだ顔をして眠っていた。
小さな呟きが聞こえた。
"母さん……"
その声に、僕は小さな身体を抱きしめ、一晩中、金色の髪を撫でていた……。
「アダーン、一つ提案がある」
翌朝、まだ眠そうに目を擦っている少年に、僕はそう声をかけた。
「僕をボディガードに雇わないか?」
「……はぁ?」
「行き先はお前の母親の待つ町まで。どうだ?」
「!!──ロアーヌ!!」
「報酬は一日煙草1本。いい値段だろ?何しろ僕はサイテーランクの雑魚だからなぁ?」
顔を輝かせて飛びついてくる身体を、僕は抱きとめて言った。
「じゃ、行こうか」
そうして僕らは歩き始めた。
果たしてアダーンの母親に、無事に会えるかはわからないが……彼の明るい笑顔を見ていると、それは遠くない未来に、叶うような気がした。
END




