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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年夏休み編

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妹と夜更かし

 俺は今日、負けられない戦いをしている。それは世界の命運を賭けるような熱い戦いでもなければ、誰かの命が懸かっているわけでもない、あくまでも俺のプライドを賭けた戦いだ。


「ひゃっっっほおおおおおおおいいいいいい!!! お兄ちゃんの負けー!!!」


「もう一回! もう一回だけ!」


 俺たちが戦っているのは、ゲーム『シスターズデスマッチ』通称『シスデス』である。対戦相手はもちろん妹だ。


「お兄ちゃん……泣きの一回を何回やれば気が済むんですか……」


 睡も呆れ顔でそう言ってくる、何しろゲームには自信のあった俺が一度も勝てていない、ついつい熱くなってしまいこうして「もう一回だけ!」を繰り返している。そう、一回だけを何回やれば気が済むんだと言いたいのはよく分かる。だが今日初めてプレイしたゲームで妹にボコボコに負けた気分が分かるだろうか? プライドを否定された気分だ。


 始まりは妹にゲーム機をプレゼントしたことからだった。シスデスをソフトとしてプレゼントしたのだが、睡は早速開封して「勝負しましょう!」と言ってきた、実力の差を教えてやろうと勝負を受けたのだがさっぱり睡に勝つことが出来なかった。


「嘘だろ……俺はレート戦でもかなりいい線行ってるんだぞ……?」


「それはそれは、あまり対戦相手に恵まれなかったみたいですね?」


 睡の挑発に俺は返す言葉も無かった。歯がたたない、圧倒的な実力差がそこには確かに存在していた。


「お兄ちゃん、もう十一時ですよ? さすがにそろそろ対戦は終わりにした方が良いのでは……」


 ぐぬぬ……コイツは強い、確かに強い、だからといって兄が負けて良いのだろうか? 妹に負ける兄という情けないザマでいいのだろうか?


「明日……」


「え?」


「明日の九時にもう一回勝負だ!」


 深夜までゲームやっていて夜更かしは妹の健康によくない、ということで明日のリベンジを睡に申し込む。


 睡はクスクスと笑ってから言った。


「お兄ちゃんが熱くなるとか珍しいですね、いいでしょう! 明日また勝負を受けて上げます!」


 こうして俺は部屋にゲーム機を持ち帰り明日の勝負に備えて練習をすることになった。睡はさっさと眠ってもらった。


 俺はゲーム機をネットに繋いでネットマッチに潜る、今までは自分に合ったランクで戦っていたがそれじゃあ間に合わない、睡に勝つにはもっと高ランクでの戦いに勝たなければならない。そうして俺は一ランク上のチャレンジ出来る限界のレーティングに飛び込んだ。


 回避、投げ、攻撃、どの要素が一番戦力になっているのかは分からないが睡が強いことだけは確かだった。まるでこちらの行動を先読みするかのような攻撃法を使ってきて、確実なガードや回避を行う睡に手も足も出来なかった。それを克服するために自分より強い相手との戦いから学ばなければならない。


 ――ジジジ


 カーテンの隙間から光が差し込んで夜が明けたことに気がついた、現在勝率は四割、睡に全敗していたことから考えると全然足りなかった。


 俺はキッチンに降りてコーヒーを淹れる、カフェインの錠剤は取り上げられたので現状カフェインを摂取する方法がコーヒーかエナドリしかなかった。


 コポコポとコーヒーがしたたる音がしながら抽出されていく、香ばしい香りの黒い液体を眺めながらうとうとしていると睡がやってきた。


「お兄ちゃん、おはようございます! 酷い顔ですね……まさか徹夜したんですか?」


「まあな……初心者勢にボロ負けしてたら格好がつかないだろ?」


 睡は呆れたように肩をすくめた。


「お兄ちゃん、私はお兄ちゃんのそう言うところ、嫌いじゃないですよ? でもね……」


「なんだよ?」


「自分の身体は大切にしてください!」


 睡にそう強く言われ、俺がマグカップに注いでいたコーヒーを取り上げられ、一息に飲み干されてしまった。


「お兄ちゃんは寝てくださいね?」


 睡が据わった目でそう言って俺を部屋に追い返すのに反対するだけの体力は無いのだった。


 俺は部屋に入るなりベッドに飛び込んで深い眠りの海に入っていった。


 その半分眠りについている意識の中で、俺は昔、確かにゲームを楽しんでいた事を思い出していた。いつからだろう? ゲームで勝敗にこだわりだしたのは……昔は確かに対戦すること自体が楽しかったはずなのに……


