表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年夏休み編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/179

日差しの中で

 朝、今日はとても暑い日だ、日差しが大量に降り注ぎ大地を焼き尽くしそうな勢いだ。こんな日は起きるのが億劫でしょうがない。もっとも、学校に行く必要がないので億劫でも全く問題はないのだが。


 俺はエアコンの設定温度を一度下げてベッドに寝転ぶ、あぁ……起きたくない……


 そんな怠惰な一日を過ごしたかったのだが、妹の声がここに響く。


「お兄ちゃん! 朝ですよーーー!! 起きてください!」


 甲高い声が耳に痛い、ここで意地を張って寝続けたとしたらきっと睡はもっと大きな声で呼んで最後には部屋に入ってくるだろう。うーん……しゃーないな……起きるか。

「わかった! 今行くよ!」


 そう叫んでからいやいやながら体を起こす。着替えはシャワーを浴びてからにするか。パジャマのままでキッチンに向かうと睡はしっかり着替えて朝食を用意してテーブルに座っていた。


 席について早々俺は愚痴をこぼした。


「暑いなあ……早く冬になんないかな?」


「お兄ちゃんは冬になったら夏になって欲しいって言うでしょう?」


 バッサリ睡に俺の愚痴は切って捨てられてしまった。夏はエアコンが必須なので着込めばなんとかなる冬とはまた違う苦行なのだがな。とはいえ暑いと愚痴ったところで地球の気候が変わってくれるわけでもない、核の冬でも使わない限り気温を操る行為は人間の手に余る。季節は変わってゆき、二度と同じ世界は現れない。多分俺と睡が出会ってのも無限の猿がタイプライターを叩いてシェイクスピアを生成するよりも低い確率を引いたのだろう。だから大切にしていきたいとは思う。


 おっといけない、ついつい死亡フラグのような考え方になってしまった。ポジティブに考えよう。


 ピピピ


 テーブルの上に置いてあるエアコンのリモコンを操作して設定温度を三度ほど下げる。途端に冷気が吹き付けてきた。


「お兄ちゃん?」


「なにかな?」


 俺は大方予想のついた答えについてそうでなければいいなという含みを込めて睡に聞いてみる。


「寒いです」


 ピピ


 エアコンの設定温度を二度上げられてしまった。どうやら我が妹は若者なのに冷え性を患っていると思われる。幸い暖房が流れてくることはなかったが冷房は止まってしまった。クソ暑い気温に徐々に近づいていく。これだから夏は嫌いなんだ。空気が急速に温んでいく、汗が背中に張り付いて気持ちが悪い。早いところ朝食を食べてシャワーで汗を流そう。


「お兄ちゃん? どうかしましたか?」


「そうだな……腹が減った」


「お兄ちゃんは食欲に忠実ですねえ……はは……」


「なんだお前、それはアレか? 俺を遠回しにデブだと言いたいのか?」


「違いますよ! 本能に忠実なくせに性欲に勝ってる辺りが気に食わないだけです!」


「は!?」


 無茶苦茶な理論に返す言葉もなかった。コイツの暴論はいつものことだが謎の迫力があるせいで説得力のある正論のように聞こえてしまうので恐ろしい。


「お兄ちゃんが私の魅力に気づかないんですからお兄ちゃん以外の誰が悪いって言うんですか? 普通に妹に性欲を抱いてもおかしくないシチュでしょ!」


「いやー……ないわー」


「ちょっとマジっぽい返事はやめてくれませんかね……私が結構やべーやつみたいな感じになるじゃないですか!」


「違うの?」


「お兄ちゃんは私をなんだと想ってるんですか!?」


「ちょっとサイコパスの入った妹」


「泣きますよ!?」


 とまあ、くだらない茶番はこの辺にしておこう。問題はこのクソ暑いのに冷房がろくに効かない状態にされたと言うことだ。無論さっさと自室に戻れば冷房をガン積みして秋から冬にかけての気温にすることも出来る。うーん……


 俺は考えるのをやめて朝食のピザトーストをかじり始めた。深く考えてもしょうがない、睡がどんな考えを持っているにせよ俺はとにかく冷房にありつきたかった、それも肌を刺すような強烈なやつが必要だった。


「お兄ちゃん、パジャマから着替えたらどうですか?」


「この後シャワー浴びて冷房を付けるからムリ」


「お兄ちゃん、人間が定温動物だとしてもお兄ちゃんはやけに熱効率がいい体ですね?」


「人間環境に合わせて変わるもんだよ、それでたまたま当たりを引いたやつが進化の土台になってるだけだ。たまたま俺はカロリーの効率がいい体に生まれたんだろうさ」


 栄養を蓄えるよりその場で消費する体、なんとも刹那的な行き方をしている俺にぴったりではないかと思えてしまう。未来の食糧難より現在の体力の方に生まれる前にステ振りをしたんじゃないだろうか、そんなくだらないことまで考えてしまう。


 朝食の乗っていたプレートが空になったのでシンクに持って行ってさっと洗い流してシャワーへと向かおうとしたところで睡に声をかけられた。


「お兄ちゃん、その……一緒に浴びます? シャワー?」


「やめとく、と言うか冗談ぽく聞こえないからやめろ」


「ハハハ冗談に決まってるじゃないですか!? イッツジョークですよ!」


 そんなやりとりをしてから俺はシャワーを浴びた。寝ている間にかいた汗をバシャリと洗い流してさっさと部屋に戻る。戻るのだが……


「あれ? お兄ちゃんどうしたんですか? てっきり部屋でエアコンフル回転させるのかと思ったんですが?」


 まったく……俺としたことが……シンプルに一つのことをすっかり見落としていた。


「エアコンが稼働してからしばらくは冷えないだろう?」


 そう、エアコンをオフにして朝食を食べに向かったので部屋の中は太陽光で蒸し風呂のごとく暑くなっていた、さすがのエアコンさんも冷却までにしばらくかかるだろう。


「お兄ちゃんは結局私のところに戻ってくれるんですね。フフ……」


「あ゛ー……睡、なんか言った?」


「いいえ、気にしないでください」


 そう言う睡はとてもこの真夏の太陽よりも輝度が高いであろう笑顔をしていたのだった。


 ――妹の部屋


「あああああああ!!!! ヤバかったです!!!!」


 危ないところでした、危うくお兄ちゃんと一線を越えたいなどと本心をぶちまけてしまうところでした! お兄ちゃんが本気にしなかったので結果的にはセーフですが事はもっと慎重に運ばなければなりませんね……


 私はエアコンの設定温度を二度下げて、お兄ちゃんの部屋と同じ気温で眠りについたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑面白かったと思った方は上の☆から評価を入れていただけると大変励みになります
 強制ではありませんしつまらないと思ったら☆1を入れていただいても構いません
 この小説で思うところがあった方は評価していただけると作者が喜びます
 現在のところ更新頻度も高いのでそれを維持するモチベとしてブックマークには日々感謝しております!
 更新を追いたい方はブックマークしていただけるととても嬉しいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