テスト、返却される
「ぐぬううううう!!!!!!!」
唸っているのは重だ、手には一枚の紙が握られ、目の前の睡の持つ紙と見比べている。
見ているのは学期明けの小テストの成績表、一応テストという体を取っているので成績の評価もでる、まあ学期の成績に反映されるものではないのであくまで目安程度のものだが……
「ほら、重さん、見ての通りですよ? 私はやればできる子なんです!」
そう、睡の成績はかなりの上位だった。俺もチラリと見せてもらったがかなりの上位になるであろう成績になっていた。
「まあ、重も相手が悪かったな」
睡に説教したのに自分の成績が説教相手に負けている、なんとも情けない話だが今回については相手が悪かったとしか言えないだろう。睡はどうやったのかは知らないが数日で驚くほどの学習をしているので軽々と上位を取ってしまった。
「はぁ……もういいわ、誠はどんな感じよ?」
「ほれ」
俺は躊躇うことなく成績表を渡す、別に大した成績ではないのだが隠すようなことでもないと思っているので気にしない。平均を超えているなら恥ずかしいものではないと思うしな。
俺の渡した成績表を眺めてから頷いて返された。
「私の方が少し勝ってるわね」
「それはおめでとう」
適当に褒めておいたのだが、そこで睡が悲しそうな表情になった。
「うぅ……お兄ちゃんより高い点を取ってしまいました……お兄ちゃんと同じ成績を狙ったのに……」
何かブツブツ言っているが本気を出していないと婉曲に言っているようだった。俺としては本気を出していいと思うのだが本人はお気に召さなかったらしい。
「睡は頑張ったんだからいいじゃないか、俺は妹のできがいいのは誇らしいぞ」
「そうですか……ふへへ……」
だらしない笑顔になる睡、重は俺たちを呆れた様子で眺めていた。
「あんたらねえ……誠も妹に負けてて恥ずかしくないの?」
「そうは言っても双子だしなあ……学年が違うなら気にもなるけどさあ……」
同学年の兄妹が成績の高程を気にするようなことではないと思う。兄としては確かに妹に負けているが同じ授業を受けているのだから差が少ないとも言える。
「お兄ちゃんはもうちょっと頑張って欲しいんですがね……」
「知らんな、お前は成績がいいんだから俺のこと難敵にすることは無いだろう?」
「いいえ、お兄ちゃんの側に居るものとしてお兄ちゃんと差がつくのは良くないことなのです!」
無茶な理論で俺の成績に文句を言ってくる。俺は最低限生活できる程度の成績なら文句のない人間なのでわかり合えないのかもしれない。重はジト目で俺たちを眺めていた。視線が痛いので注目を浴びるような事はやめて欲しい。
「誠、睡ちゃんが悲しむからもうちょっと勉強しなさいね?」
「赤点を取らない程度には頑張るよ」
基本的に頑張らない、無理をしないが信条なのでそこまで必死にはならないのだが。
「さあて、重さんにも勝ったことですし帰りましょうか!」
「私に勝てたのがそんなに嬉しいの?」
「そりゃあもう、微粒子レベルでライバル視してるんですよ?」
「その程度なのね……」
げんなりした様子の重は一人帰ることにしてさっさと鞄を持って教室を出て行った。決して俺たちの相手をするのが面倒になったからではないと思いたい。
「さて、お兄ちゃん、私たちも帰りましょうか」
「そうだな」
俺も鞄を持って帰途についた。学校を出るとやはり九月らしく多少太陽が傾くのが早くなっていた。夕焼けほどではないが太陽が真上にあった頃に比べて多少過ごしやすくなったような気がする。
「お兄ちゃん、成績が良かったのでご褒美をくれませんか?」
「そういうのは前もって言っておいて欲しいな……俺も手持ちがないんだが……」
「じゃあアイスを一つでいいですよ! 近くにショップがあるので食べて帰りましょう!」
睡は元気よくそう言って俺の手を引っ張った。突然の話だが努力に対価が支払われるのは悪いことではないだろう。睡が成績をこの短期間で上げたのは事実だからな。
そのまま引っ張られながらアイスクリームチェーンに入った。冷房がキンキンに効いておりやはり冷たいものを売る店では涼しさにこだわっているのかと思うのだった。
「私はチョコクッキーで! お兄ちゃんも一緒に何か食べてくださいね?」
「ああ、じゃあバニラで」
睡はそれを聞くなり店員さんに『チョコクッキー一つとバニラ一つで!』と元気よく言って俺は代金を払った、千円にも満たない金額だが睡はとても満足そうにしているのでそれでいいのだと思えた。
そうしてアイスを受け取り俺と睡で席に座って食べていく、甘いものは学校で頭を使った後には心地よい。
半分くらい食べたところで睡が自分のアイスをさしだしてきた。
「お兄ちゃん、こっちも食べてみませんか?」
「いやべつに……」
「食べたいですよね?」
迫力に押されて一口食べた、甘さとクッキーのほろ苦さがいい味を出していた。
「じゃ、お兄ちゃんの方も一口もらいますね!」
そう言ってパクりと俺のアイスを食べに来た。別に構わないのだが睡の一口は随分多いんだなあと思った、もちろん言わなかったが。
俺のアイスをなめてから自分のアイスを愛おしそうになめていた、そんなに美味しかったか、いいことだ。
食べ終わったところで帰ろうとすると睡が手を掴んで一緒に帰るのだった。睡曰く『恋人に見えますかね?』と小声で言っていたがだったらまず『お兄ちゃん』呼びをやめなければ無理だろうと心の中で思うのだった。
帰宅すると睡は料理を頑張って作り始めた。カレーの香りが漂ってきた。
「今日はカレーか?」
「ええ、甘いものばかりというのもどうかと思うのでちょっと辛いものにしようかと」
そうして出来たカレーは確かに美味しかった。睡が頑張ったという贔屓目をぬきにしても確かに美味いと言えるできだった。
「お兄ちゃん? 美味しいですか?」
「ああ、とっても」
「それは何より」
そう言って食事は進んでいくのだった。睡が穏やかな微笑みを湛えていたのは何故だろうか?
その理由については不明だったが目の前には確かに美味しいカレーがあったので、深く考えるのをやめたのだった。
――妹の部屋
「ひゃっっっっっほうううううう!!!!!!!!! お兄ちゃんとアイスを交換しましたよ!」
これはもう実質恋人と言ってもいいんじゃないでしょうか? 普通の男女はそんなことしませんからね! ワンチャンありますねこれは!
私は今日の出来事に満足して穏やかに眠ろうとしたのですが、どうにも体が火照ってしまい簡単には眠れないのでした。




