期末テストを終えて
「いやーなんとかなるもんですね!」
そうニコニコしながら言うのは俺の妹の睡だ。コイツは期末テストで赤点を回避出来たので上機嫌で俺と話している。
「睡ちゃん、私の協力忘れてない?」
重も自分の貢献を主張している。とにかく俺たち三人でなんとかこの難局を乗り切ったと言うことだ。赤点のラインギリギリの成績も取っていたが睡の勉強によって無事補習を受けずに済んだのだった。
「重さんにも一応感謝していますよ」
「一応なのね……」
何にせよ無事期末テストを乗り切ったということで俺たちはファストフード店でハンバーガーを食べている、ちなみに睡の奢りだ。チーズバーガーとポテトとシェイクを飲みながら談笑している、睡の成績がもう少し悪ければ笑えない事態になっているところだがそこは頑張りの成果だろう。
「お兄ちゃん! もっと私を褒めてくれても良いんですよ?」
「頑張った頑張った、えらいえらい」
「心がこもってない!」
睡が不満そうに言うが俺は気にせずポテトに手を伸ばす。本人に問題があったんだからそれが解決したのに褒めるようなことでもないだろう、原因は本人にあるのだからな。
睡は気が張っていたのだろう、ここについてからだらけてしまっている。
「睡、夏休み明けのテスト大丈夫なのか? 一応定期じゃないから補習とかはないけど……」
「お兄ちゃん! しっかり教えてくださいね?」
「俺頼みかよ……」
どうやら夏休みにはたっぷりの復習が必要になりそうだった。妹と延々勉強を続ける様が思い浮かんでそこに楽しさの欠片も無いことを考えながら次からはちゃんと授業を受けさせようと固く決意した。妹に勉強を教え込むのは兄の仕事では無いと思うのだが、コイツが留年でもしようものなら大層恨まれそうなので真面目に教えてやろうか。
「睡ちゃん、私も教えてあげるわよ?」
「重さんに迷惑をかけるわけにはいきませんから結構です!」
断言した、というか俺には迷惑をかけてもいいのかよ! そう言いたかったがコイツに正論は通じないので諦めの境地に至っていた。睡に正論は通じない、何度も言い合いになったが感情論になって最後には喧嘩になっていたので俺も反論はしなかった。
「というわけで、お兄ちゃんは勉強しっかり教えてくださいね?」
「はいはい」
俺も適当に返す、どうせやるしかないのだから選択肢など無いというのに質問形式にしてくるあたり睡も意地悪な問いかけをしてくるものだ。もう何年も睡の兄をやっているのでこういうことには慣れてしまったが重はそうではないからか多少落ち込んでいた。
「まあ重に手間をかけさせるわけにもいかないからな、またピンチになったら頼むよ」
「お兄ちゃんは私がまた同じ過ちを繰り返すと言いたげですね?」
「だってお前小学校の時も読書感想文を俺に頼ってたじゃないか」
睡はムッとした表情で言う。
「いいじゃないですかそのくらい! お兄ちゃん本をたくさん読んでたんだから一冊くらい感想を繰れたっていいでしょう!」
「お前なあ……あの後勘のいい教師に見抜かれたことをすっかり忘れてないか? 半泣きで枚数を倍書けといわれて泣きながら宿題やってたの覚えてるぞ?」
さすがに二度目は俺に頼まなかったが結局本人が苦労して俺が少しの手間をかけるという徒労に終わった苦い思い出だ。なお中学ではネットを覚えたので読書感想文を密林のレビューから書き写して大層に教師を怒らせたということも知っている。
難儀な話だが俺には睡に厳しくあたることが出来ないらしい、建前上突き放すことは多いのだが涙目で泣き疲れるとついつい頼みを聞いてしまう。甘いと言われるかもしれないが妹に対する兄として完全に見捨てるのはあまりにも忍びない。
「さて、お兄ちゃんも重さんも追加でハンバーガーとコーラでも頼んでいいですよ!」
テーブルの上がかなり減ってきたところでその一声があり追加注文をレジでしてから、デカ目のハンバーガーとシェイクを重が持ってきた。
「糖尿病になりそうな量ね……」
呆れながら睡が頼んだ食事の量を見て言う。たしかにかなりのボリュームがあった。三人なら食べられなくもない量だろう。
「厄介ごとが終わった後の食事は美味しいですね!」
そう言って睡はハンバーガーをかじってコーラを飲んだ、抑えていた欲望がむき出しになってそれが食欲になったのだろう、かなりいい食べっぷりだった。さぞかしテストをクリアした後の食事は美味いだろうな、ソレがギリギリとなると尚更嬉しいだろう。
「今日の晩飯は必要なさそうだな」
俺がそう言うと睡は頷いて肯定する。
「今日くらいは楽をしてもいいですよね!」
重は少々控えめに食べていたが、夕食をコレで済ませることに決めたのだろう、ポテトに伸びる手が早くなった。
「罪の味がするわね」
「ソレが美味しさってやつなんですよ?」
こうして俺たちは食事をしばらくした後店を出て帰途についた。今日は寄り道だったので家まではある程度距離があった。
重と別れて睡と二人きりになると睡は俺にくっついてきた。
「お兄ちゃんはなんだかんだ言って頼りになるから好きですよ?」
「それはどうも、出来れば自助努力もして欲しいんだがな……」
俺に頼りきりでは自分で生きる力がつかない、いつまでも一緒にいてやれるなら問題無いのかもしれないがこの世に永遠がないように、いつか一人になる可能性のある妹にできる限りのことをさせてやりたかった。
俺は少し考えてから、今日は確かに睡の努力の成果だと判断して引き離すようなことはしなかった。睡はニヤニヤしながら俺の腕に抱きついて体温を伝えてきた、夏なので暑苦しいがどうせ帰宅したらシャワーを浴びるんだからこのくらいは許されていいだろう。
そうして帰宅し、俺は汗を流してテストの返却が終わるまでの緊張感が抜けて布団に飛び込むとともに意識が落ちていった。
――妹の部屋
「お兄ちゃん、今日はデレてましたね!」
お兄ちゃんにベッタリでも引き剥がされませんでした、コレは一歩前進です! 私とお兄ちゃんとの関係を一歩進めた偉大なその一歩に私は感激しています。
いずれは……お兄ちゃんと……
私の思考に答えは出ることがなくテストの結果に安心してしまい、その余韻を味わうことなく眠ってしまいました。




