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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年夏休み編

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妹と皆既月食

「お兄ちゃん! 月が綺麗ですね!」


「まだ真っ昼間だろうが」


 睡が突然そんなことを言い出したのに心当たりはある。『皆既月食』、そう、今日起きる天文学的なイベントだ。イベント自体は知っているが、屋外イベントと言うことでどうにも気乗りしていなかった。


 このクソ暑いのに外なんて眺めたくないんだよ。


「窓から見ることにするよ」


「はあ? お兄ちゃんも当然庭で眺めるんですよ? 私と一緒にです。きっと綺麗ですよ?」


「拒否権は?」


 一応聞いておく。


「もちろん無いですよ?」


 どうやら選択肢は無いらしい、まあ時間になったら少し外に出て月を眺めて終わりだし……


「ちなみに八時半からだそうなので七時には庭で待機しましょうね!」


「正気ですか……」


「もちろんですとも!」


 空調の効いてない空間に一時間以上……真夏……うん、正気じゃないな!


「俺は30度以上の気温に晒されると命が危ない持病を持っててな……」


「はいはい、ワガママ言わない! お兄ちゃんもたまには私に付き合ってくださいね!」


 と、まあそんなわけで今日の皆既月食鑑賞は強制イベントとなったわけだった。はぁ……現在冷房の効いた部屋の中にいる。庭では蝉が鳴き、日差しが差し込んできている。心なしか日向に生き物が少ないような気がするのは気のせいだろうか?


 せめて七時までは冷房を浴びておこう……俺はリモコンを取って設定温度を二十二度にまで下げた、地球環境? 知ったことか。


「お兄ちゃんは暑さに弱いですねえ……」


「そんなことはない、寒さにも弱いぞ」


 睡は呆れたように首を振った。


「これは私がいないとお兄ちゃんがダメになっちゃうパターンですね……」


 何やらダメ人間扱いされているが、わざわざ苦行を行う趣味は無い、苦労は買ってでもしろなんてのは苦労が報われた時代の人間の戯言だ。ダメ人間で何が悪い、やらなくていいことはやらない方がいいに決まっている。そんなときに有名な言葉がちゃんとある『それは、多分、必要ない』YAGNIという有名な略称が付いた格言だ。


 要するに今必要ないならそれを実装するべきではないと言うことだ。人生はそんな物だと思っている。


「お兄ちゃん、またどうやってサボるか考えてるでしょう? 分かるんですよそういうの」


 こういうときだけ勘のいい妹だな。


「君のような勘のいい「お兄ちゃんもガキでしょうが」」


 発言を先に潰されてしまった。俺の性格はよく分かってるくせに強情を張るやつだ。もっとも俺もやる気のなさで言えばそれなりに自信はあるのだが。


「さて、お兄ちゃんのために夕食の準備は頑張りますよ!」


「そんな頑張らなくてもいいだろうに……日食と違って月食は割とある現象だぞ?」


「お兄ちゃんと見られる回数には限度がありますからね!」


 そう言って揚々と蚊取り線香を取り出したり、ランタンを用意したりして準備を万端の物にしているようだった。


 皆既月食ねえ……月が暗くなるだけだろうに、物好きなやつだな。そんなありふれた自然現象でもアイツにとっては貴重なイベントなのだろう、俺にはあまり理解できることではないのだがな。


「なあ睡、お前天文学にそんな興味あったっけ?」


 コイツが星や天体について語るのを聞いたことはなかった、天文学がテーマのアニメなどもあったがそれに影響でもされたのだろうか?


「無いですよ? 全く無いです! ゼロですね、虚無と言ってもいいです!」


「えぇ……じゃあなんでそんなにテンション高いんだよ……?」


「お兄ちゃんとのイベントならなんだって嬉しいんですよ?」


 やれやれ、それが理由なら俺が回避できるイベントじゃないじゃないか……


 どうにも逃げる方法がないらしく俺も諦めとともに覚悟を決めて部屋の冷房のタイマーを入れることにした。月を見終わったら即部屋に帰ってキンキンに冷えた空気を味わうことにしよう。


