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妹とお散歩

「お兄ちゃん! お散歩しませんか?」


「えぇ……」


 露骨に嫌そうな顔をした俺に睡は不満そうにする。いくら九月だからってまだまだ残暑の厳しいこの時期に必要も無いのに表を出歩こうとは思わないんだがな。睡は俺と身体構造が違うのかこのクソ暑い中表を歩いてもほとんど汗をかかないという特異体質をしているので本人は問題無いのかもしれないが俺の方には問題が大ありだ。


「暑いしさあ……秋が本格的に来てからにしないか?」


「そんなこと言ってたら何時まで経ってもいかないパターンじゃないですか! 時間は有限なんですよ?」


「朝ご飯食べたばかりで一番暑い時間じゃん! もうちょっと日が傾いてからさあ……」


「はいはい、お兄ちゃんの言い訳は聞きましたからさっさとデートに行きましょうね?」


「デートなの!?」


「もちろんじゃないですか? お兄ちゃんと私が出かける! これがデート以外のなんだと言うんでしょう!」


「何を開き直ってんの!?」


 睡の暴論に俺もついていけない。ここで議論をしても破綻することが目に見えてるし、しょうがないな……


「分かったよ、散歩には付き合う、それでいいか?」


 睡はガッツポーズをして俺の手を取る。引っ張られるままに部屋を出て玄関に連れて行かれる。どうやら議論は終わったようだ。睡が満足しているならもうそれでいいんじゃないかな。俺としては言いたいこともあるが、たまには妹に譲歩するのもいいか、このクソ暑い日も帰ってシャワーを浴びれば忘れられる。ちなみにエアコンは全力で自室にて稼働している。今の俺に帰宅後しばらく冷えるのにかかる時間を考えて止める気にはならなかった。


「さあさあ! いきますよ!」


 そう言って絶好調の睡は俺の手を引っ張って玄関を開けた。キツい日差しが俺たちに当たる、俺は思わず顔をしかめるが睡は顔色一つ変えない。メンタルが頑丈なのか体が熱に強いのか、どちらにせよコイツは夏に強いようだな。


 俺たちは歩きで商店街を進みながら町並みを観察する。大したものがないと思っていたが喫茶店や食堂などがあり、一応デート的なものはできるのかもしれない。映画館等の大型の施設は当然無いのだが、そこまで地元の商店街に求めるのは酷だろう。


「お兄ちゃん、まだ出かけたばっかりなのに汗をかきすぎでは?」


「俺はお前ほど暑さに強くないんだよ……」


 コイツの暑さ耐性には感心するものがある。ただし俺には真似できない。俺は睡みたいにはなれないし、睡だって俺みたいな生き方は出来ない、個人差というものだろう。


 睡は俺の手を引き喫茶店に入った。エアコンの風が俺たちを包んで涼しげな空気を伝えてくる。


「はいはい、お兄ちゃんは暑さに弱いですねえ……あ、クリームソーダお願いします! お兄ちゃんはなんにしますか?」


 俺はとっさに財布の中身を確認する、結構ピンチだったはず……


 そこで睡の手が俺の手を掴んで止めた。


「お兄ちゃん! 無粋なことは言いっこなしです! 今日は私の奢りですよ!」


 なるほど、確かにその方が助かるな、最も俺に頼られると金がないので何も出来ないだけなのかもしれないが。まあとにかく今日はお金の心配をしなくてもいいらしい、そんな金の使い方をしているとその内ダメ人間に引っかかりそうだなと思いつつ実際俺は金がないのでその提案を受け入れた。


「じゃあ俺はアイスコーヒーで」


「はい、もうちょっと贅沢してもいいんですがね……すいません、クリームソーダとアイスコーヒー一つずつ!」


 そう睡が注文をしてから少しして二つのグラスが届いた、俺はコーヒーに口をつけながら睡の目的を探ってみた。


「なあ、一体何の用があったんだ?」


「何がです?」


 ポカンとした睡を見て、マジで何も考えてないんじゃないかと思いながら聞く。


「いや、何か用があったんだろ? 俺を連れ出すような用事がさ」


「ないです」


「は!?」


 いやいや、わざわざ俺と一緒に出かける以上何か頼み事の一つでもあるんだろう? え? マジで何も無いの?


