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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年生二学期

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夏の残り香

 暑い日だった、九月だというのに真夏日を記録し、多少太陽が落ちる時間が早くなったものの、まだまだ夏は続いていた。


「暑いなあ……」


 俺はそう独りごちながらドリップしたコーヒーに氷を五個くらい入れる、いくらエアコンが稼働しているとはいえ、とてもホットのコーヒーを飲む気にはならなかった。


「お兄ちゃん、私にも一杯ください、ああ、もちろんアイスですよ?」


「はいよ」


 そう言われることを見越して二杯分をドリップしていた。ちゃんとアイスコーヒーにも溶けるようにガムシロップも用意してある。2杯目をカップに注いでガムシロップを入れる。


「はい、アイスコーヒーな」


「ありがとうございます」


 睡は一口飲んでからホッとしたように言う。


「やっぱりこの季節はアイスでないと飲めませんねえ……ああ目が覚めてきました」


 朝食と一緒にコーヒーを飲むとカフェインと糖分で意識がはっきりする、それは睡でも同じようだ。俺も一口啜ってからパンをかじる。


「さてこの後は登校という強制イベントがあるわけだが……」


「お兄ちゃん、私が目をそらしていることを持ち出すのはやめてくれませんか?」


 やめろと言われてもなあ……単なる事実なわけで、いくら目をそらそうが時間が来たら条件無視で発生するイベントなわけで、それに目を向けないわけにもいかないだろう。


 目玉焼きを食べながら今日のことを考える。おそらく今日は現代文の小テストが入ってくるだろう。幸いなことにテスト会場となる教室は涼しいわけだが、睡の点数の問題で冷や汗が出そうだった。


 確かにこの前問題をちゃんと解いていた、それについては間違いないだろう。しかし、不安なものは不安なのだ。それはともかく……


「お前がここまで眠そうなのって珍しいな? 休み気分で夜更かしでもしたか?」


「私は休みだったらたっぷり寝るタイプなんですけど……今日の小テストへの一夜漬けですね」


 勉強は毎日するものだと思うが、やらないよりはマシというのも確かだろう。コイツがやる気を出したということは褒めるべきなのだろうか?


 少し悩んでから褒めておくことにした。


「勉強してたのか、偉いな」


 睡は胸をはってドヤ顔になる。


「そうですとも! お兄ちゃんについて行くためには、時に勉強をしなければならないこともありますからね!」


 そんなやりとりをしている間に朝食が空になった。俺は食器をシンクに置いて水で洗う。帰ってきてからでもいいのだが、無性に蛇口から出る冷たい水が恋しかった。


 カチャカチャと食器を洗っていると睡から声がかかった。


「お兄ちゃん! その辺は後にしましょう! 時間が無いですよ!」


 時計を見ると八時を回っていたので食器を拭くのは諦め乾燥棚に置いて鞄を手に取った。


「よし、いくか」


「はい!」


 そうしていつも通り二人で通学路を歩いていた。


「珍しいですね……」


「ん? 何がだ?」


「お兄ちゃんと歩いている時に限ってエンカウントする重さんが一向に現れません」


「そういえばそうだな、心配なのか?」


 睡は静かに首を振る。


「まさか、いつものルーティンでしたからね。慣れないだけですよ」


 そんなやりとりをしながら学校まで着いたのだが、結局重は現れなかった。不思議に思って教室に入ると、そこにはその疑問に対する答えがあった。


「重さん、ここどうやれば解けるの?」


「えっと、そこはね……」


「こっちも教えてくれない?」


「いいわよ、この後でね」


 なんだか知らないが重がクラスメイトから大量の質問をされていた。よく見ると机の上に広がっているのは現代文の参考書、つまり勉強を見てもらっているということだろう。


「あ、誠に睡ちゃんおはよう! 今日はちょっと忙しいから後でね?」


「むしろそのまま皆さんの相手をしていてくれた方がいいんですがね……」


 睡がそんな独り言を言うと教室のドアが開いた。入ってきたのはもちろん担任だ。


「よーし、お前らちゃんと全員いるな? 口止めされてるが言っておくぞ、今日は現代文で小テストがあるからな。お前らちゃんと勉強してきてるだろうな? あの現国のババアマジでうっさいから黙らせるためにもいい点とれよ!」


 とことん自分のことしか考えていない担任に呆れつつ、心の中では睡が大丈夫か心配で脈が速くなっていた。あの担任の性格からするにまともに点が取れなかったらグチグチ言われそうだ、ここは失敗できないな。