 目が覚めると窓の外は夕焼けで赤い光が差し込んでいた。こんな時間まで寝ていたか……シスデスは……プレイしていない、勝てるだろうか? 相手は圧倒的な強さの初心者、俺はロートルの弱者、端から見れば俺が勝ちそうなものだが……勝負の世界というのは時に残酷なのだ。


 俺はキッチンに行き今度こそコーヒーを淹れる、睡は微笑みを湛えて椅子に座っていた。


「お兄ちゃん、覚悟の準備はオーケーですか?」


「次は勝つさ……」


「お兄ちゃんと一緒に遊べるのはいいですね……」


「何か言ったか?」


「気のせいでしょう、じゃあ九時からの勝負、楽しみにしてますね?」


 そう言って俺に夕食を差し出した、そういえば朝食もまだだったことに気がついて、目の前にある多めのパスタを食べながら腹を満たしていった。


 胃に内容物を詰め終わった時、睡はお風呂に向かっていた。さて、練習をあと1時間ほどやるかな……


 部屋に戻ってマッチに入っていると睡が「お兄ちゃん、練習なら付き合いますよ!」と声をかけてきたので俺も睡の部屋へ行き練習をすることになった。


「お兄ちゃん、なんでそんなに勝ちたいんですか?」


「そりゃ妹に負けたとか情けないじゃん?」


「お兄ちゃんは意地を張るのが好きですね……じゃあこうしましょう! 一時間勝負を続けてお兄ちゃんが一生でも取ったら勝ちってことで、ただし……」


「ただし?」


「お兄ちゃんが負けたら私の言うことを一つ聞いてくださいね?」


「わかった、勝負だぞ?」


 睡は意地悪く笑いながら俺を眺める。


 そうして九時までキャラの使い方を教えてもらいながら睡の行動パターンを観察していった。そこでふと、あることに気がついた……


 そうして九時の勝負開始時間がやってきた。


「じゃあお兄ちゃん! 勝負です!」


「よっしゃ! 勝負だ!」


 こうして俺と妹の負けられない戦いは始まった、睡は俺の行動を完璧に呼んで行動してくる、初戦はやはり睡の圧倒的勝利だった。


 そうして完敗を喫した後、俺は確信を持って宣言した。


「次の勝負だが、俺は自分の部屋でプレイする!」


「へぇ!?!?」


 睡が混乱したのを見るのは愉快だった。


「なんで帰っちゃうんですか? 勝負するんでしょう?」


「このゲームはWi-Fiで対戦してるだろう、俺の部屋からでも電波は届くからな」


「そ、そうですけど……」


 こうして俺は自分の部屋に戻り、再び勝負を開始した。


 ダンダン


 睡の部屋から壁ドンが聞こえてくる、理由は言うまでもなく俺が勝利したからだ。


 そう、睡はほとんどゲーム画面など見ていなかった、俺の手元を見て行動を呼んでいたのだ、それに気がついてからはシンプルな対策をこうして行うことになった。


 俺の手元を見ることが出来なくなった睡は初心者としか言いようのないプレイスタイルに激変し、キャラクターをボッコボコにされて負けたのだった。


 睡の部屋に戻ってみると睡がベッドにうずくまって「うーうー」言っていた。よほど負けたのが悔しかったらしい。


「お兄ちゃん、ズルいです……分かってたんですね」


「ああ、やっと気がついたってところだがな。さあ負けを認めるか?」


「はぁ……分かりました、負けです負け、負けまーした。ちぇ……」


 悔しそうな睡に俺は一言声をかけて部屋に戻った。


「睡、また勝負しような?」


 去り際に睡は笑顔で答えた。


「はいっ!」


 ――妹の部屋


「お兄ちゃんの手元、隠さないなんて甘いと思ったんですがねえ……」


 私は長年妹をやっているだけあってお兄ちゃんの行動は予想がつく、そうは言っても見えている範囲で推測が出来る程度です。お兄ちゃんに負けたのは残念ですがいずれまたリベンジをしましょう。今日は必要な敗北だったのです。


 私はそう自分に言い聞かせて眠りにつきました。

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