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妹とゲーミングスマホ

「お兄ちゃん! これを見てください!」


 朝食後睡が俺に印籠のごとく取り出した物はスマホだった。いや、スマホなのではあるが……なんというか……光っていた。


「なんだその悪趣味なスマホ」


 睡にとってはその反応は予想外だったらしくショックを受けつつ俺に懇切丁寧に説明を始めた。


「お兄ちゃんは分かってないですね……最新のゲーミングスマホですよ? Antutuでトップクラスのスコアをとれるんですよ? 最新のハイエンドスナドラ装備! つよい!」


 俺はなんとなくそのスマホの販売ページに『令和最新版』とか書かれてそうな機種だなあと思っていた。まあ、ゲーミングだからね、光るのはしょうがないね。


 しかしコイツの資金源が謎だ、決して生活費の仕送りを流用していないで有ろう事は俺たちの生活レベルから感じられる。


「それで何をやるんだ? スマホゲーにそんなスペックいるのか?」


「当然ですよ! iPhoneみたいに数字が小さいのに数世代前でも普通に動くのがおかしいんですよ! Androidはスペックが命ですからね?」


「そういうもんですか……?」


「しかしそれならiPhoneでいいのでは? フォートナイトでもするのか? アレはAppleにリジェクトされてたしな」


 Androidはストア以外からアプリをインストールできる、課金システムを迂回するために使用する会社もある、spotifyにappleがキレたのは有名な話だ。


「PUBGモバイルでもやろうかなと思いまして、お兄ちゃんも始めませんか?」


「えー……3Dゲームはバッテリーが爆速で尽きるんだよなあ……Live2Dくらいならそんなに発熱も消耗もないんだけどなあ……それに……」


「なんですか?」


「FPSはマウスの方がエイムが簡単なんだよなあ……」


 エイミングで画面タッチがマウスに勝てる技術力は未だにない、チーターと呼ばれる人たちがスマホにマウスを繋いで圧倒的性能で勝つ事はあるらしい。


「マウサーは嫌われますよ?」


「PC版なら全員マウス装備だよ」


「お兄ちゃんはスマホを何に使ってるんですか? ゲームしないんですか?」


 人の使い方なんて気にするようなことでは無いだろうと思うのだがな。


「2DゲームとSNSだよ、後はPCでログインする時に多要素認証の鍵になってる」


 最近は多要素認証を推奨しているサービスも多いが大抵のところがSMSか認証アプリを要求している、正直面倒くさいのだがセキュリティ的には意味がある。もっともパスワードの長さを十分にしておけば大抵は問題無いのだが。


「はっきり言いましょう! お兄ちゃんはスマホの力を引き出せていません! スマホでキラキラな人生とか憧れませんか?」


「俺は『映える』ような人生を送ってないんでな。俺は陰キャとして生きていこうと思ってるんだ。わざわざ料理の写真を撮ってアップしたり、パリピでウェーイな人生は送れないな」


 人の生き方は自由だが、俺にとってはそういう生き方は眩しすぎて光に焼かれそうなほどだ。


「別に誰も彼もが写真をアップしているわけではないですよ? まあいいね欲しさに無茶をする人もいますが」


「ネットにリアルを持ち込まないが俺のルールなんだよ」


 陰キャはリアルに居場所がないんだからせめてネット上くらいには居場所があってもいいんじゃないだろうか? そこかしこで迫害されてネット上でまで追い立てられたくはない。コイツは陽キャよりなので多分俺の気持ちは分からないのだろう。


「お兄ちゃん、ネットにも回線のデータを見ているのは人間なんですよ? ボットを相手にしているわけじゃないんですか諦めましょうよ、時代が変わったんです」


 俺に対して正論の刃を突き立ててくる睡、正論だからといってそれに従う理由もないんだがな。正しいことだけで世の中は回っていない、世間という物はどす黒い闇や得体の知れない恐怖、憎しみその他諸々のロクでもない物がたっぷりと含まれている。そんな物に妹が触れて欲しいとは思わないのだが。