「うし、言っとくことはそれだけだ! じゃあテスト前の勉強時間を削るのもアレだしHRはもう終わり! ちゃんと勉強しておけよ」


 そう言って堂々と教室を出て行った。


 その後、多少増えた授業開始までの空白時間の間、ずっと重は皆の質問に答えていた。俺たちに出来ることは無さそうだな。


 キーンコーンカーンコーン


 チャイムとともに一限が始まった、早速の現代文のテストだ。


 教室に入ってきた中年の教師が言う。


「それでは、今日は夏休みにサボっていないか確認のために簡単なテストをします……おや、驚かないんですね? 自信があると言うことでしょうか? それはいいことです」


 さっき担任が箝口令を無視してネタばらしをしたとは誰も言わなかった。まあ当然と言えば当然なのだが……


「ではテストを配ります」


 そうしてテスト用紙は配布された。大学入試というわけでもないが、問題用紙に答えを書いておくように睡には言っておいた。後で答案の返却前に答え合わせをするためだ。


「ではテスト始め」


 その言葉とともに厳粛な空気でテストが始まった。カリカリとシャーペンの音が響く。


 カリカリ……カリカリ……


 よし、小テストならこんなものだろう。悪くない、少なくとも赤点レベルの点数にはならない程度に出来た。睡の方を見たかったがさすがにテスト中に睡の方を見るのはリスクが高すぎる。アイツがちゃんと勉強していることにかけるしかない。


 その静寂がしばらく続いてから教師の声によってそれが破られた。


「そこまで! では答案を回収します」


 そうして答案が全て集まったところで教師はパラパラめくって確認していた。幸い露骨に嫌そうな顔はしなかったのでおそらく白紙回答した奴はいなかったのだろう。答案が全て集まったところでチャイムが鳴った。


「ではこれは明日返却します」


 そう言って教室を出て行った。


 休み時間に睡に声をかける。


「どうだった? 問題が分からないところあったか?」


「お兄ちゃんは失礼ですね……私だってあのテストくらい解けますよ」


「誠、睡ちゃん、テストどうだった?」


 重が俺たち……というか睡に心配そうに声をかける。


「完璧ですよ! あ、回答はこれです、気になるなら見てもらっても結構ですよ?」


「へえ……じゃあちょっと失礼して……」


 重が睡の回答を読み込んでいる『ふぅん……』とか『なるほど……』と言いながら目を通していく。全て確認してから睡に言った。


「睡ちゃん! やれば出来るじゃない!」


 どうやら悪くない点数が予想できるようだ。睡は少しはにかみながら俺に近寄ってきた。


「どうです? 可愛くて勉強もできる妹をかわいがってもいいんですよ?」


「はいはい、頑張ったな」


 そう褒めておくとニコニコしながら席に戻っていった。


 その後の授業については小テストもまだ出来ていないらしく普通の授業となっていた。現代文の先生はマメなところがあるらしいか休み明け即テストが出来たのかもしれない。


 そうして下校のチャイムとともに、俺たちは学校を後にした。朝は一緒じゃなかった重も下校は一緒だ。


「睡ちゃんってやれば出来るのね……」


「当たり前じゃないですか! 私は正規の手段でこの学校に入ったんですよ?」


「まあそうなんでしょうけどね……夏休みの時と随分違ったから……」


「人は日々成長するのです!」


 そんなやりとりをしてから重と別れて家に帰り着いた。


「冷房をっと……」


 エアコンをフル稼働させる、すぐに部屋が冷たくなってきた。


 さて、俺も睡の回答は気になるな。


「睡、回答見せてくれないか?」


「いいですよ」


 ポイと投げられた回答はクシャクシャに丸めてあってもう捨てるつもりだったらしい。


「お前、一応取っておこうとか考えないの?」


「私は過去は振り返らない主義なので」


 格好をつけて言っているが過去に学ぶのは重要なことだと思うぞ……


 気を取り直して睡の回答を確認すると全ての項目が埋まっており、見たところ間違いの無さそうな答案になっていた。


「すごいな……」


「当然の結果ですよ?」


 そう言って学校での汗を流しにシャワーに向かった睡を見送り、俺は兄としてもっと頑張らなくてはと思うのだった。


 ――妹の部屋


「お兄ちゃんが褒めてくれました……へへへ……」


 嬉しいですねえ……お兄ちゃんはあんまり私を褒めてくれませんから、これは大きな前進ですね。


 私は気持ちよく眠りの世界へと向かっていきました。

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