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ゴールデンウィーク戦争

「やってきました! 長期休暇です!」


 妹が大声でそう宣言する。その言葉には心の底から待っていたものだと思い知らされる。


 俺は長期休暇ということで気楽に遊んでいけると思っていたが睡は何か計画があるらしいのか熱心に俺にプランを説いてきた。


「お兄ちゃん! 高校初の長期休暇ですね! これは記念すべき日になりますね!」


 もうロクなことが起こらないとここまでかとフラグを立てる睡に俺はどうしていいのか分からなかった。ただの休暇を一体なんだと思ってるんだ……


「ただのゴールデンウィークだろう? 別に特別な日じゃないし、いつも通りだらだら過ごせばいいんじゃないか?」


 しかし睡は首を縦に振らない、「お兄ちゃんは甘いです!」などと勢いづいている。


「お兄ちゃん! いいですか? 私という可愛い妹がいるのにハーレムを目指す気じゃないんでしょう? 私のルートに入るには好感度を稼がないとダメですよ?」


「別に俺はハーレム期待なんてしてないって……というかこの前のアレでその線は完全に吹っ飛んだと思うんだが……」


 言うまでもなくこの前のラブレター事件である、アレで女子からろくに話しかけられなくなったことを少しは考慮して欲しい……


 失われたものについてグダグダ言うのはあまり好きではないのでその事について責めたいわけではないが、やはり周囲から少し距離を置かれたのは悲しい、但埜くらいしか友人関係を築けなかったので学校ではほとんどぼっちになってしまっている……悲しい。


「お兄ちゃん! お休みの間何をしましょうか? 水着回? ちょっと早いですかね? お花見回にはちょっと遅いですし……ああ、いくらでもやりたいことがありますね!」


「回って何だよ……プールに行くには寒すぎるし、桜はすっかり散ったぞ」


 睡はこの時期に水泳がしたいのだろうか?


「プールじゃないです! 水着と言えば海でしょう?」


「明らかに寒すぎるよな、温水プールじゃないと水着は無理だと思うぞ?」


「そういう問題ではないんですよ! お兄ちゃんとイチャつくイベントが似合うのはプールより海でしょう!」


 なんつー理論だ、そんなことを言われても困るのだがな。それにしてもせっかくのゴールデンウィークなのだから引きこもるのも良くないかもしれない。なにしろ高校三年間でゴールデンウィークは三回しかないのだから……


 ピンポーン


 玄関のドアチャイムの音がした、はて? 何か通販でも注文してたっけ?


 俺が玄関に行こうとすると睡がシャツの裾を引っ張って止めた。


「お兄ちゃん、多分重さんですよ? 行くんですか?」


「なんで分かるかはさておき、そりゃ行くだろ? 別に命を狙われているわけでもあるまいし」


 睡が重に思うところがあることくらいは察せるが、それについて俺がどうこう言う気もない。ただ、数少ない交友関係を維持しておきたいとは思う。


 そんなシンプルな考えから俺は引き留める睡を放置して玄関に向かった。実際に俺たちを訪ねてきたのは確かに重だった。アイツの勘もバカに出来ないな……


 玄関で重と話をする。


「誠、ゴールデンウィークどこか行かない? ああ、睡ちゃんも一緒にね」


「何ですかあなたは……私とお兄ちゃん二人でいいじゃないですか? あなた要ります?」


「相変わらず辛辣ねえ……」


「さすがに失礼だぞ睡」


 俺が妹に注意すると渋々引き下がり、ようやく話の本題に入ることが出来た。


「で、どこかに行くって何処にだ?」


「そうね、映画とかショッピングとかどう?」


 意外と月並みな提案をする重に俺はどう返答したものか考える。確かに友人と遊びに行くというのは休暇の一般的な使い方だな。


 俺が考えていると横から睡が不平を言ってきた。


「お兄ちゃん……なんで私の提案は気が向かないみたいなのに重さんなら考え込むんですか?」


 言葉の節々に棘がある、しかし俺は一般的な生活がしたいのだ、それを邪魔してもらっては困る。


「なあ、睡も一緒に行こうって言ってくれてるんだしそれでいいんじゃないか?」


「ぐっ……」


 少し渋ってから睡も折れるしかないと判断したのか俺に肯定を返した。


「しょうがないですね……ではお兄ちゃん! 私と出かける『ついでに』重さんも一緒に行きましょう」


 『ついでに』を強調しながら提案を受けたのだった。睡と重は相性が悪いなあ……


「ま、いいです。お兄ちゃんと有意義な長期休暇を過ごすのはやぶさかではないですから」


「睡ちゃん、どこか行きたいところはある?」


 このディスコミュニケーションの塊の妹に熱心に対話をしようと諦めない重、鋼のメンタルをしているな。


「特に決めてはいませんが……あなたの提案に乗っかるのも気が進まないですね、私が決めましょうか……」


 とことん退かない睡に対して俺もどうしたものかと考えていたところでようやく結論が出たのか睡は言った。


「そうですね! ショッピングにしましょう! お兄ちゃんにいろいろ買ってもらいたいですし!」


「いいわね、私も何か買ってもらおうかな?」


「ダメです! お兄ちゃんは私だけにプレゼントをくれるんです! お兄ちゃんの財布は私のものであって重さんのものじゃないです!」


「俺の財布は俺のものだよ……」


 二人の会話に思わず割って入ってからぐだぐだの話し合いがその後しばらく進んで、ようやく決まった結論が書店へのショッピングだった。


 何故書店か? 睡は服や宝石を買ってもらおうと画策していたが、『私も買ってもらおうかな』という重の一言に、『それはダメです!』の一言で更に議論は踊り出し、終わりが見えなくなってきたので、俺がそこそこ手頃で二人ともに買っても揉めないであろう本はどうだ? と提案して何とか二人の了承を得たのだった。


 重が帰った後で睡はニコニコしながら俺に注文をつけた。


「お兄ちゃん! 私はゼ○シィをお願いしましょうかね!」


「相手がいるのかよ……?」


 某有名雑誌の名前を出すので思わず俺が突っ込む。


「それはもちろん目の前にいるじゃないですか!」


 堂々とそう言う睡に俺は反論も面倒くさくなって静かに微笑んで答えるのを諦めた。


 そうして一日が終わって翌日からゴールデンウィークが始まりとなる。それはきっと波乱と騒乱とお祭りになるであろう事を予感しながら、それに目を背けて眠りについた。


 ――妹の部屋


「ふへへ……お兄ちゃんとお買い物です……」


 私は思わず顔がにやけてしまいます。だってお兄ちゃんと買物ですよ!? いつもの生活必需品の購入ではなく単純な嗜好品です! お兄ちゃんに買ってもらうものが等しく尊いことは確かです、ですがお兄ちゃんが『必要だから』買ってくれるのと『買ってあげたいから』買ってくれるのとは大きな違いがあるのです!


 ああ……お兄ちゃんが私にプレゼントをくれる……考えただけでも貴重なイベントなのが感じられます。この貴重な機会を逃がすわけにはいかないですね!


 私の意識は虹色の幸福に包まれながら眠りの海に沈んでいきました。

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