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妹と失言

「お兄ちゃん! 一生のお願いです! 回線貸してください!」


 睡がそう言って頭を下げる、回線というのはモバイル回線のこと、つまり俺のiPhoneでテザリングをさせてくれと言うことになる。


「睡……ちゃんとWi-Fiに繋がってるか確認してから使おうな?」


 妹は掲示板でレスバをするためにWi-Fiをオフにして飛行機を飛ばしまくった結果、Wi-Fiをオンにするのを忘れてついつい通信量を使いすぎたらしい。まだ多少の余裕はあるが、Wi-Fiを使えない時にはテザリングで回線を貸してくれと言うことらしい。


「お兄ちゃん!!!!!! お願いします!!」 


 頭を下げる妹に俺も断る気になれず、受け入れた。


「分かったよ……」


 俺はiPhoneを取り出しインターネット共有機能を有効にする。適当なパスワードを設定しておく。


「ほら、*****がパスな」


「はい! 繋がりました! お兄ちゃんと繋がりました!」


「変な言い回しはやめてくれないかなあ!」


 なんにせよ、これで通信は当面自由だろう。何しろ俺はロクに外で通信する相手もいないからな! 悲しいなぁ……


「よっしゃあああ!!!! これでギガ使い放題ですよ! 持つべき者はお兄ちゃんですね!」


 調子よくそんなことを言い出す睡、俺の通信量が大幅に余っていることを知っていたらしい。


「なあ睡、テザリングができない環境になる可能性もあるんだから、こういうことが起きないように不毛なレスバのために飛行機を飛ばすのはやめないか?」


「私がマウントをとれる機会を犠牲にしろと言うんですか!?」


 そういうくだらないマウント合戦が無駄だからやめろと言っているのだがその理屈は全く通らないらしい。


 睡は深夜までレスバを続けたのだろう、目の下にクマを作って朝食を食べていた。不毛な争いをした後で食べる飯は美味いか?


 俺はいろいろと思うところがあったが巻き込まれてはたまらないので気にせず朝食を食べることにした。


 朝食を終えて睡に言っておくことがある。


「動画とかはWi-Fi使えよ? 俺の回線だって無限にあるわけじゃないんだからな?」


「はーい!」


 元気の良い返事だった。ちなみに睡にテザリングをさせるために基本的に俺のiPhoneの方はモバイル回線を使わなければならない、もっとも動画サイトなどはPCで閲覧するのでそれほど大きな問題では無いだろう。


 一つ疑問が浮かんだので睡に聞いてみる。


「睡、一体何を必死に議論してたんだ? 回線切って目をそらせば勝ち負けなんて気にならないだろ?」


 三十六計逃げるにしかずと言う言葉はネット上では極めて重要だ。不利な争いから逃げることができるのだからわざわざ戦うことを選択するのはあまり賢いとは言えない選択だ。


「聞いてくださいよお兄ちゃん! 『妹なんて時代遅れ、時代は姉』なんてスレッドが立ってたんですよ! これは絶対に許せないことでしょう?」


「でしょうって……負けそうなら素直に逃げろよ……自演してまで勝ちを拾いに行くような議論じゃねえだろ……」


 どんなレスをしたのかは不明だが真っ向勝負で負けたようだ。しかしとりあえず分かることとしては睡は妹派だと言うことだ。妹が妹キャラが好きというのもなんだか奇妙な感じもするが性癖は個人の自由だからな、俺がとやかく言うこともないだろう。


「睡、争いは何も生まないからな?」


「それでも戦うことに意味があるんですよ!」


 熱っぽくそう言ってドヤ顔をする、偉そうにしているが負けてるんだよなあ……


「お兄ちゃんは姉派なんですか?」


「え゛!?」


「お兄ちゃんは年上の方が好みなのかなと思いまして、まあ私も双子ですし、実質姉も妹も兼ねているみたいなところはありますけど? お兄ちゃんの好みが気になるなーって思って」


「ええっと……俺は……」


 ギロリ


 睡が殺意すらこもった目でこちらを見てくる、正直怖い。


「妹派です」


 これが正解だろうか? 睡の顔色をうかがってみるとニコニコしていたのでどうやら当たりだったらしい。自分の兄が妹派とか何が嬉しいのか分からないがとにかく地雷を踏み抜かなかったことだけでも十分だ。


「よしよし、お兄ちゃんは妹が大好きと……いいですねえ……」


 なんだか顔を緩めているが俺も睡の全てを知っているわけではないので判別が付かない。ただ、妹との関係は良いにこしたことはない。兄妹で暮らしていると関係の悪化は大問題になる。妹のご機嫌を損ねないことも時には重要なテクニックになる。


「お兄ちゃん、私のことが好きならデートでも何でも出来ますよね?」


「は!? いやあ、姉と妹だと妹の方が好きってだけでデートをする必要は無いんじゃないかなあ?」


「いいえ! 仲の良い兄妹というのはデートをするものです! 今度誘いますから付いてきてくださいね!」


 有無を言わさない断言の形でいずれ睡とデートをするのが決定事項になってしまった。言葉は慎重に選ばないと何が起きるか分かんないな……


「まあ、いずれ一緒に……な?」


「はい! お兄ちゃんの言質取りました! 私とのラブラブデートプランに乗ってもらいますよ!」


 なんだか話がどんどん大きくなっているようだった。ただのデートとの違いはよく分からないが、とにかく睡が気合いを入れるような本気のデートであると言うことだけは伝わってきた。


「まあほどほどに付き合ってやるから、過激なやつはかんべんな?」


「任せてください! お兄ちゃんの愛情を奪って見せますよ!」


 気合いを入れる睡に俺はほどほどという言葉の意味が通じていないのか、もしくは話が全く通じていないのか不安になった。


 世の中には話の通じない相手がいるとはよく聞く話だが、睡は間違いなくその一人だろう。自分を一番に考え間違いなど微塵もないと考えている、その鋼のメンタルを崩すことは出来そうになかった。


 なお、その夜Airdropで睡の自撮りが隣の部屋から送られてきた。その写真には俺とのデートプランを練っている様子が撮影されているのだった。


 ――妹の部屋


「ひゃっっほうううううううううう!!!!!! お兄ちゃんは妹が大好きですって!!!」


 いやあ考えるだけでも気分のいい話ですね! お兄ちゃんの口からその言葉が出たというのは非常に重要なことですよ!


 さて、プランを練るのに戻りますかね……自宅、映画館? テーマパーク? 考え出すとキリがないですね……


 私とお兄ちゃんの間には無限の可能性があると言うことは素晴らしいことですね!


 私はきっと世界が終わるまでお兄ちゃんの側にいます。それを誰にも邪魔させません! 世界は私とお兄ちゃんのためだけにあるのです!


 その日の夢は非常に色鮮やかで心地よいものでした。

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