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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年夏休み編

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線香花火

「お兄ちゃん! 掃除をしていたらこんなものが見つかりました!」


 そう言って睡が差し出すのは……


「花火セット?」


 睡は満足げに頷く、ちなみに今年は花火を買ったりしていない、むしろここ数年買っていないのでかなり古いものだろう。数年前の花火にまともに火がつくのだろうか? とはいえ、燃えるゴミに出すのも事故が怖いので使い切ってからの方がいいのかもしれないな。


「お兄ちゃん! 今日の夜は花火をしましょう!」


「分かった、準備しておくよ」


「よろしく!」


 俺も花火など何年ぶりにするだろうかと考える。昔打ち上げ花火にビビって俺に抱きついてきていた睡のことを思い出してほっこりした気分になる。アイツも強気になったものだな……可愛い時期だってちゃんとあったんだ。いつの間にかその気持ちが暴走を始めたのだろう。どうしてこうなった!?


 そんなことを考えていてもしょうがないのでライターを探してみる。そこでこの家にタバコを吸う人が誰もいないことを思いだし、どうやって調達したものかと考える。


 結局考えてもライターは出てこないので百均に線香の着火用のライターを買ってきた。熱波に襲われ帰宅後シャワーを浴びることになったのはいうまでもない。


 帰宅後、睡にライターを買ってきたというと満足しているようだった。オール電化はコンロでろうそくに火をつけられないのだ、コンロでろうそくに火をつけるという発想がそもそも間違ってもいるのだが……


「お兄ちゃん! 晩ご飯を食べたら花火しましょうね?」


「ああ、そうだな」


 ピンポーン


 そこにドアチャイムが響いた。俺が玄関に向かおうとすると睡が腕を引っ張った。


 ピンポーン


「睡、離してくれないと郵便が受け取れないんだが……」


「多分郵便じゃ無くて悪質な宗教勧誘か何かでしょう、放っておきましょう」


 ピンポーン


 鳴り止まないので俺も気になり睡の手を離して玄関に向かった。


「はいはいどちら様ですか?」


「あ、誠、あなたたちは来客をこの暑い中待たせるのにためらいは無いの?」


「ああ、重か」


 睡が何故か不愉快な表情をしている。


「こんにちは、重さん」


「久しぶりね、睡ちゃん、ねえ、睡ちゃん私に冷たくない?」


 重の文句も何処吹く風で睡は飄々と答える。


「いいじゃないですか、これだけ暑いんですから多少の冷たさは有り難いでしょう?」


「こういう冷たさは求めてないんだけど……」


 重も言っても無駄だろう事は分かった上でいつもの不平をこぼす、いつものことなので俺もそれについて言及はしなかった。


「ところで重、今日花火をやるんだけど一緒にやるか? ってやらないよな……高校生にもなって花火って……」


「お兄ちゃん!?」


「やるわよ! そう言う派手なイベントは好みだから」


「え!? やるのか、じゃあ夕食後に集合な?」


「オッケー、うちの親にもここに来るなら反対はされないでしょ」


「ああぁぁああ!?!?」


 睡は何故かその一連のやりとりの間混乱をしているようだった。


「じゃ、七時でいいか?」


「わかったわ、スケジューラに入れとく」


 そう言って重と別れると睡がものすごい勢いで俺に文句を言ってきた。


「お兄ちゃん! 私とお兄ちゃん『だけの』イベントに重さんを呼ぶとか何考えてるんですか! せっかくの花火イベントなんですよ!?」


「言っても手持ち花火二十本くらいに噴き出し花火が数個だろ? 二人でやるには少し多いしあんまり人数増やすと足りないし、重と三人で丁度いい分量じゃないか?」


「そういうことを言ってるんじゃねえんですよねえ……はぁ……お兄ちゃんがそうすることが分かったから私は止めたんですよ?」


 睡の言っていることはよく分からないが、とにかく俺に対して不満を溜めているのだけははっきり分かった。しかし重ともう少し仲良く出来ないものだろうか……


「睡、もうちょっと重と仲良くしないか?」


「ああ、私と重さんは仲が良いですよ?」


 仲は良いのだろう。いいのだろうが時々こういうことになるから俺の気苦労が絶えないのだ。いつもニコニコとはいかないまでも、言葉に棘を出さないことくらいはやって欲しいものだ。


