妹と、FPSを始める
「お兄ちゃん! チーミングしましょう!」
「やだよ、チートはやりたくない」
チーミングとは主にバトルロワイヤルゲームでソロプレイを選択しているのに裏でチームを組んで戦う戦法だ。基本的に禁止されている場合が多い。
「ブーブー、お兄ちゃんは妹とチームが組みたくないんですか?」
「FPSは好きじゃないんだよ……スマホだと操作性が悪いんだよ、だからってFPSが動くPCは何台もないしさあ……」
「プレステがあるじゃないですか? あっお兄ちゃんにはこれが必要ですか? ぺっぺぺー! コンバータ「おいバカやめろ」」
危ないところだった、ゲーム機につける禁断のアイテムの紹介になるところだった。
「じゃあお兄ちゃんはやる気が起きましたか?」
「分かったって、じゃあダウンロードするからしばらく待ってくれ」
「お兄ちゃんってスマホゲームはあんまり入れてないですよね?」
「やっぱマウスとキーボードに慣れるとな……」
射撃と移動とエイムを同時に行えるPCとは圧倒的に操作感が違う、一度入れてみたこともあるのだがどうにも慣れない操作性だったので消していたのだが。
FNBGという話題のFPSをインストールする、結構なサイズのダウンロードが始まった。実のところアカウント自体は作っていたりする、操作感がPCに勝てないので削除したのだが。
ジリジリとインジケーターが進んでいくが、それが非常に緩慢なことから3Dゲームはやはり容量を消費するようだと思う。ローポリで十分なので気軽にできるゲームはないのだろうか?
現在のスマホの空き容量からすればインストールには問題無いだろう。ミュージックの大部分をクラウドに頼ってストリーミングしているので保存すると最大の容量を使う音楽が全くストレージを消費しない、はて? 光学ドライブがPCに付属しなくても問題が無くなったのはいつからだろう? あるいはWindowsが円盤を売るのでは無くプロダクトキーを売るようになったのはいつからだろう?
「あ、お兄ちゃんダウンロード終わったみたいですね! じゃあマッチに参加しましょうか!」
「おけ、んじゃさっさとバトルの開始といきますか!」
気持ちを切り替えて戦闘準備を取る。『参加』を選ぶとすぐにマッチングした。やはりプレイ人口の差だろうか? マッチングが圧倒的に早いのはスマホの利点だろう。
バトルが始まり、飛行機からの降下から戦いは始まる。チラリと睡の方を見ると降下可能区域に入ってすぐに飛び出したのだろう、画面をグリグリ操作していた。
「睡、マップの端のほうから始めるとエリア制限がかかった時に苦労するぞ?」
「大丈夫です! ギリギリのラインを攻めた方がど真ん中で潰し合うより生存率が高いです!」
チキンレーサーの妹はさておき、俺はマップの中心を少しはずれたあたりで降下を始めた。周囲にいくつかのパラシュートが見える、この調子だと武器の取り合いになりそうだな。
「お兄ちゃん、スナイパーライフルゲットしました! スコープも一緒に落ちてたので芋砂よくばりセットゲットです!」
どうやら睡はバトルの中心に飛び込む気は無いらしい、芋るのは嫌われるぞ? まあチーミングしているわけでもないのでご自由にすればいいんじゃ無いですかね?
