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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年夏休み編

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妹と詫び石

「えええ!?!?!?」


 やかましく早朝から騒ぐ睡、寝起きに大声は響くのでやめて欲しいものだ。まあなんにせよ大概どうでもいいことだろうから放置でいいだろう。


 睡はスマホを眺めながら目を白黒させている。俺は深く考えずYouTubeを垂れ流すテレビを見ている。


「こんな事が許されるなんて……」


 面倒なので目をそらしておいた。しかし睡の泣き言は続く。


「酷い……」


 チラッ


「せっかくなのに……」


 チラッ


「楽しみにしてたのに……」


 チラッ


「ああもう! しょうがねえなあ! 何があったんだ?」


 睡はその言葉を待っていたように朗々と語り出す。


「今日はイベントだったんですよ! ソシャゲの!」


「ああ、スターライト・シスターズだっけ? まだ続けてたのか」


 睡はさめざめと良くある話を語り出した。


「せっかく課金して石を買ってたのに緊急メンテするんですよ! 酷くないですか!?」


 まあ、お気持ちは理解するが……


「そんなことソシャゲじゃあよくあることだろう?」


 メンテはソシャゲの花、ローンチ日に過剰アクセスでサーバが落ちることは人気ゲームの定番となっている。


「だって! 私の推しが新規SSRになるはずだったんですよ! 悲しいじゃないですか!」


 睡の心の叫びは脇に置いて俺はスマホで障害情報をチェックしてみる、掲示板には鯖落ち報告が大量にあげられていた。


「結構あのゲーム人気なんだな……まあ皆落ちてるみたいだし一日くらいやめておけば復旧するだろ」


 希望的観測だ、世の中にはメンテからサービス終了となったソシャゲもたくさんある。だとしても人気ゲームなら運営が手放さないだろうから多分その内復旧するだろう。


「お兄ちゃんは自分のやってるゲームが突然ストップしても許すんですか?」


「ソシャゲにメンテはつきものだし、何事もなく運営できている方が不気味だと思うぞ?」


「じゃあgithubやprotonmailが落ちたら?」


「勘弁して欲しいが実際何度か落ちてるんだよなあ……protonmailなんてこの前落ちたばかりだぞ」


 確かにインフラが落ちるのは避けたいところだが可用性が100%なサービスは存在しない。AWSでさえ落ちるんだから、もうしょうがないこととして諦めている。ただし、ログイン用のメールアドレス認証が必要になったタイミングでメールサーバが落ちた時はキレそうになったのも事実だが。


「お兄ちゃんは過酷な環境で生きてるんですね……私はサービスが突然落ちたら心臓に悪いと思いますよ、本当に」


 まあ気持ちのいいものではないが不測の事態は起こるもの、俺も部屋のサーバが落ちて復旧に苦労したことは一度や二度ではない。インフラ屋さんの苦労が偲ばれるところだ。


「ネットなんて相手が突然消えても当たり前の世界だからな、あんま気にしないで待てよ? そうだな、コーヒー飲むか?」


「そうですね、私が頑張ったところでサービスが復旧するわけでもないですし、いただきます」


 コーヒーメーカーに豆と水を入れてスイッチを入れる、ハンドドリップなんて面倒なことはしないのが俺の流儀だ。


 ガガガと豆が挽かれてコーヒーが落ちてくる、苦い香りが一面に漂ってきた。


 しばらく待ってドリップが終わったところでマグカップを二つ取りだして注いだ。今日は睡の気を紛らわすためにも多めのコーヒーでゆっくり飲んでもらおう、たまには愚痴に付き合うのだって悪くない。


 注ぎ終わってコーヒーメーカーのパーツをシンクに置いた水を張ったボウルに放り込んでおく、乾くと洗うのが面倒だからな。


 コトリと二つのカップを置いて睡に向き合う、最近は睡と二人きりで真っ向から相手をすることが増えたような気がする。子どもの喧嘩が無くなったと言うことだろうか? それはそれで少し寂しい気もするな。


「ほら、これ飲んで落ち着け」


 睡の方に多めの砂糖とミルクと一緒に渡す。


 俺は寝覚めの悪い頭にソシャゲのメンテという悲鳴をぶち込まれたので気持ちを落ち着かせるためにブラックですする。苦いが香ばしい香りが漂ってきて嫌いではない。


 そんなことを考えながらようやく頭がはっきりしてきた頃に睡もスマホを置いて砂糖とミルクをカップに全部突っ込んだ。やはり機嫌が良くはないようで迷わず全量をコーヒーに入れた、気分の悪い時には糖分が欲しくなると言う奴だろうか? きっとさぞかし甘ったるいであろうコーヒーを飲みながら睡は最近のソシャゲ事情について話を始めた。


 やれ何処のゲームがサ終しただの、注目タイトルがローンチしたとかそんな情報を延々と聞かされる羽目になるのだった。


「睡、課金はどうやってるんだ? 魔法のカードに手を出したのか?」


 まあ高校生はクレジットカードを持てないわけではあるがデビットカードやプリペイドカードは持てるのでそういう物を使って課金している可能性もある。できればあまり無茶な課金はしないで欲しいのだが……


「私は月に一枚くらいしかカードは買ってませんよ、スタミナは時間で回復しますからね、ここのところ夏休みなので時間をフル活用して課金勢について行ってますね」


 この気力をもっと有意義なことに使えないものだろうか? ソシャゲで微課金が真面目に課金しているアカウントに追いつくにはとんでもない時間や体力や精神力が必要になる、無茶をしていなければいいのだが。


 そんなことを話しているうちにマグカップが二つとも空になった、俺はコーヒーメーカーと一緒に洗いながら睡に聞いてみる。


「定期メンテじゃなく緊急メンテならそろそろ復旧してるんじゃないか?」


「どうですかね? まあお兄ちゃんに話したら正直ウィークリーボーナスさえ貰えればいいので今日中でもいい気はしますがね」


 そう言いながら睡はスマホを取り出して操作している、嬉しそうな顔になったのでどうやら復旧していたようだ。


 そんなことを顔から読み取っていると突然困惑の色が浮かんで俺に問いかけてきた。


「おおおおおおお、お兄ちゃん! 石です! 百連分くらいありますよ!?!?」


「落ち着け、その様子だと詫び石だろう? 良かったじゃないか」


 ソシャゲ名物の不具合のお詫びに配られる石が届いていたのだろう、ソシャゲではよくあることだ。


「これで私の推しのSSRが引けるかもしれないんですよ!? 一大事でしょうが」


 その後、睡はじっくりとスマホを眺めてから、突然手を合わせて祈り始め、縁起を担ぎたいので何かおめでたいものはないですか? などと聞いてくるので『めでたいのはお前の頭だよ!』と突っ込みたくなったがやめておいた。


 その後、睡は何度かにわけてスマホをタップしては拝んでいたが最終的に絶望を浮かべていたので俺はそっと睡に良いことがあるように祈っておいたのだった。


 ――妹の部屋


「うぅ……なんでSSRがピックアップで来ないんですか……」


 私のガチャはピックアップキャラをすり抜け、不人気キャラのSSRが一枚手に入っただけでした。結局神頼みをしたところで神様は助けてくれないといういい教訓になりました。


 しかし、欲しかったなあ……


 その日、私は天井までの差額を補填しようかとコンビニの店内でうろうろして不審なものを見るような目で見られてしまうのでした。

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