「お兄ちゃんはあんまりスマホ触ってるとこ見ないですね?」


「俺はPCのサポートにしか使ってないからな」


「やれやれ、お兄ちゃんはスマホの便利さの欠片も理解していないようですね。私が教えてあげましょうか?」


「生憎と俺はスマホでしかできないことしかしない主義でな、他はPCですませているから必要ないかな」


 睡は首を振る。


「やってみれば絶対気に入りますって! 便利さに気がつかなかったら鼻から牛乳を飲んであげますよ!」


「そういうフラグを立てるのはやめてくれないかなあ!」


 俺は妹が鼻から牛乳を飲む姿なんて見たくないぞ!


「そうですね、お兄ちゃんの使い方ならショッピングとかどうですか?」


「ショッピングねえ……」


 基本的にスマホでやることはあまり無い、検索条件の指定が少なくなっていたり、そもそもデジタルコンテンツはアプリから買えなかったりする。


「ほら、このアプリとか見てくださいよ! スマホがたった1万円で売ってるんですよ!」


 一見魅力的に感じるかもしれないがもちろん値段なりの性能だ。そのサイトは俺もPCから見たことがあるが説明通りの商品が届いたことはない、基本的にどこかが表示と違ったりサンプル写真の跡形もない商品が届いたりする。それを楽しむ上級者向けサイトだ、というかアプリになってたんだな……


「なんというか、微妙だな。そこは使ったことあるが見本詐欺みたいな物だったぞ?」


「くっ! お兄ちゃんのネット歴の長さを侮っていました! このままでは私が鼻から牛乳を飲むことに……!?」


「しなくていいから、PCはPC、スマホはスマホでどっちが好みかなんて人によるだろう? そんな気にするようなことじゃないんだって」


「では私とメッセンジャーのIDを交換しませんか? エンドツーエンドで暗号化しているアプリがあるのですが……」


「まあそれは確かにメリットだな、PGPでメールを送ったらごく一部の人しか見られないもんな」


 今までやりとりをしてきた中で秘密のメールを暗号化して送ってきた人に出会ったことがない。暗号化zipですらほとんど目にすることがなく平文で送ってくるのでセキュリティ的にはいいのかもしれない。


「ところでなんでお前は急に俺にスマホを勧めるんだ? 今までだってメッセンジャーは使ってたし、特別理由が無いだろ?」


「それは…………からです」


「えっ……なんて言ったの? マジで聞こえなかったんだが?」


 難聴系主人公ではなく小声過ぎて俺には聞き取ることができなかった。


「お兄ちゃんと二人でギルドを立てたいんです!」


 ああー……そういう……確かにネトゲでギルド要素のある物多いもんなあ……


 大抵そういうゲームはチームで競わせるので課金勢がいるとパワーバランスがあっという間に崩れたりする。


「分かったよ、そのゲームを教えてくれ、インストールするから」


 睡がぱっと顔を上げて喜色満面に変わった。


「ではこのアプリですね、ダウンロードしておいてください、大丈夫です! 基本無料ですから!」


 基本無料が怖いんだよなあ、とはわざわざ言わなかった。金の力でレベリングやゲーム内通貨の購入が悪いとは言わないが、やはり王道とは言えないだろう。


 そうして数ギガのダウンロードが終わったところでログインして睡のギルドに入った。入ったとは言っても二人ギルドなわけだが。


 それからしばらく、低レベルだった俺のキャラを睡の強キャラによってパワーレベリングさせられたのだった。本人が満足だから俺はこのゲームが早晩サ終しそうなことについては黙っておいた。


 その後しばらくしてからサービス終了のお知らせを見て睡が泣いていたのはまた別のお話。


 ――妹の部屋


「ひゃっっふううううーーー!!!」


 お兄ちゃんと二人でギルドが作れましたよ! しかも何と何と! このゲームには結婚システムがあるのです! もちろん年齢制限は無し! 最高ですね!


 私は寝る前に記念としてガチャの石を買っておきました、一途良い夢が見られることでしょう。私は昂ぶる気分でロクに眠れないのでした。

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