パス、パスと銃声が響く、マップによると後方から撃たれているようだ。俺はジャンプと左右移動を繰り返しながら安置まで逃げる。睡の方はまるで操作している様子が無い、おそらく芋っている真っ最中なのだろう、多分エリア制限がかかるまで動かないつもりなのだろう。
おっと、そんなことを考えていたらショットガンを拾ってしまった。おそらく敵とはそこそこの距離がある。ショットガンでは分が悪いし、こちらを追いながらエイムするにはスマホの限界があるためほぼ不可能だ。立ち止まって撃つなら逃げればいいし、追いかけながら撃っているならそれほど正確な射撃はできないだろう。
そう考えて逃げているとパスッと言う音が後方から響いてきて追撃が止った。
「よしっ! 1キルゲットです!」
どうやら追ってきていた相手は睡のスナイプで落とされたらしい。相手がこちらを追ってきていた以上動いている目標に正確に打ち込んだことになる、コイツ……やりこんでるな。
俺は妹に倒された名も無き戦死に黙祷しつつ武器の回収を急いだ。エイムが当てにならない以上大量に撃って弾幕で敵を倒す方が現実的だろう。
『嵐が発生しました、静寂エリアへの移動をしてください』
そのアナウンスとともにマップに円が表示され、タイマーのカウントダウンとともに1段目のエリアの縮小が始まった。
睡もそろそろ芋っていては荒らしのスリップダメージでヤバいはずだが……
「睡、キルどのくらいだ?」
「3ってところですね。皆さん生き急いでるせいで私のスコアが伸びません!」
文句でも言うかのように睡はスマホの操作を再開した、グリグリ操作しているところを見るに嵐の安全圏には入るつもりのようだ。おそらく今回の縮小エリアのギリギリに入ることが予想できるので睡との戦闘を避けるために俺は円の中心へと急いだ。
道中、ハンドガンとアサルトライフルを取得したが弾薬の数に不安があるな。とはいえおっかないスナイパーに襲われる覚悟を決めて他のプレイヤーから逃げるのも分が悪い。何しろおそらく睡はこのマッチに参加しているプレイヤーの中でもぶっちぎりに手強い、
戦場が狭まっていく中で、睡はギリギリを攻めているのか操作している様子も無いのに必死に画面を睨んでいる、芋砂もここまで来れば大したものだと思わなくもない。
『嵐が拡大します、安全圏が狭まります』
システムアナウンスとともに一気に生存可能エリアが狭くなった、ここまで来ればさすがに戦うしかない範囲になっている。なにしろ可視圏がほとんど全ての生存可能エリアだ、エリア外に出ると強烈なダメージを受けるため逃げることもできない。
画面上部の生存人数を確認すると『3』が表示されていた。俺は現在生存、睡はスマホを真剣に見ているのでおそらく生存、あと野良プレイヤー一人を倒せば睡との一騎打ちとなる。
スパパン
軽い銃声がしたのでそちらへ振り向くとアサルトライフルを持ったキャラがこちらへ向かってきていた。
クソッ!
俺はジャンプをしながら射撃をする、もちろんそんな方法で当たるわけが無い。幸いヘッドショットは避けているもののHPはジリ貧だった。
パン
軽い音とともに俺の目の前にいたプレイヤーが倒れアイテムをばらまく。睡か!
パン
その音とともに俺のライフはゼロになった。
睡の方は満足げな顔をしている。
「負けたよ、完全に負けた。まさかそんな戦術を使うなんて思ってなかった」
睡はクスリと笑ってから言った。
「ほう……経験が生きたな」
「それはMMORPGの有名キャラの台詞な? FPSじゃないから」
「野暮ですねえ……まあ何にせよ私の勝ちですよ?」
「あとお兄ちゃん、後で頭をなでてくださいね?」
「は!?」
「勝者が敗者に命令するのは基本でしょう?」
そんなわけで一日バトルロワイヤルをやり続けたが睡に勝つことはできなかったのだった。
ちなみに頭をなでると満足したのか次のマッチでは俺より長く生存したもののトップにはならなかったのだった。
――妹の部屋
「ふへへ……お兄ちゃんが頭をなでてくれました」
練習してて良かった! 心の底からそう思いました。これは新たなお兄ちゃんとのコミュニケーションツールになりますね!
私は夜も遅くなるまでスマホでプレイしていたのですが、バッテリーが残念ながら尽きてしまったので充電マットにおいてその日は寝たのでした。




