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睡、クソゲーを掘り当ててしまう

 俺は気持ちのよい日差しが窓のカーテンの隅から差し込んできて目が覚める、冷房はちゃんとかけていたので気分よく眠る事ができて久しぶりに爽やかな気分で朝食を食べにキッチンに向かった。


 キッチンは灯りが付いており、睡もちゃんと起きているようだ。


「おはよう」


 挨拶をしながらキッチンのドアを開けると睡が朝ごはんを作っていた。それはいつもの光景ではあるのだが……なんというか、睡の顔色が悪かった。


「おはようございます……」


 なんだかいつもの元気の良い挨拶ではなく、珍しい事もあるものだと思う。


「睡、ちょっといいか?」


「え? 何ですか?」


 ピト


 睡の額に手をあてて自分の体温と比べてみる、どちらも同じくらいの熱さで熱があるというわけではなさそうだ。


「ひゃい……お兄ちゃん……大胆ですよ……!?」


「熱があるか確認しただけだろうが! まあ熱はないようだな」


「お兄ちゃん! 一体なんだというのですか? 私は至って健康ですよ?」


 そうは見えないんだが……


「調子が悪そうだけどなんかあったかなって思って」


 睡はなんだか気まずそうに俺に答えた。


「実は、新しいソシャゲを始めまして……」


「まさか徹夜したのか……?」


「ええ、プレイすると無料石が結構貰えるのでつい……」


 ソシャゲの多くは始めたばかりだと石を大量に配るゲームはよくある、そこから課金沼に沈めるための餌になっている。睡もそれに釣られた口だろうか。


「ちなみになんてゲーム?」


「スターライト・シスターズってゲームです、指揮官のお兄ちゃんになって妹たちを操って戦うディフェンス系ゲームです!」


「ソシャゲのキャラ数で妹が出てくるってシュールだな……」


 多くて100以上のキャラが出てくるのにそれが妹縛りだと一体主人公の家族構成はどうなっているのか気になるところだ。最も、そういうところは気にせず流すのがソシャゲの基本ではある。リアリティなんて気にしていたら面白いゲームは作れない、某宇宙戦争の映画だって宇宙なのに音が響いているからな。


「出てくる妹が軒並み私並に可愛いのでついついガチャをひいちゃうんですよねえ……」


「自分で可愛いって言っちゃうのか……」


 こういうところが残念なんだよなあ……睡は確かに可愛いのだが自分で言う事じゃないだろう。謙遜しろとまでは言わないが自分が可愛いと確信しているのはすごいな。


「褒めても何もでませんよ?」


「褒めてるように聞こえたのか、そうかすごいな」


「へへへ……」


 どうやら寝不足で頭がオーバーフローしてしまったらしい。ソシャゲに沼るとこうなってしまうのか、怖いな。まあたまに買い切りのゲームにもとんでもないクソゲーが登場したりする事もあるのだが、買い切りなら金をドブに捨てたと思えば諦めもつく。ソシャゲではここまで突っ込んだんだから出るまで引くという恐ろしい心理状態になる事がある。


 それはともかく、睡がずっとこの調子だと心配なのでやんわりとほどほどにするように言っておく。


「睡、あんまり無茶はするなよ? 天井まで回すとかガチャのダークサイドだからな?」


「大丈夫大丈夫、へーきへーき。私は無理の無い課金しかしてませんから!」


「それは絶対に天井までいくパターンだろうが!」


「だってこのゲーム、コンボシステムがあって前のクエストクリア後五分以内に次をクリアしたら石が倍貰えるんですよ! これはやるしかないでしょう!」


 思った以上にアレなゲームだったらしい、俺は睡のスマホからそのアプリを消したくなった。高校生でソシャゲ廃人とかロクな未来が無いんだよなあ……


「睡、ソシャゲはほどほどにするのが正しい付き合い方だぞ? いくら課金が少なくても時間はしっかり食い潰されるんだからな?」


「それがですね……私にそっくりのツインテールの妹がいまして……絆レベルを上げるとお兄ちゃんとのイベントが起きるんですよ! その妹をやっとの思いで引いたのでついついレベルを上げたくなりまして……」


