表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/179

妹とループ

 あれ? ネットが切れた?


 俺は唐突に回線が切断されたことを怪訝に思いながらPCをテザリングでネットに繋ぐ、こちらは繋がったのでおそらく固定回線のプロバイダ辺りが怪しいな。


 そうは言っても妹の部屋にルータがある以上直結しての疎通確認など出来ないし、ひとまずテザリングでしのいでいればその内復旧するだろう。そう考えて呑気にSNSを見ているとドアの外から声がかかった。


 そうしてしばらくネットを5G回線で繋いでいるとドアの外から声がかかった。


「お兄ちゃん! たずけれくださあああいいいい!!!!」


 どうやら今日も睡は苦労しているようだった。


 部屋のドアを開けると睡が飛び込んできて俺にまくしたてた。


「お兄ちゃん! ネットに繋がらないです!」


 そんなことを言われてもなあ……


「そもそもルータもファイバー引き込んでるのもお前の部屋じゃん? 俺にどうしろと?」


 自分の部屋に回線を引きたいところだが睡が「回線は自分が握っておきたい」と言うので睡の部屋にひかれることになった。だったら自分で面倒を見ろよと言いたいところだが、妹に泣きつかれると弱い俺は睡の部屋に調査に向かうのだった。


 あまり妹の部屋を観察するのもどうかと思うのだが、睡の部屋はスマホが何代もおいてあった、多くはAndroidで、僅かに旧式のiPhoneが置いてある。一体何に使うのだろうと疑問に思ったがそれについて聞くと長くなりそうなので見なかったことにした。


「で、睡、何をやったら繋がらなくなったんだ?」


「何もしてないですよ?」


 ああ、もうすでに俺はこれから面倒なことになることを確信していた。「何もしていない」ほど信用出来ない言葉はないだろう。基本的に何かしているから環境が壊れるんだ、何もしていなければ壊れることはない、いやまあ自然故障とかはあるが今の時代に自然故障の確率を考えると人為的なものの方が圧倒的に多い、そんなものだ。


「分かったよ……とりあえずping送ってみる」


 俺は持ってきていたラップトップを開いて自宅のWi-Fiに接続する。cmdを開いてping google.co.jpを打ち込んでpingが返ってくるかどうか確認する、当然だがタイムアウトを起こして返ってくることはなかった。


「繋がらないのは確かみたいだな……」


「そうなんですよ! SIM刺してないスマホが繋がらなくて困ってるんです!」


 景気のいいお話で、と言いたいところを我慢して原因究明に向かう。ルータからは大量のケーブルが生えていた。


「睡、こんなにケーブル増やしてどうするんだ?」


「ああ、それですか? アクセスポイント増やして家のどこからでも繋がるように増やしたので多いんですよ」


 家のWi-Fiがどこでも繋がることを疑問に思っていたらどうやらそこには睡の大変な努力が存在していたようだ。そんな涙ぐましい努力だが、俺はスマホはモバイル通信ができる者しか持っていないのでその恩恵にはあまりあずかれないので気にしたこともなかったのだった。


「さて、この数は面倒だな……」


 大元のRTX1220から9本のイーサネットケーブルが生えている、一本はインターネットに向けて繋いでいるからいいとして残りの一本一本を確認していく必要があるな……


「とりあえずWAN(インターネット)向けの回線以外全部抜いて有線一本で直結してみるかな……」


 このやり方はなんとも面倒なのだが他に妥当な方法が思いつかない、幸いなことに自宅に回線が落ちることが許されないマシンを置いたりはしていないので問題無いだろう。


 プチプチ……


 全部のケーブルを引っこ抜いてLANポートにラップトップのコネクタからケーブルで直結する。意外なことにそうしてみるとあっさりとGoogleのトップページが表示された。


「あれ? お兄ちゃん、もう直ったんですか?」


「いや、初期状態に戻しただけだからここから切り分けていく」


 よかった……もしこれで繋がらなかったらシリアルケーブルの出番になるところだった。さすがにコンソールでの操作はほとんど分からない、ここが壊れていたらお手上げになるところだった。


