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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年生二学期

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妹と読書

「嫌です!」


 そう端的に断る睡を俺がなだめすかしながらお願いをしている。


「頼む! この本楽しみにしてたんだよ! 今月もうお金が無くってさ……来月分を少し早めに……」


 そう、生活費の前借りである。ダメ人間だと思うか? 存外世の中にはこのくらいのダメ人間は溢れていたりする。俺はkindleを手に睡に頼み込んでいた。話題に付いていくためには最新話まで読んでおかなければならない。


 睡の方は活字のみの本にあまり理解が無く、とにかく難しいものだという認識で俺が何か言ったところで聞いてもらえる確率は低い。しかし、だ。俺としてはようやく電子で配信された本を買いたいと思っているのだ。ここら辺の書店に最新刊が届くのは発売日から二日前後かかる。大都会東京住みからすればすっかり話題に乗り遅れた人になってしまう。なお悪いことに東京では発売日前日に平気で本が店頭に並ぶためここいらで手に入れた時には三日以上遅れていると言うこともざらだ。


 それを解決してくれるのが電子書籍だ。コイツは全国何処でも回線さえあれば発売日にはダウンロード出来るようになる。それでも首都圏より一日くらい遅れてしまうがそれくらいなら許容範囲だ。そんなわけで俺はプリペイドカードを買うためのお金を睡にねだっていた。


「分かる、理解できないものが必要ないのは分かるよ。でもな、情報は脳の栄養なんだ、たまには変わったものも取得しておかないと味気ないんだ。その本はな、マイナージャンルだから俺みたいなやつが買い支えないと打ち切られるんだよ。頼むから前借りを少しだけさせてくれ」


 睡はしばらく考え込んだ。理解をしようとしている顔ではなく、この事態をどう処理しようかと考え込んでいる顔だった。その顔色に慈悲は感じられずただただ取引材料としての課金について考えている様子だった。


 そうしてしばらく黙って唸ってから頷いて睡は財布からお金を取り出して俺に渡した、千円札が三枚、プリペイドカードの三千円券を買うのにぴったりの額で欲しい本が二千五百円なので問題無く買える金額だ。


「さて、この三枚をお兄ちゃんにあげようと思います。よく考えてください、前借りではなく支給しようと言っているんです。もちろんお兄ちゃんにはそれなりの見返りを求めますがね」


 その鋭い目つきにドキリとして目の前に差し出された三枚のお札を受け取るべきか少し考えてしまう。睡はあんまり無茶を言わないと思っているのでもらってしまっても問題無いはずなのだが、差し出している睡の『いいものを見つけた』と言う目つきは何処かその受け取るという安易な選択を躊躇させた。


 しかし、その場でもらわなければ俺が両親からの仕送りをもらえるのは来月も半ばになる。果たしてそれまで待つべきだろうか? 俺がわずかに考え込んでいるのを見逃さず睡は差し出した三千円を財布に戻そうとした。俺はその三枚を戻される前に受け取り睡の要求を聞いた。


 その後、コンビニにプリペイドカードを買いに自転車を走らせスマホからアカウントにチャージした。その後、目的の本を購入してその夜は読みふけることが出来たのだった。


 そして次の日……


「ふっふー! お兄ちゃんとデートです! さすが私! 策士ですね! お兄ちゃんは案外チョロいですし、本当に私が居ないとダメですねえ、フフフ」


 睡の要求は『私に合った本を選んでください!』というものだった。ちなみに睡の好みは全く知らないし、どんな本が好みかと聞いたところ『それを考えるのはお兄ちゃんですよ?』ととりつく島もない発言をされて俺はろくに読んだこともない少女小説を検索する羽目になったのだった。


 読書時間と同じくらい検索に時間を費やした、その翌日に睡と一緒に大型書店を訪れていた。


 残念だが俺に睡の好みは全く予想が付かず、手探りに本を薦めるしかないという雲を掴むような行動をすることになったのだった。


 睡の方を見ると何故か本棚ではなく俺の方をじっと期待に溢れた目で見つめていた。期待が重い……


「さあお兄ちゃん! 私に一冊買ってくださいね!」


 そう明るい笑顔で俺に告げたのだった。


 本の提案は困難を極めた。睡はファンタジーは読まないらしく、俺が提案した異世界物やオーソドックスな剣と魔法の世界はお気に召さないらしい。兄妹でもその辺の好みは似ることが無いようだ。そもそも睡はあまり活字の塊を読まないので何を勧めるべきか目安になりそうなものも無く、始める前から暗礁に乗り上げていたと言える。


 幸いなことに代金は自分で払うのでタイトルだけ選んで欲しいという要求だったのは幸いだった。何しろ俺の保有する現金は文庫一冊がいいところしかないからだ。皆目見当も付かない睡の好みをそれとなく探っていった。


 結果、どうやら睡は爽快な後味よりも感動を求めている傾向があることが分かった。いくつか提案したところ、バトルものより恋愛ものの方が反応がよかった、筋道は見えたわけだが俺はこの反応に困ってしまった。


 バトルものでもラブコメものでもそれなりに読んでいるが、睡の好みであろう甘酸っぱい恋愛ものなどさっぱり分からなかった。とりあえず睡を恋愛ものの棚に連れて行って『どれがいい?』と尋ねたところ、睡は『お兄ちゃんのお勧めで』と一番困る回答を受け取ってしまった。


 俺はメジャーどころの聞き覚えのある本をいくつか提案したが、睡の反応は鈍いものだった。


 さっぱり手がかりも掴めず悩みに悩んでいたところで睡が一言言った。


「別に私はお兄ちゃんがおすすめできるものなら文句なんて無いんですよ?」


 そう言われ少し考えてから俺のお勧めのSFを一冊渡してみた。睡はその本をためつすがめつ眺めてから言った。


「これがお兄ちゃんのお勧めですか?」


「ああ、俺がSFにハマったきっかけだよ」


 そう言うと睡は頷いてからその本をレジに持って行った。そうして帰宅することになったのだが睡は上機嫌だったので俺の選択は間違っていなかったと思えた。


「じゃあ帰ったらお兄ちゃんのお勧めを読んでみますね!」


「ああ、でも本って言うのは自分で選んだ方が後悔しないぞ?」


 そう言ったところ、睡からシンプルな返答が返ってきた。


「私は本が読みたいんじゃなくて『お兄ちゃんのお勧め』が読みたいんですよ?」


 そう言ってスキップしながら家路を急いだのだった。


 ――妹の部屋


「ふむふむ……お兄ちゃんの好みはこんな感じですか……」


 私はその本を隅から隅まで読み込みました。きっとこの本の中にお兄ちゃんの好みが隠れているはずです!


 しかしお兄ちゃんのお勧めは短編集でした……これでは一人のヒロインというのは選べませんね……


 私はなんだかんだ言いながらもその本を熱心に読んでから意外と面白かったことに満足してしまい、結局お兄ちゃんの好みにはたどり着けませんでした。

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