「お昼ご飯ですが、月を見ると言うことで月見うどんにしますね」


「わざわざ熱いものを選ぶあたりお前もなかなか鬼畜だな……」


「お兄ちゃんがもっとやる気があれば下準備なんていらないんですがねえ……お兄ちゃんのテンションが低いので上げていこうとしているわけですよ?」


 どうやら俺のせいらしい、暴論のような気もするが自分で調理をするよりマシな物ができるし、少なくとも食事をする場には冷房が効いているので冷房の設定温度を下げて我慢すればいいだけだ。


 リモコンを手に取って設定を下げ、キッチンとリビングの温度を下げる。睡は冷凍庫からうどんを取りだしている、マジで月見うどんにするようだ。この冷房は睡にとっても悪くないだろう。この熱いのにうどんを煮込むなんて熱波を浴びることになるからな。


 コトコトとしばらく鍋から湯気が上がっていたができあがったようで、テーブルの上にどんぶりが二つ置かれた。


「できました、じゃあ卵を割り入れましょうか」


 俺たちは一緒に置かれた卵を割って入れる、次第に白身がやや白濁していった。


「じゃあ食べるか」


「そうですね!」


 そう言って食事を始めて数分後……


「お兄ちゃん……熱いですね……」


「作った本人がそれを言うのか……」


 呆れながらうどんをすすり、なんとか食べ終わったところで卵の黄身を崩し忘れたことに気がついた。


「あ、お兄ちゃんは卵を割らない人でしたか、その卵もらえますか?」


「へ? ああ、いいけど」


 チュルン


 睡は俺のどんぶりを抱えて一息に黄身を丸飲みした。


「そういう食べ方をするのか……」


「お兄ちゃん、こういうのが通の食べ方なんですよ?」


「何処の世界の話だかな……」


 こうして昼食が終わり、睡は月食の鑑賞の準備を順調に進めていった。なんとご丁寧にエアコンのある中、屋外にこだわるために扇風機を持ち出してきたのには驚いた。縁側まで延長コードで引き延ばされた電源にコイツの執念がどれほどの物なのかと驚いた。


 なお、その準備に必死だったため夕食はカロリーメイトになった、睡曰く『お兄ちゃんとの食事が……不覚です』などと言っていたがカロリーメイトでも十分に美味しいと思える俺の舌からすれば全く問題無いものだった。


 せめてもの幸運は月がちゃんと見えていたことだろうか。


 日も落ちて月の光がはっきり見えてきた頃にようやく目的の月食が起き始めた。


 月の端から徐々に暗くなっていく、これが珍しい現象なのだろうか? 縁側に座って隣を見ると、睡が俺の腕を抱きしめてうっとりとしていた。いくらでも反応はできたのだがなんだか悪い気もしてそのまま腕にぬくもりを感じながら月を眺めた。


「お兄ちゃん、いい雰囲気ですね……」


「そういうのは自分から言うものじゃ……いや、そうだな」


 睡は笑みを浮かべながら俺の腕を胸に押しつけた。柔らかな感触が伝わってくるが、珍しくそれが心地よいと思えるのは月が欠けているせいだろうか?


 そんなことを考えつつ月を眺めていると月食がつき全体に広がった時に頬に何か柔らかで温かい感触を感じた。月食に気を取られていたので僅かに遅れて睡の方を見ると顔を赤くして月を見上げていた。さっき何をしたのか聞くのはなんだか憚られる気がして、それから月が煌々と光り出すまでなんだかふわふわとした心地よい感覚に包まれたのだった。


 そうして月がいつも通りの満月になった頃、腕の感触がなくなり、睡が離れて『暑いですね……シャワー浴びてきます』そう言って離れていった。


 俺は部屋に戻って冷房を浴びるとなんだか冷静になってきたがさっき頬を伝った感触の招待がなんだったかについて考えるのはやめた。きっと月にあてられた幻覚か何かだろう。俺は深く考えるのをやめてシャワーの順番がくるのを待っている打ちに眠ってしまった。


 ――妹の部屋


「いやっっっっっほううういいいいいいいいいい!!!!!!!!!」


 お兄ちゃんと……お兄ちゃんと……一歩踏み出してしまいましたね! これは記念すべき事ですよ! 私のスマホに記念日としてしっかりと記録しておかなければなりません。


 無音カメラでこっそり撮った写真を眺めながら火照る身体を冷やすために冷房を強くして寝ようとしましたが到底眠れる物ではありませんでした。幸い、夏休みなので明日が休みという事で問題にはなりませんでした。

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