始めの物語
夜空には星が照る。そんな真っ暗闇に剣を振る声が聞こえる。
騎士団の長官を務めるラーノットは、今日も鍛錬に明け暮れていた。
ラーノットは、今年30歳。長官に任じられてから2年の時が経っていた。
長官として書類を整理したりするだけでなく、先陣を切って、戦いに臨みたいと彼女は考えていた。
長かった髪を短く切り、まるで本当の男騎士のようだ。後ろから、気配を感じ、身構えて振り返る。
「ラー」ルミナリーが声を掛けた。「そろそろ眠る時間よ」
ルミナリーはラーノットの妹だ。医女として軍隊に参加している。
去年、同じ軍医のスペースと結婚した彼女は、少しふっくらしたようだ。
そっと胸を撫でおろすラーノットなのであった。
「ありがとう」
ルミナリーに続いて、城に戻る。
途中ルミナリーが話しかけてくる。
「アルヴァすごいわね。あの歳で、番人を任せられるなんて」
「そうね。私も負けてられないわ」
とラーノットが意気込む。
「ラーノットもすごいけど、アルヴァ本当に立派になったわ。魔術師の女子からも人気よ」
「そう」
ラーノットは、それだけ言う。
ルミナリーは、ラーノットの顔を覗き込む。
そして、前を見つめる。
「ところで、アルヴァと本当に結婚しないの?」
とルミナリーがラーノットに問いただす。
ラーノットが仏頂面になる。
「アルヴァは、親友よ。それに私仕事一筋なの」
とラーノット。
「結婚しても仕事はできるんだけどな」
とルミナリーは言った。
「私なんか仕事まだまだよ。もっと仕事に打ち込みたい」
ラーノットは、青の目を煌めかせて言う。
「まったくもう」
とルミナリーが呆れたように言った。
城に戻ると、ラーノットは、自分の部屋の前で「ドアよ、開け」と言って鍵を開けた。
部屋は荒れ放題で、本に溢れていた。全部鍛錬の本だ。それに、関係するメモも。
真ん中に寝袋があり、そこに滑り込む。
「おやすみなさい」
ラーノットは、そう独りごちて眠った。
朝起きると、大広間には、人がいっぱい集まっていた。
今日の朝ごはんは、ライ麦パンにバターがついて、卵にフィッシュアンドチップス、野菜が添えられていた。
「「いただきます」」
皆で食べ始める。
朝食の後は、鍛錬の時間。
「おはよう」
忙いで、鍛錬場に向かうラーノットに呼びかけたのは。
「アルヴァ」
赤髪のアルヴァが立っていた。
「君も鍛錬場に向かうの?僕も行くよ」
「ええ、もちろん」
ラーノットは、微笑んだ。
二人は鍛錬について談義しながら、目的地を目指した。
「ラーノットは、もっと左手を使った方がいいと思うんだ。攻め一本戦で、守りに向いてない」
「そうかもね。アルヴァは、少し呪文に頼りすぎてると思うの。最近鍛錬でも見かけないし」
そんな事を話している間に、鍛錬場に着いた二人。
鍛錬場は、まだ朝早いのに、人がいなかった。
「一番乗りだね」
ガッツポーズをするアルヴァ。
ラーノットは、いつも通りなので、平然としている。
「「では、お相手を」」
ラーノットとアルヴァは、久しぶりに対戦する事になった。
両者向かいあって、動かない。
寸分の隙も見せない二人。
先に動いたのは、ラーノットだった。
アルヴァの手を狙う。
避けようとしたアルヴァ。
しかし、ラーノットは、早かった。
結果、ラーノットの勝ちとなった。
「悔しい。君の勝ちだ」
アルヴァは、恭しく一礼した。
「ラーノット」
その時、ルミナリーの声が聞こえた。
必死に見える。
「悪魔よ。早く来て」
ラーノットは、アルヴァとともに、ルミナリーの後を追って、鍛錬場を出た。