「それはお兄ちゃんがいる限り無理な話ですよ」


 睡はそうにべもなく断言した。


 冷房の効いた部屋に戻り、夕食の準備を進める睡に俺は何かしただろうか? ととめどない考えが浮かんできた。結局のところ答えはさっぱり出てこないのだが、夕食はそれに合わせて止まるということなどなく睡がうどんを作って持ってきた。


「うどんか」


「そうです! 暑いですからね、ザルうどんも悪くないでしょう?」


「そうだな」


 ちゅるちゅるとうどんをすすりながら睡を眺める。重がいない時は穏やかな顔をして俺に柔らかな笑みを向けてくる。この顔が睡の本音なのかは判断しかねるところだ。


 うどんを全部食べ終わった後で二人で後片付けをする。


「睡、花火の準備はいいか?」


「完璧ですよ! 私の準備に不具合は存在しないのです」


 そうして七時になったので表に出た。多少昼間に比べて涼しくなっているし、ある程度は我慢が出来る程度の気温だった。


「じゃあ準備をしてっと……」


 睡はろうそくを立たせて火をつけようとしている。俺はそれを止めた。


「重がまだ来てないだろう」


「ちっ」


「口が悪いぞ、そろそろ来るだろ」


 そんな会話をしていると小走りに浴衣姿の重がやってきた。


「わざわざ浴衣を用意したのか……」


「似合ってるでしょう?」


「ああ……多分」


「何よ、張り合いが無いわねえ……」


 なお、現在背中に睡のライターを握った手が押しつけられている。


「へぇ……ちゃんとバケツと水も用意してるのね」


「そりゃそうだ、花火で火事とか笑えないからな」


 そうして三人での小規模な花火大会は始まった。


 睡が色の変わる花火を振り回して危ないぞと注意したり、重が噴き出し花火にビビりながらも火をつけに行ったりと大騒ぎをしてから最後の線香花火となった。


「なんで二本しか無いんだろうな……」


「昔使ってた中古ですからねえ……」


「じゃあお兄ちゃん、私と一緒に線香花火をやりましょうか!」


「私も……」


 その言葉を聞いて俺は少し考える、睡と花火、重と花火、どうやっても揉めそうだな……と言うことで俺は考えた。


 結果……


「なんで重さんと花火をしなきゃらならないんですか……」


「私だって……」


「まあどうです、お兄ちゃんから手を低きにはなりましたか?」


「うーん、そこは譲れないかな」


「あなたとはいずれ決着をつける必要がありそうですね」


「睡ちゃんも兄離れしなよ……」


 ゴチャゴチャ言っているが話は弾んでいるようで何よりだ。そして最後にポトリと線香花火は落ちた。


「夏の終わりって感じね」


 重がそう言うが……


「まだ始まったばっかりだろうが……」


「そうなんだけどね……」


「私とお兄ちゃんの夏休みはまだ始まったばかりです!」


 とまあ何とか平和的に花火大会は終わり重は帰っていった。


「お兄ちゃん、楽しかったですか?」


「ああ、楽しかったぞ?」


 睡は少し考えてから言った。


「ならいいでしょう、重さんが入ってきたのは予想外でしたが悪くない話です」


 睡はフフフと微笑みながら家の中に入っていった。俺は珍しく空に星が見えることに気がついてそれを写真に収めておいた。


 ――妹の部屋


「お兄ちゃんと花火のつもりだったのに……」


 この前『こっそり買っておいた』花火セットが役割を完全に果たせなかったことを私は後悔しています。


 お兄ちゃんと二人きりだからと線香花火を二本まで抜いておいたのは失策でした、まさか重さんと線香花火をすることになるとは思っていませんでした。


 花火の最後はお兄ちゃんとしっぽり二本だけの線香花火をと思っていたのにそれが裏目に出てしまいました……


 それでも……私とお兄ちゃんがこの星空の下で一緒に花火をしたことを満足に思うべきなのでしょう。今度は失敗しないようにすればいいだけです!


 私は次の策を考えながら眠りにつきました。

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