 まず一本目のルータへのケーブルを挿す。スマホが反応してWi-Fiに繋がった。


「なあ……とりあえずこれでこの部屋は繋がるしこれで切り上げても……」


「は? ダメに決まってるでしょう? お兄ちゃんしか頼れる人が居ないんですよ? 見捨てないでくださいよぅ……」


 コイツがネット廃人なのは自由だが別にこの部屋で繋がりゃあいいではないかと思うのだがそう言ったところで泣きつかれると弱いのが兄の俺だ、仕方なく二本目のケーブルを挿す。


「睡、繋がるか?」


「どっちのアクセスポイントにもちゃんと繋がりますね」


「なあ睡……アクセスポイントだけなのか? ルータを繋いだりしてないか?」


「へ? いやいや……そんなことは……ああ、一台済みの方まで電波が届くように安いルータをAPモードで稼働させてますね」


「そのケーブルはどれだ?」


「ええっと……これですね」


 睡が青色のケーブルを取り上げる、ふむ、それを繋いでみるか。


 カチリとルータに挿すと睡に疎通確認を頼む。


「繋がりますね、これが原因じゃないんでしょうか?」


「さてな……残りは全部純粋なアクセスポイントか?」


「そうですね、CiscoとYAMAHAのやつでカバーしてますからね、さっきからMerakiGoが落ちたとメインのスマホに死活監視の報告が届いてるんですが……」


「とりあえずそれを止めるか……CiscoのAPに繋がってるのはどれだ?」


「この辺ですね」


 カチカチカチカチ


 四本のケーブルをルータに差し込む。ルータの導通確認のLEDが緑色に光りだした。


「問題はあるか?」


「ちょっと待ってくださいね……アプリで確認したところ全部繋がってますね」


 ふむ……ではCiscoの方が問題では無いと言うことか。


「睡、残りのAPは?」


「この二本がYAMAHAのAPに繋がってます」


 カチカチ


 二本のケーブルを挿して確認をする。


「睡、Googleは見られるか?」


 睡は少しスマホを操作してから答えた。


「はい、ちゃんと繋がってますね」


「これでAPは全部か?」


「はい? そうですよ?」


 そうなると一つおかしいことがある。


「睡、このケーブルは何処に刺さっていたんだ?」


 俺は元々刺さっていた八本のケーブルのうち余った一本を持ち上げて聞く。


「ええっと……ああ、APモードで動かしているルータに繋いでました!」


「それが原因か……」


「え? 何かマズいんですか?」


「ルータとルータを二本のケーブルで直結するとループ接続になるんだよ……全体に投げたフレームがループを起こして無限に増殖する、だから繋がらなくなってたんだろう」


「じゃあこの一本は……?」


「必要なかったって事だな」


 自宅のネット環境がここまでカオスになっていたことに驚きつつ、よく管理出来たなと妹を尊敬に近い感覚で見て居ていた。


「よし……これでお兄ちゃんの……監視ネットが復旧……」


「何か言ったか?」


「なんでもないでーす!」


 とまあそんな騒動を起こしながらも自宅ネットの平和は戻ってきた。


 俺はその日の夜、自宅のルータとAPに掛かったであろう金額を想像して震えて眠るのだった。


 ――妹の部屋


「恥ずかしーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


 なんて初歩的なミスをしたんでしょう! 私としたことが……しくじったにもほどがあります! こんな事が許されていいのでしょうか?


 私はお兄ちゃんの部屋の隣に集音マイク付で置いてあるスマホが無事ネットワークに復旧したことを確認しました。これでお兄ちゃんの生活を無事観察出来ますね。


 私はお兄ちゃんの部屋の生活音を聞きながら眠りにつきました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑面白かったと思った方は上の☆から評価を入れていただけると大変励みになります
 強制ではありませんしつまらないと思ったら☆1を入れていただいても構いません
 この小説で思うところがあった方は評価していただけると作者が喜びます
 現在のところ更新頻度も高いのでそれを維持するモチベとしてブックマークには日々感謝しております!
 更新を追いたい方はブックマークしていただけるととても嬉しいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