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妹は水着を披露したい!

「お兄ちゃん! 今日は是非私の水着を見ていただきたく!」


「えぇ……この暑いのに海に行くってか? 正直面倒くさい」


 俺のさえ無い反応にも睡は全くめげずに続ける。


「言うと思いました! 絶対そう言うと思いましたとも!」


 コイツこんなに暑苦しい性格だったっけ? 大体海なんてウェーイしている連中が集まっているところに行く必要性が分からない。そう言った人たちが人生を楽しんでいないかといえば全く逆なのだろうが俺は真似したいとは思わない生き方だな。


「お兄ちゃんさえいいなら私は水着を披露できればお風呂場でもやぶさかではありません!」


「いや、さすがにお風呂で水着はいかがわしい店みたいじゃないか?」


「それは偏見というものですよ?」


 チッチッチと指を振る睡、部屋で水着回をするのは漫画の世界だけだぞ。そんなシンプルな突っ込みも無駄だろうと思えてしまう説得力がある。謎の圧力がある妹だった。


「と、とにかく! 水着が着たいなら海に行くのも自由だが俺は動かないぞ」


「それじゃあ意味が無いじゃ無いですか!」


「え!?」


「私は水着を着たいのでは無くお兄ちゃんに見せびらかしたいんですよ!」


「はぁ……?」


 よくわからないな……俺に見せびらかすって意味があるのか? いや、水着を誰にも見せないならそもそも水着が必要かという問題になるのは理解するが『俺に』である必要性があるだろうか?


「お兄ちゃんに見せられれば別にお風呂でも市民プールでも変わらないって話ですよ? 分かりましたか?」


「いやぁ……よく分かんないです」


 睡は首を振って駄々をこね出した。


「お兄ちゃん! 行きましょうよ! 海かプールでいいですから! いやならここで水着になりますよ?」


 脅し方が滅茶苦茶な睡に対して説得の言葉を尽くすよりも素直に従った方がいいと判断した。


「わかったよ……海は遠いからプールでいいな? 市民プールはそんな遠くなかっただろ?」


 幸いなことに市が作ったプールがあるのでそこなら自転車十分くらいで行けたはずだ、もっとも一緒に行く相手なんていなかったから話として知っているだけだが。


「そうですか、いいでしょう! 私の水着に注目してくださいね!」


 そうしてプール用の準備をすることになったのだった。


 ピンポーン


 そんなとき、ドアのチャイムが鳴り響いた。


「いいですかお兄ちゃん! これをフラグといいます、ここで玄関に出るのは殺人事件の現場で『こんなところにいられるか!』と逃げ出すようなものですよ?」


「いや、だって誰か来てるんじゃ……」


「い・い・で・す・ね?」


「はい」


 ピンポーン・ピンポーン・ピンポーン


 チャイムは鳴り止まずどんどん鳴っているが睡は無視を決め込もうとしていた。そこへ重が突然現れた。


「誠も睡ちゃんもいるじゃない、開いてたから入ったわよ?」


「重さん、カチコミとはいい度胸じゃないですか……喧嘩を売っているなら買いますよ?」


「昔は二人とも普通に家に入ってきてたわよね? チャイムを鳴らした分私の方が慎み深いと思うわよ?」


「ぐぬぬ……」


「ああ、重も……ふごっ!」


「何よ?」


「いえいえ、なーんでもないですよ? ね? お・に・い・ちゃ・ん?」


 目が怖いんですけど……どうやらプールに行く必要は無くなったらしい。


「ああ、別にどこかに出かけようとも思ってないし引きこもってただけだよ」


 睡から(ささや)かれたとおりによどみなく答える。重は呆れ顔で俺たちを眺める。


「まあ、いいけどね。睡ちゃん、今日は勉強をしようと思ってきたんだけど? 都合が悪いかしら?」


「うーん……分かりました、勉強会をしましょうか」


 俺は睡に耳打ちする。


「睡、プールはいいのか?」


 それに対して返ってきた言葉はこうだった。


「お兄ちゃんはバカなんですか? 私が、私だけがお兄ちゃんに水着を見せたいんですよ、重さんがいたら意味が薄れるじゃないですか……」


 なんだかよく分からないがそういう物らしい。まあ睡が勉強をするのは悪いことじゃないしいいかな?


「じゃあ睡ちゃんの部屋でいいかな?」


「いいですよ、お兄ちゃんの部屋に入れるわけにもいきませんからね」


「睡ちゃん、もうちょっと私への敵意は隠して欲しいかなあ……」


 そうして俺たちの勉強会は始まったのだった。


「睡ちゃん、よく高校試験受かったわね……」


「自慢じゃないですが一夜漬けは大得意ですからね!」


 胸をはってそう答える睡、それは胸を張る事じゃないような気がするんだがな。確かに睡はあまり勉強ができる方ではないのかもしれないが、ここぞという時に強い事は今までもあった、多分期限が決まっていて後ろから追い立てられないとやる気が出ないタイプなんだろう、その気持ちは分からないでもないので俺は黙っておいた。


 微分やら三角関数やらを終えてから英語に入ったところで睡が投げ出した。


「わっかんないですねー! 英語ができる意味ってあります? ここは日本なんだから日本語で話せって話ですよ!」


「睡ちゃん、一応国際的な社会になりつつあるしね、そう言った事も必要なの」


「私だって英語で話しかけられた時の断り方くらい知ってますよファッ○ユー、スピークジャパニーズって言えば大体伝わるでしょう?」


「お願いだから海外に出て欲しくはないわね……」


 睡は勉強をもうすでに投げ出していて諦めモードに入っていた。体を絨毯に投げ出してお手上げのポーズをする。こうなったらどう言ってもてこでも動かないだろう事を俺は長年コイツの兄をしていた事から知っている。


「重、悪いけどもう睡が限界みたいだ」


「そーでーす、限界です! やってられませんよ!」


「しょうがないわねえ……私はもう帰るけど留年だけはしないでよ? 睡ちゃんを後輩になんてしたくないんだから」


「大丈夫ですよ! 私はやる時はやる女ですから!」


「その自信はどこから出てくるんだ……」


 俺の呆れた言葉も全力で無視してベッドに身を投げ出していた。終了宣言が出たのですっかりやる気が失せてしまったようだ。


「重、ありがとな」


「い……いいわよ別に、勉強を見るのは一向に構わないんだけど居るなら玄関くらいは開けてよね?」


「ああ、わかった」


 そう言うと重は満足げに頷いて部屋を出て行った、来る時も帰る時も一々確認や見送りをしない程度にはお互いを信用している関係だ。


 俺はベッドの上でいつの間にか持ってきた漫画を読んでいる睡に言っておいた。


「プールはまた今度な?」


「お兄ちゃん! 今何と言いましたか!?」


「さあな、自分で考えてくれ」


 そう言って俺は自分の部屋に帰ることにした。


 ドアを閉じたところで睡が『よっしゃああああ』などと叫んでいるのが僅かに聞こえたが、俺は気にしない事にしたのだった。


 ――妹の部屋


「お兄ちゃんと! プール!」


 なんて甘美な響きなのでしょう! この際行き先が海でない事など些細な事です!


 お兄ちゃんに水着を披露する事ができる! それがなんて素晴らしい事なのか言葉を尽くしても言い表す事ができません!


 私はその日、熱に浮かされてロクに眠れませんでした。

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