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テストを終えて

「いやーテスト明けは気分いいな?」


 俺が隣を歩いている睡にそう言う。


 気分が晴れやかだと空も一層青く見えるな! 一つの心配事がなくなり気分良く登校出来る、いいことじゃないか! 隣にいる睡と重も無事テストをクリアして三人で一緒に歩いて行けることは当然だが気分のいい話だ。


「お兄ちゃん、もしかして私が赤点取るって思ってました?」


「私が赤点なんてあり得ないでしょ?」


 二人とも勉強をしっかりしていると主張している、少なくとも睡については少し怪しかったような気もするのだが、本人が余裕といっているのだからそこに突っ込むこともないだろう。今は青空の下を三人で登校出来ることに感謝をしていればいいだけだ。


「お兄ちゃん! テストも終わったことですしデートしませんか?」


「は!?」


「ご褒美ですよご褒美! 私頑張ったじゃないですか? もうちょっと良いことがあっても罰は当たらないと思いますよ?」


「あの……わた……」


「お兄ちゃんと私のデートですよ! 二人きりでいい感じになりたいじゃないですか!」


 重が何か言おうとしていたが、その言葉は睡の圧に押されて何を言おうとしていたのかは不明だった。そういえばそろそろ暑くなってきたな、睡も重も夏服で多少薄着になっている。俺も夏服なのだから睡と重が夏服なのは当然なのだが、テストのことで気にしている暇が無かった。


「で、お兄ちゃん? どうですか?」


「分かったよ、実際頑張ったしな」


 テスト中に鉛筆を転がしていた音が聞こえていたが、それが睡の席から出ないことを祈ろう。選択問題は運で解けるからな……


 とはいえ、頑張ってくれた睡にご褒美をあげないというのも良くないだろう、信賞必罰……いや罰は与えないのだが、ちゃんと頑張ったからにはその報酬を上げる必要があるだろう。


「やった! 何処に行きましょうか?」


「任せるよ」


「よし! じゃあお兄ちゃんと行きたかったデートプランを練ってますね!」


「まあ良識の範囲で頼むぞ」


 俺は苦笑しながら睡に言う、コイツに任せると十八禁なイベントを起こしかねないからな、そこは制限しておかないと何が起きるか分からない。最も、コイツが最後の最後で踏みとどまる程度の常識は持っていることは知っているのである程度は自由に任せることにする。重は最後まで何か言いたそうだったがすっかり無言で俺たちの横を歩いていた。


「重も何か用があるのか?」


 俺が重ねに水を向けてみるがプイと横を向いて一言言った。


「シスコンも大概にしなさいよ」


 そう一言言って一足先に校舎に向かっていった。アイツが何を言いたかったのかは言葉通りにとらえるべきか少し考えてみた。結局答えは出ることなく俺たちも校舎に向かっていった。


 晴れやかな空の下で、俺たちは歩みを進めていった。


 教室に入ると冷気が俺たちを包む、幸い、エアコンがこの学校にはしっかりと整備されている。今時という声もありそうだが無いところには無いらしい。俺はその噂を聞いて震えたものだ。


「ねえねえお兄ちゃん! 何処に行きます? 映画、買い物、食事? 夢が膨らみますね!」


「金がないからショッピングは勘弁してくれ……」


 俺は人並み程度のお金しか持っていないのでショッピングは勘弁して欲しい……甲斐性が無い兄だと詰られてもしょうがないが、無理なもんは無理だ。


「お兄ちゃんに現金は期待していませんよ?」


 そう言われるとそれはそれで悲しいものだ……もう少し俺が頼れる兄だったら良かったのにな……月額が仕送りから妹が整理して残った分が俺のものになる、家庭の会計がどのようになっているかは不明だが、今まで何の問題も無くやってきている時点で俺よりまともな運営が出来ているのだろう。多分俺が運用したら一月で破綻すると思う。


「とはいえ……」


「何ですか?」


「結局ショッピングモールになるんだがな……」


 地方民御用達のショッピングモール、大体何でもあるから何をするか悩んだ時にはそこに行けば何をするにせよ問題無く行動に移れる。


「お兄ちゃんは夢が無いですね」


 呆れ顔の睡がそう言う。俺にセンスなんてものを求める方がよほど間違っているんだ。ここは俺に従ってもらうぞ。


 ふと、近くの席から笑い声が聞こえた気がしてその方を見ると重が微笑んでいた。


「おらーホームルーム始めるぞー」


 やる気の無い教師の声とともにHRが始まった。


「このクラスで赤点が出なかったようで何よりだ。赤点出すバカがいたら私の責任になるからな! この調子で頼むぞ」


 それだけ行って教室を出て行ってしまった。どうやらあの先生は問題を起こさなければ後は自由にしていいという放任主義らしい。


 そうして退屈な午前授業が終わっての昼休み。


「お兄ちゃん! この映画どうですか?」


「ああ……ネズミ系のアレね。いいんじゃない?」


「なるほど、コレはお兄ちゃんが乗り気でないと」


「ではこちらはどうでしょう?」


 俺は妹に次々と映画のサイトをスマホで見せられて次々に好みをリサーチされていった。俺は「睡が見に行きたいんだから自分が見たい映画でいいんじゃないか?」と言ったが「お兄ちゃんと楽しみたいんです!」と怒られてしまった。コイツの考えはよく分からんな。


