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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年夏休み編

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妹のお昼寝

「くぅ…………」


 俺の隣でカワイイ寝息をたてているのはもちろん俺の妹だ。だらしなく寝ているが、いつも家事全般を任せていたのでたまにはこんな日も良いだろう。曰く『お兄ちゃん、しばらく寝ます』と言って数秒後にはグウグウと寝息をたてていた。どこかのあやとりの得意な少年並みの寝付きの良さだ。


「ふぁ……」


 隣で気持ちよく眠られると俺の方まで眠くなってしまう。俺はiPhoneを取りだして音楽をかける。最近の異世界アニメのOPが呑気なノリで再生される。異世界なのになんでこんな緩い曲になっているのかは知らないが最近の流行というやつだろう。AppleMusicに最近アニメソングが増えてきたのでありがたく契約している。


 なんだか眠気が強くなってきたのでコーヒーを一杯淹れることにした、睡はコーヒーをあまり飲まないので現在睡が寝ているので気兼ねなく飲むことができる。


 コーヒーメーカーに豆と水を注いでスイッチを入れる。ガガガと豆が砕ける音がしてドリップが始まる。睡はすっかり就寝中なのでそんなことをする必要は全く無いのだがなんとなく自分用のマグカップと睡の使っているコーヒーカップを取り出す。


「うん……?」


「おっと、悪い、起こしたか?」


「そりゃあまあガリガリ音がすれば目が覚めますよ」


 ごもっともなことだ。確かにドリップだけならともかく豆をひく音なら目も覚めるだろう、そのくらいの音量だった。


「あ! お兄ちゃんは私の分も淹れてくれるんですか?」


 マグと一緒に置いてあるカップを見てそう聞いてくる。


「なんとなくな……起きるかもと思って」


 睡は頷いてから椅子に座った。


「たまにはコーヒーもいいですね、じゃあお兄ちゃん、ミルクと砂糖たっぷりでお願いしますね」


「はいよ」


 俺の分と睡の分、二杯を注いで睡の方のカップにミルクを二杯とスティックシュガーを二本入れる、ここまで甘いともはやコーヒーなのかカフェオレなのかすら怪しい味になるだろう。


「どうぞ」


「はい、いただきます」


 柔らかな日差しが窓から投入されている部屋にコーヒーの香りが漂う。俺はブラックで飲んでいるが睡の方から甘い香りが漂ってきて俺の分にも砂糖が入っているんじゃないかと錯覚する。


「美味しいか?」


「ええ、お兄ちゃんの淹れてくれたものですからね」


 そう言って微笑む睡を可愛いなと、柄にもなくそんなことを考えてしまった。なんとなく顔をガン見するのが気まずくなってスマホを取りだした。少し失礼な気もするが睡と顔をつきあわせ続けることができるほど俺のメンタルは強くない。


 なんとなくsignalにメッセージがきていないか確認するが友人らしい友人がほぼいない俺にそんなものが届いているわけはなかった。ついでにLINEのオープンチャットも確認してみるがこれといって面白い書き込みはなかった、やはりテキストで遊んでいた世代はLINEに移行することなくネットの海でさまよっているらしい。


 なんだか寂しい気もするが俺たちの世代はインスタやらtiktokに順応するしかないのだろう、少なくとも次のSNSができるまでは……


 ちなみに一瞬世間で話題だった音声SNSには当然だが参加しなかった、招待制に忍び込めるほど俺は友人がいないし、リアルボイスで話をするほどメンタルが強くない。


「お兄ちゃん、妹とコーヒーを飲んでる時にスマホを弄るのはどうかと思いますよ?」


「悪かったよ……」


 そういえばいつもスマホを使っている睡だが、俺と正面切って話している時にスマホを取り出した場面はあまり思い出せない。コイツは地味に気を使っていたのだろうか?


「睡、勉強はしてるか?」


 俺も大概コミュ障なので話題が思いつかずついつい親のような説教臭い聞き方をしてしまう。睡も会話のドッジボールになれているらしく軽く返してきた。


「性教育ならお兄ちゃんに是非教えていただきたいですね」


 ニコニコしながら俺の話題にビーンボールを投げ返してくる睡。結局俺はそのボールをキャッチできずにスマホを再度取り出した、睡は怒るでもなく俺を微笑ましく眺めている。


「お兄ちゃんはこの手の話題苦手ですよね?」


 逡巡してから答える。


「そういうネタを分かっていて振ってくる妹も苦手だぞ」


「酷いですよ! そもそもお兄ちゃんが勉強してるかって聞いたんじゃないですか!?」


「保健体育の話はしてないんだよ!」


「む、お兄ちゃんがおざなりに流そうとするから話に緩急をつけてあげたんじゃないですか!」


「緩急どころか直滑降なんだよなあ……」


 そう言ってスマホから顔を上げると睡は俺の顔を見ていた。その視線と向き合うにはどうにもなんだか気まずく感じて話題を探してしまう。


 できるだけ問題のない無難な話題……


「今日は良い天気だな?」


「お兄ちゃんは休みだとろくに外に出ないでしょうが……天気が雨だろうと雪だろうと関係ないでしょう?」


 くっ……コイツは一々俺の痛いところを突いてくる。


「俺の負けだ、お手上げ、負けを認めるから俺を責めるのはやめようか」


 睡はクスリとして俺に語りかける。


「ではお兄ちゃんは敗北者として私をもてなしてもらえますかね?」


「断ったら?」


 睡は口角を吊り上げ真っ黒な目で言った。


「お兄ちゃんの苦手な話題の会話デッキで勝負しますよ?」


「分かったよ、もてなすって何をすればいいんだ? 大したことはできないぞ」


「お兄ちゃんには膝枕をしてもらおうかと思います。私が寝るまで昔話でもしましょうか? 安心してください、無難な思いでしか語りませんよ?」


「オーケー……それでいい」


 睡は微笑みながら頷いたのだった。


「よろしい」


 そうしてソファに横になる睡の隣に座る。睡は俺の膝に頭を乗せてきた。


「膝枕って寝づらくないか?」


「そんなことはないですよ? まあお兄ちゃんの膝枕限定ですが」


 限定とは一体……


「お兄ちゃんは昔から私に甘いですよね? いえ、大変良いことではあるのですが」


 どうやら本当に昔の話をするらしい。


「そうだな、兄っていうのはそういう物だと思ってたよ」


「そういうところは嫌いじゃないですよ? でももっと愛情表現があってもいいような気がしますがね」


「俺は兄だしお前は妹だ。家族として大事にはちゃんと思ってるよ」


 その答えに不満なのか、睡は露骨に不機嫌そうな顔をした。


「ま、そんなものでしょうね……お兄ちゃんはもう少し人の心について勉強するのをお勧めしますがね……ふぁぁ……寝ますからしばらくこうしていてください」


 そう言ったと思うとあっという間に目を閉じて規則的な呼吸音が聞こえてきた。本当に寝るのが早いやつだ。


 俺はしばらく膝枕をしていたのだが、足がしびれてきたのでクッションをそろりと膝の代わりに置いて席を立った。気のせいかエアコンのよく効いた部屋のはずなのに体の芯が温まっていた。この感情が一体なんなのかは皆目見当も付かなかった。


 ――妹の視点


 お兄ちゃんの膝枕は心地いいですね。昔はおねだりしていましたが最近では露骨なアピールを受け流されることが多くなりました。人間としての成長なのかもしれませんがとても悲しいことです。


 意識が消えていく中で頭の下にあるお兄ちゃんの膝がとても柔らかくなった気がしたのは気のせいかと思いながら微睡んだのでした。

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