「お兄ちゃん、デートと言ったでしょう? 私はお兄ちゃんと出かけたかっただけですよ」


「だって、俺と出かけて何かメリットがあるのか?」


 睡はやれやれと首を振ってから言った。


「お兄ちゃんと一緒にイチャつく、これ以上の目的は無いでしょう? 私はお兄ちゃんと一緒にいたいんですよ!」


 力強くそう宣言する睡、俺はどうしたものかと判断に困りながらコーヒーをすする。うん、考えるのはやめた方が良さそうだな!


 俺はガムシロップを追加しながら今日の予定について聞いてみる。


「予定? ノープランですよ? お兄ちゃんとイチャつくのに一々計画なんて立てませんよ」


 そう断言されてしまい会話が終わってしまった。そんな雑なプランとも呼べないものでいいのか? 普通外出には目的ありきじゃないのか? え? 俺がおかしいの?


「睡は俺とイチャついて一体何が嬉しいんだ?」


 普通に意味が分かんないんですが……自慢じゃないが俺はイチャつく相手としては圧倒的低スペックだぞ?


「ふふふ……ここは商店街ですよ? ここでこうしてお兄ちゃんとイチャついているだけで町では兄妹の一線を越えたと話題になりかねないんですよ?」


「えぇ……お前それでいいのかよ……?」


 睡は大仰に頷いて言う。


「良いに決まってるじゃないですか! 私とお兄ちゃんの既成事実が出来る! 圧倒的メリット!」


 なんだろう……会話が成り立たないような気がする……


 俺は二つ目のガムシロップを放り込んで思考回路に糖分を垂れ流す。脳が栄養を使いすぎて血糖値が下がりそうなほど意味をなさない会話になっていた。


「お兄ちゃんとの既成事実……フフフ……良いですねえ……」


 睡がニヤニヤしているのがなんとも不気味に思えて俺はどうしたものかと悩むのだった。


 ところで冷房で少し忘れてたがこの席暑いな、よく見ると窓際で直射日光が当たっている。


「睡、席を移さないか? この席暑いんだが……」


 睡は我が意を得たりと言った風に自慢げに語り出した。


「ふっふっふ……お兄ちゃんはお気づきではない? この席は店内からも店外からも目につくんですよ? つまり私とお兄ちゃんがデートしていると話題になりやすいわけです!」


 自慢げにそう言う睡に俺は一言言った。


「噂好きな連中は商店街で遊んでないと思うんだが?」


 ここは普通に高校生ともなれば町まで出て行っている。基本的にこのあたりにたむろって居るのは学区外に出られない小学生とお年寄りの皆さんくらいだ。


「ぐぬぬ……しょうがないですね」


 睡はクリソをぐいっと飲み干して俺にもさっさと飲むように促す、忙しいやつだな。


「お兄ちゃん! 今からクラスの皆さんの集まってそうなところにいきますよ!」


「やだよ、暑いしそもそもこの辺の電車のダイヤ知ってるか? 今から出かけたら市街地までついて即とんぼ返りになるぞ?」


 田舎のダイヤを舐めてはいけない、マジで時間一本電車が通っていれば十分マシな方だからな。


「しゃーない……会計しときますね」


 そう言ってレジの方へと歩いて行った。俺は先に店を出て待っていると睡も会計が済んで出てきた。


「お兄ちゃん、ならせめてこれくらいは許してくれますよね?」


 そう言って俺の手を強く握った。まあ、このくらいはいいだろうな。


 そうして睡のテンションがダダ下がりした結果、俺たちは大したこともなく帰宅するのだった。


 帰宅後、俺がシャワーを浴びてから睡が汗を流しに浴室に入ったが、なんだか時間がかかっていたのは何故なのだろう?


 ――妹の部屋


「お兄ちゃん、ああお兄ちゃん、お兄ちゃん」


 思わず一句詠んでしまいました、これというのもお兄ちゃんが愛おしすぎるのが悪いのです。何故こうも思っていることに気がついてくれないのでしょう?


 それともお兄ちゃんは気づいて上で知らない振りを? いえ、どちらにせよ同じ事です、私は絶対にお兄ちゃんに意識させてみますよ!


 私はベッドの上で固く決意してそのまま寝たのでした。

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