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スマホが届いた

 ピンポーン


 遅めの朝食を食べている頃、玄関のチャイムが鳴った。


 はて? 今日は誰か来る予定があっただろうか? 宗教や訪問販売だったら面倒だなあ……


「あ、届きましたね」


 そう言って睡が玄関に向かった、何か買い物でもしていたのだろうか? パタタと玄関に駆けていく妹の背中を見送りながら考えた。少し経ってから、睡が小さめの段ボール箱を持って帰ってきた。


「買い物か?」


 そう聞くと睡は楽しげに答えた。


「ええ、スマホを買いまして……」


 珍しいな、最新のiPhoneを使ってる睡が買う理由が思い当たらない。


「Androidに鞍替えするのか?」


 睡はニコニコしながら答える。


「ちょっとROMを焼きたくなりまして……」


「文鎮になるぞ?」


 ROM焼き、要するにデフォルトで入っているAndroidのカスタム版をインストールする、もちろん無保証だ、そんなことのためにスマホをわざわざ買ったのか……


「何を買ったんだ?」


「Pixelです!」


「何焼くんだ? Magisk? CyanogenModはお亡くなりになったって噂を聞いたぞ?」


「CMはいい子でした、Googleに逆らったのはマズかったですね……」


 遠い目をして言う睡だった。


「そもそもわざわざカスタムROM焼かなくてもPCのエミュに入れればいいのでは?」


「はぁ……お兄ちゃんは夢が無いですね、実機で動くからいいんでしょうに」


 世の中にはわざわざ買ったスマホを改造したいらしい人間がいる。別に構わないとは思うが現在rootやカスタムROMでなければ出来ない事ってもう少ないんだよな、大体のことがデフォルトの機能に入ったし……


「とりあえずCM後継のLineageOSを焼こうかと思ってます」


「ほーん」


 俺が興味も無さそうに言ったところどうやらリアクションが不満らしく不平を垂れてきた。


「お兄ちゃん、もうちょっと興味持ってくれませんか?」


「だって俺iPhone使ってるし」


 自分の使わないものに興味は無い、普通のことだと思うのだが……


「じゃあお兄ちゃんは私の勇気を見ていてくださいね!」


「ROM焼きは蛮勇だと思うがなあ……」


 勇敢と無謀は違うと誰かが言っていたが言っていたのが誰だったかは思い出せない。とにかく改造は文鎮化をはらんだ危険な行為ではある。ちなみに俺がiPhoneを使うようになったのは文鎮化を経験したからだ、リカバリ領域まで焼いてからファームが違った時の絶望感は酷いものだった、つまり経験者は語ると言うことである。


 もっとも、睡は完全に玩具としてPixelを買ったようなので最悪ただの板になっても後悔しないのだろうから自由にしてもいいと思う、ただしそれなりに無駄遣いであることに目を瞑ればだが……


「ふっ……お兄ちゃんには私のロマンが分からないと見えますね」


「ドヤ顔も結構だが焼きミスして泣くなよ?」


「時には失敗と向き合うのも人生というものです!」


 いいこと言った風な顔をしているが、最新版ではないのだろうPixelは結構いいお値段のするスマホだ、気軽に買えるものではないような気がするのだが、その資金源について問うたところでまともな回答が返ってくるとも思えなかった。


「まあ私の手際を見ていてくださいな!」


 そう言って部屋に戻った睡、俺はコーヒーを飲みながら睡の無事を祈っておいたのだが……部屋に帰って早々俺のいるキッチンに戻ってきた。


「お兄ちゃん……ブートローダーのアンロックが設定に無いのですが……」


「それに気がつかないならカスタムROMは手を出さないことを勧めるぞ?」


 俺がそう言うと睡が泣きついてきた。


「だって! これに結構へそくり突っ込んだんですよ!? お兄ちゃんやり方知ってるんでしょう? 教えてくださいよ!」


 はぁ……世話の焼けることで……


「貸してみ?」


「え? はい」


 俺は睡からスマホを受け取ると設定画面のAndroidの情報を連打して開発者オプションを出した。


「後はググって、情報はたくさんあるから」


「お兄ちゃん、知ってるんならもっと教えてくださいよ!?」


「嫌だね、俺は文鎮化のリスクを自分以外のスマホで冒そうなんて思わないんでな」


 俺の部屋には未だに戒めとして2万円の「高級文鎮」が置いてある。リスキーな行動をする時に画面が真っ暗になって何も反応しないそれを見ればストップがかかる。俺にとってのセーフティみたいな役割になっている。


「じゃあお兄ちゃん! 今度こそROMを焼いてきますね!」


 そう言って部屋に戻った睡だったが、やはり今度はadbってどうやって使うのと質問に戻ってきたのでググって、とシンプルに一言返しておいた。さすがにAndroidのROMを焼くのにadb知らないのはアウトだろう。一回ミスしたらどうしようも無くなるし、そもそもOEMアンロックが出来ない、本人にやる気があるなら一通りググって調べるだろう、極端な話ほぼコピペでもいいのでそこはやる気の問題だ。


 そうしてしばらく経って日が沈みかけた夕方になった頃、睡がドタドタとキッチンで紅茶を飲んでいる俺のもとに駆け寄ってきた。


「フフフ……どうです! これがMagiskです!」


 睡の差し出したPixelには昔見覚えのあるアイコンが初期設定に一つ追加されていた。root権限を制御するアプリだ。rootが見えると動作しないアプリも多いので必要ないアプリからはroot化していることを隠すことが出来る。


「無難なとこを入れたな……」


 成功したようで何より、しかし得体の知れないROMを持ってくるかと思ったら公式を少し弄っただけのROMを入れたのか、以外と無難なところを選んだな。


「成功したようで何よりだが……それを何に使うんだ? メインのスマホにするのか?」


 睡の顔がピシリと固まった、まさかコイツそこまで考えてなかったとか?


「そ、そうだな! とりあえずrootの必要なアプリでもインストールすればいいんじゃないか?」


 俺がそう取り繕うと睡は頷いてから言った。


「そうですね! 何か使い道の一つくらいありますよね?」


 実際あるかどうかは別問題として同意しておこう。


「まあ……使ってれば何か思いつくんじゃないかな?」


 そう言ってその場を終わらせたのだった。なお、睡がその日からPixelを使っているのを見ることはなかった。たまには無駄遣いだってするだろう、特撮界隈でも「それ何に使うの?」と聞かないで上げて欲しいとえらい人が言っていたので俺もその件については黙っておくことにしたのだった。


 ――妹の部屋


「ふっふっふ……お兄ちゃんは気がついていません!」


 そう、このスマホで追跡もとうさ……もとい撮影が出来ることにも気がついていないのです! 無音カメラももちろん入れました! GPSの追跡機能ももちろん大丈夫! つまりこれをお兄ちゃんの荷物に仕込めば合法的にお兄ちゃんのことを知ることが出来るわけですね! 私としたことが……なんて策士なんでしょう! 自分の才能が怖いです!


 その日、私は良い気分で眠りましたが、翌日検索で古いiPhoneを使えば似たようなことが出来ると書いてあって悶絶したのですがそれはまた別のお話。

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