 そうして次から次へと映画のサイトを見せられていった結果、俺が暇つぶしに見ていたハリウッド映画の続編と言うことで話がまとまった。そしてちょうどそのタイミングで午後の授業が始まった。


 午後の授業は英語と数学で退屈極まりない内用だった、それが終わると睡は俺にくっついてきて言った。


「さあ行きましょうかお兄ちゃん!」


「え!? ちょっと待って! 今日なの?」


「当然じゃないですか! 鉄は熱いうちに打てって言うでしょう?」


 そんなわけで今日は駅の方に歩いて行くことになった。重が何か言いたそうだったが俺たちと帰る方向が違うということで校門で別れた。


 ガタゴトと電車に揺られながらテストの疲れで頭がぼんやりする。田舎特有の電車の特徴として座れない日は無いという悲しい事情がある。それでも路線が維持出来ているのは税金様々と言ったところだろうか。


 しばらく揺られていると駅に着いたのだが気がつくと顔の横に睡の顔があった。どうやらこれだけ席が空いているのに俺のとなりを陣取ったらしい。


「睡、駅だぞ」


「ああはいそうですね……」


「お前も眠かったのか?」


「私はお兄ちゃんの顔を眺めるのに集中していただけです」


 そう断言して電車を二人で降りる。


 しばらくモールまで歩いていきながら他愛ない話をしていった、梅雨明けだからか雨が降らなかったのは有り難いことだろう。


 モールについてチケットを買った、学割は安くて助かるな……大人になったら正規料金を取られるのかと思うとうんざりするが今はその特権を大事にしよう。


 シアターに入って画面が暗くなると一通りのCMと映画泥棒の告知が流れた後で本編が始まった。俺は前作を見ていたのでそれなりに楽しめた内容だった。一作目の前日譚であり宇宙人が地球を襲ってくるまでの物語だった。睡は一作目を見ていたのだろうか? それが分からないと意味不明に近いストーリーにもなりかねないのだが。


 上映が終わり灯りが灯る頃、隣で俺の手を握っていた睡は立ち上がっていった。


「いい感じでしたね?」


「それは何より、お前このシリーズ見てたんだな?」


「いいえ、お兄ちゃんの手がいい触り心地だったって言ってるんですよ?」


「映画の内容は」


「お兄ちゃんのことで一杯一杯で覚えてません!」


 そう断言する睡には一片の迷いもなかった。俺としては映画を楽しんで欲しかったんだが……まあコレも一つの楽しみ方か。


「じゃあ帰りましょうか!」


「ああ、それはいいんだが……」


「何ですか?」


「いや、睡ならフードコートで今見た映画の感想の語り合いとかしたいのかなって思って……」


「それは無理ですね」


「なんで?」


「お兄ちゃんが隣に座っていたこと以外記憶にありませんから!」


 そう言って笑いながら俺たちは帰りの電車に乗った。赤字路線なので1時間に一、二本敷かない路線だが、駅で待っている時さえ、隣に座った睡は楽しそうだった。俺には理解出来ないのかもしれないが、妹が笑顔でいると言うことは俺にとって満足のいくことに違いは無かった。


 ガタゴトと揺られながら、帰り道は睡が俺の肩に頭を乗せて眠り込んでしまった。どうやら緊張し炊いたのは本当だったのだろう、寝息が規則正しく聞こえてきて、確かに意識が無いことを示していた。


「お兄ちゃん……へへへ……だめですよう……」


 コイツが何を夢に見ているのかは知らないが上客がこの寝言の聞こえる範囲にはいなかったことは良かった、聞かれていたら俺も返答に困っただろう。


 キキー


「睡、駅に着いたぞ、起きろ」


「ふぁ……ふぁい」


 俺は寝ぼけている睡の文も運賃を支払ってホームに降りた、遅れて睡も降りてきた。


 そうして駅に立った睡はとびきりの笑顔で言った。


「お兄ちゃん! 今日は良い日でしたね!」


 その一片の曇りも無い笑顔は俺がどう言いつくろっても変えようがない者だと思ったので静かに「そうだな」と言って俺たちは家に帰った。


 駅からの帰り道、睡は俺の腕に抱きついて歩きにくいことこの上ない状態で帰る羽目になった。


 帰宅後、電車賃のお礼ということで料理を作ってもらい、食事を終えた俺たちは風呂にどちらが先に入るかなどくだらないことで論争したりしてようやく一日の疲れを風呂で洗い流して残りはベッドからしたたり落ちていくかのごとく流れて消え去っていった。


 ――妹の部屋


「お兄ちゃんのデレイベントは貴重です!」


 そう! 今日はお兄ちゃんがデレたのです! コレは記念日と言ってもいいでしょう!


 私はお兄ちゃんが隣にいる状態で眠りこけていた自分を責めました、何故もっと積極的にいかなかったのでしょう! 今日のお兄ちゃんならもうちょっとサービスしてくれたかもしれないのに!


 まあ……過ぎたことをとやかく言ってもしょうがないでしょう。私はお兄ちゃんが優しくしてくれるとテストを通じて学びました。つまり! 期末テストも頑張ればご褒美があるということです!


 私は未来の事をあれこれ想像しながら高揚したまま眠りにつきました。

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