悪魔の王との談判
「私の兵士達をいとも簡単に倒してしまうなんてね」
悪魔の王が言った。「私の名前は、ゴブ。交換条件をしよう」
「私は、騎士の長官のラーノット。交換条件とは?」ラーノットが聞き返した。
「そちらにある紅玉を私に渡して欲しい。条約にサインしないなら、あと、三十万の兵士が立ち向かう。今度こそ、負けない」
「そんな勝手な…。どうして紅玉が必要なんですか?」とラーノットが聞いた。
「紅玉の力があれば、こちらが主導権を握れるのでね」
ゴブは、そう言うと手を揉み手した。「魔術師どもを部下にできる」
「サーチェル姉さんは、どうしてるの?」
悪魔達の事は、サーチェル姉さんの管轄だった。
「今朝、逃げたよ。さあ、どうする?」
とゴブ。
サーチェル姉さんが逃げるほど、危険か。ラーノットが困った。
「条約にサインするわけにはいかない」
アルヴァは強く言った。
「そんな事言っても駄目だ。あの紅玉は私の物だからな。ウィルディスの海戦前には私が持っていた」
「あなたは、そんな年なんですか?」
とルミナリーが驚く。
「数千年生きている。魔獣なら当たり前だ。さあ、寄越すのか寄越さないのか、はっきりしろ」
「条約にサインしないよ」
その声は。
「サーチェル姉さん」
ラーノットが、叫んだ。
青と白のオッドアイの金髪美女は、まさしくサーチェルに他ならなかった。
ただ、緑の洋服が汚れている。
「大丈夫だったのね」とキルティ。
「心配かけたな」
悪魔の王に向き直るサーチェル。
「昨日言った通り、条約は、破棄だ」
魔獣の王は、歯ぎしりした。
「どんな事になっても知らないぞ。皆の者帰るぞ」
そう号令をかける魔獣の王。
悪魔が去って行く。
「振り返るな、ラーノット」
と突然アルヴァの大きな声が聞こえた。
ラーノットは、後ろを振り向かず、一歩前に進んだ。
アルヴァがラーノットの代わりに敵に立ち向かう。
火の魔法を使ったのが、見える。剣から火が出て悪魔が怯み、数歩先に飛びさる。そして、消えた。
「では、また現れるぞ」
ゴブも消えた。
「アルヴァ、助かったわ」
ラーノットがお礼を言う。
「君に何もなくってよかったよ」
とアルヴァが答えた。
「交渉決裂したみたいだから、また来るわね、それもたくさんの悪魔達が」とルミナリー。「作戦たてましょう」
「そうだな」とアルヴァ。「見張り台にいるアルトに相談しよう」
そういうことで、ラーノット達は、拾人だけ見張り台の中に入っていった。