「ゲームと現実の区別はつけようよ……」


「じゃあお兄ちゃん! 今はこのゲームで妹が兄の膝の上に乗ってご飯を食べさせてもらうってイベントやってるんですよ! リアルでできるならゲームやる必要ないんですよねー」


 チラッ……チラッ……


 しょうがないやつだなあ……世話が焼ける。


「分かったよ、夕食な?」


「ヒャッホウいいいいいいいい!!! リアルお兄ちゃんとのイベントですよ!!!」


 そうして早速睡が夕食を作り始めた、ちなみに現在午後三時、このペースでできると夕食には早すぎる気もするんだがな。


 コトコトと鍋に入ったシチューが沸き立っているが睡はそれを真剣な目で見ている。


「ふっふっふ……お兄ちゃんに食べさせてもらう……フフフ……」


 不気味な笑みを浮かべているのでまるで魔女の釜のように鍋の中身が怪しく思えてしまう。なんというか……自分が食べるものなんだから変なものは入れないと思うが何か企んでいても不思議は無かった。


「さあお兄ちゃん、できました!」


 睡がホワイトシチューを入れた皿を持ってきた。しかし……


「一皿? 二人分じゃないのか?」


「二人で一皿を食べるからロマンがあるんじゃないですか! ……イベントでは二人分あるんですが……」


「何か言ったか?」


「細かいことを気にするのはやめましょう! ところでお兄ちゃんはご飯にかけて持ってきた方がよかったですか?」


「それについてはどっちでもいける。細かく議論すると神学論争になるからどっちがいいとは言わないぞ」


 シチューをご飯にかける人とかけない人と、日々宗教戦争のごとき争いをしているが俺はどちらかに与する気はない。睡が食べたいようにあわせる程度の度量はある。


「じゃあシチューだけで食べましょうか!」


 シチューは一皿に盛ってあり、それを睡に食べさせればいいのだろう。スプーンが一個しか見当たらないのが気になるな。


「睡、スプーンが一個しかないんだが?」


「一緒に食べるんだから一本でいいでしょう? ささ、椅子にどうぞどうぞ!」


 ソファからテーブルの方に移動して座ると睡がちょこんと俺の膝の上に乗ってきた。信じられないくらい軽く柔らかな感触が膝に伝わってくる。


「じゃあ……食べさせてもらえますか?」


「あ、ああ」


 自分でやってて恥ずかしいならやめればいいのに、と思っても俺は言わない。コイツの頑固さはよく知っているので言ったところで意固地になるだけだ。


 シチューの人参をスプーンですくって膝の上の睡の口に運ぶ。いや、これ地味に難しいな。


 実質二人羽織状態なので睡の口がよく見えず運ぶのが難しい。何とか食べさせるとハフハフしながらうっとりとしていた。


 もう一度、今度はジャガイモを食べさせようかとするとそれを制して睡が言った。


「次はお兄ちゃんが食べてください、交互に食べるんですよ?」


 別に抵抗があるなどと言う気もないがそのこだわりに意味があるのだろうか?


 少し考えたがここで俺が意地を張って睡がソシャゲにのめり込んだら家計のピンチになりそうなので従っておくことにした。


 ジャガイモを食べてみるとしっかり味がしみていてほろりと口の中で崩れた、よくできたシチューだな。


「お兄ちゃんお兄ちゃん、次は私ですよ、私です!」


「はいはい」


 今度はカリフラワーをすくって睡の口に運ぶ、何故かスプーンを口に含んでからじっくり味わって食べていた。スプーンを舐めるのはやめて欲しいのだがな。


 とまあこんな調子で夕食は終わっていった。


 夕食後、お風呂の時間だったが睡が長風呂をしたことに何か関係があったのかもしれないが、俺は深く考えるのをやめておいた。


 ――妹の部屋


「ふううううううう!!!!!!! ふぅ……」


 私は冷静になってからとんでもなく大胆なことをしたことに気がつきました。我ながらよくお兄ちゃんと交渉したものです、敏腕ネゴシエーターもビックリの成果ですね!


 そしてお風呂に浸かって冷静になるとその日一日の内容を思い出して悶えました、なんて大胆な行動に出たのか自分でも驚きました。


 そうして眠る時に私は自分の記憶に今日のことを刻み込んで『私はやればできる子』と満足感もたっぷりに眠ることができました。

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