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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年夏休み編

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夏の鍋

「お兄ちゃん! 今日は贅沢をしますよ?」


 睡が唐突にそんなことを言い出した、コイツが贅沢と明言するからにはそれなりの金がかかるのだろう。なんだかんだでそれなりに生活にお金がかかっていることは知っているが明言することは珍しいな。


「で、何をするんだ?」


 睡は「フッフーン」と言って鼻を鳴らす、どうやらよほど自信があるらしい。一体何をするのだろう? 寿司の出前でも取るのか、あるいはゲーセンで確率機※で景品を取るまでプレイするとか?


 ※確率機:要するに一定金額を使うまで絶対に取れないプライズ機、有名なのではルーレットでバスケットが上下するアレや、持ち上げると力尽きて落とすクレーンゲーム。


 睡は胸をはって宣言する。


「今日は鍋を囲もうと思います!」


「鍋?」


 思ったより庶民的な行動だった……問題はそこではないのだが……


「なあ」


 睡に疑問点を告げよう。


「何です?」


「この暑いのに鍋をするのか?」


 そう、現在室外の気温32度、この暑さで鍋なんて食べたら熱中症になりそうだ。外では蝉がミンミン鳴きながら猫も日陰に隠れて暑さを避けている。気温だけで肉のタンパク質が変質するんじゃないだろうかというくらいの暑さの中で鍋をするという。


「ふっふっふ……こうするのです!」


 睡は机の上のリモコンを取ってピッピッピッピ……とボタンを連打する、急に冷房が強くなりエアコンが悲鳴にも聞こえるほどの音を立てながら冷房を出していく。


 ポンとリモコンが机の上に置かれたので設定温度を確認してみる……「18度」だった。


「環境に悪そうな使い方だな……」


 睡はドヤ顔で言う。


「ソレが『贅沢』というものですよ!」


 ババーンと宣言する、環境活動家が見たらキレそうな設定温度だがまあそんな過激派はクラスメイトにも心当たりがないので問題無いだろう。


「睡、真似する人が出たらよくないからこっそりやろうな?」


「お兄ちゃんとの秘密ですね!」


 食い気味に答える睡だがそういうことじゃないんだよなあ……


「もちろん重さんは呼びませんよね!? 真似されるとよくないですから!」


 そう宣言する妹に重を呼ぼうと思って手に持っていたスマホを身体の後ろに回してスリープさせた。


「じゃあ夕食が鍋なんだな? 材料買いに出るか?」


「こんなこともあろうかと!」


「?」


 睡は少し恥ずかしそうに首を引っ込めて言う。


「言ってみたかっただけです……とにかく! ちゃんと材料は用意してあります!」


 用意がいいな、というか計画がしっかりしすぎだろう……まあそこら辺は深入りしないに限る、美味しいものを美味しいと味わえるならそれ以上のものを求めることもないだろう。


「じゃあ今日の夕食は鍋か!」


「そうです! 寄せ鍋にしようかと思ってます!」


 なんだか冷房が効いてきて肌寒くなってきたので温かいものが食べたくなってきた、そこまで計算済みであの設定温度にしたんだろうか?


「美味しそうだな、楽しみにしてるよ」


 そう言って部屋に戻ろうかとしたところで睡がつぶやいた。


「部屋には行けませんよ?」


「へ!?」


 俺がキッチンから出ようとするとむわっと熱気が俺に襲いかかってきた、暑い、あまりにも暑い。


「もうちょっとここに居ようかな……」


「フフフ……自分の部屋をここと同じ温度にしないあたりのお兄ちゃんの小市民さは好きですよ?」


「そうですか」


 このクソ暑い気温の中冷房をかけたのが計画済みとは……確かに俺の部屋と睡の部屋、二部屋をそれなりに冷やすよりキンキンに冷えた一部屋を用意する方が効率も経済的にもいいのかもしれない。


「この部屋涼しい……というか寒いくらいだな」


「そうですよ? 贅沢というのは罪深いものなのです」


 そう言いきる睡は意気揚々と野菜を切っている。俺は涼しさに甘えて冷房の直接あたらないところを探してそこのソファに横たわる。ふぁ……なんだか眠い……


 トントン、フツフツ……何か聞こえるが俺はまどろみに負けて眠ってしまった。


「お兄ちゃん! 起きてください!」


「ん」


「お兄ちゃん、出来ましたよ! 起きないと何でもしちゃいますよ?」


「ふぁ……眠いな……ああ、出来たのか?」


「ええ、真夏の暑い中涼しい部屋で鍋を囲む、この無駄を楽しみましょうよ!」


「そうだな、この贅沢を楽しもうか」


 そうしてカセットコンロの上に乗った鍋を二人で食べることになった。


「あつっ! 美味いな!」


「でしょう!」


 胸を張る睡に対して俺は真夏に食べる鍋がここまで美味しいものだとは思っていなかったので驚いた。


 ポン酢に鶏肉を浸して口に入れるだけでジュワッと肉汁が溢れてくる。口いっぱいに肉の味が広まって非常に満足がいく、次に白菜をポン酢に浸して食べる、さっぱり口の中を洗い流してくれる。


「はふっ……もぐもぐ」


 睡もしっかりと食べているのだが満足感が見ていて分かる感じに昂ぶっている。


「お兄ちゃん、暑い時に暑いものを食べるのはいいですね!」


「そうだな……」


 俺たちは夕食の鍋をすっかり空にして満足げに天井を眺める。


「ふぅ……こういう贅沢っていいな?」


「でしょう? 私のお勧めです!」


 自慢げに言う睡に俺はこの鍋が確かに美味しいので今日は完全に睡の計画に乗ってよかったと思えた。


「お兄ちゃん、たまには時間を楽しく使わないとダメなんですよ?」


「俺だって……」


「お兄ちゃんは出し惜しみが過ぎますよ、もっと使う時はガンガン使わないと人生を楽しめませんよ?」


「ふぅ、そうだな、今日は確かにお前の方が正しいみたいだな」


「ふふふ……お兄ちゃんにしては珍しく素直ですね?」


「俺だってそこまで強情じゃないさ」


 そう言って笑い合った、きっとこれもいい思い出の一つとしていつか思い出せるのだろう。それがきっと悪い思い出ではなくいい思い出になるであろう事を予想して笑みがこぼれた。


「じゃあ睡、俺は片付けちゃうからお風呂先に入っておいてくれ」


「はーい! お兄ちゃんの借りは作らない姿勢は嫌いじゃないですよ?」


 そうして二人で笑い合った後で俺が後片付けをしながら睡がお風呂に向かった、この時俺はまだ気がついていなかった……自分の部屋は十八度でエアコンを動かしていなかったのだ、まあ詰まるところは……


「暑い……」


 俺は寝苦しい夜を過ごすことになるのだった。


 ――妹の部屋


「んー! お兄ちゃんのデレは気持ちがいいですねえ!」


 思い出しても笑いたくなります、お兄ちゃんが私の策に乗っかって私と愉快な一時を過ごしたことは楽しい夏の思い出になります。私とお兄ちゃんの時間を思い出しながら冷房を二十度に設定して私は眠りにつきました。

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