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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一学期

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文系は作者の気持ちでも考えてろ

 テスト初日、英語、科学、物理、数学を終えて、俺はクタクタになりながら帰り道を歩いていた。一応赤点になりそうな教科はなかったのがせめてもの救いだろう。


「ふぃー……終わった終わった……」


 そう安心感に浸っているところに妹が水を差してくる。


「お兄ちゃん、まだ現代文と古文が残ってますよ?」


 この高校は中間考査で五教科をやる、当然面倒くさい現代文等も含まれている。


「俺は現代文は勘で解けるからだいじょーぶ……ふぁあ……」


 実際現代文というのは日本語が読めれば大体解ける、何を示しているのか答えろという問題など作者の気持ちを考えろと言っているのに等しい。なんとなく分かっちゃうんだよなあアレ……


 質問されても困るのだが、直感としてああいう問題が解けるので文法だの文脈だのを問われても体型だった答えを出すことが出来ない。要するにいくら質問されても『感覚的な』答えしか出すことは出来ないのだ。


「お兄ちゃん! 勉強会をしましょう!」


「えー…………」


「なんでお兄ちゃんそんなに乗り気じゃないんですか! やる気を出しましょうよ!」


 だってなあ……


「別にろくに勉強しなくても数学や英語ほど苦労しないし……」


 ヤマを張るとかそれ以前に勘で解けるので勉強会が意味をなさない。だって俺に『どうして答えがこうなるの?』と聞かれても『なんとなく』としか答えられないからだ。誰だって『何故心臓が動いているの』と聞かれて自由意志で心臓を止められる人間以外は答えられないだろう。その程度の自然な答えを導出する方法を表現出来ないのだ。


「私が苦労するんですよ! お兄ちゃん! たまには付き合ってくれてもいいでしょう!」


「だって俺はまともに教えられないし……」


「それでもお兄ちゃんが居るってだけで違うんです!」


「一人でやっても変わらない勉強になると思うぞ?」


「モチベーションが全然違いますから!」


「分かったよ……本当に大したことは教えられないぞ?」


 俺もさすがに折れて睡の勉強に付き合うことを決めた。コイツは言いだしたら聞かないからな。自宅でも延々言われたあげく赤点でも取られた日には目も当てられない。


「言っとくけど大したことは教えられないからな?」


「お兄ちゃんが居てくれるとやる気が違いますよ! それだけでも十分すぎます!」


 物好きだな、と思ったが口に出したところでどうしようも無いことに思い至って、本人が満足ならそれでいいかと諦めの境地に至った。人によってモチベーションの元になるものは違う。コイツにはたまたまそれが俺だったというだけだろう。


 俺は物好きな妹を鼓舞するために一緒に帰宅をすることになった。その際、重が一緒に勉強しない? と聞いてきたのだが、俺は現代文は勉強しないと言ったところ残念そうに引き下がった。その後帰途で分かれる時に睡が何か言っていたが重がひどく狼狽していた様子が見えた。何かあったのだろうか?


 そうして帰宅してから物好きの勉強会が始まった。時々質問はされたものの、俺はそこの答えはここだぞ、と答えることは出来た。しかしそれがどうやって求まるかについては全く答えられなかった。直感と論理の決定的な違いということになるのだろう、俺は直感派で睡は論理派だった。


 二人の勉強会は物静かだったが、確かに睡は熱心に勉強をしていた。俺が論理的に答えを教えてやれないのがもどかしいくらいだ。集中しているようなので俺は席を立って紅茶を注ぎにキッチンに向かった。


 アールグレイをティーポットに入れてお湯を注ぐ、ふわりといい香りが広がる。2つのカップを持って睡のところへ届けに行った。


「お兄ちゃん! 何処へ行ってたんですか! 心配したんですよ!?」


「いや、ただ単にちょっと休まないかと思ってな」


 俺は思わずこぼれそうだったティーカップを二つトレイから睡と俺の前に置く。睡もその香りを嗅いで落ち着いたようだ。


「お兄ちゃん、紅茶に免じて許してあげますけど、無断で居なくならないでくださいね?」


「はぁ……分かったよ」


 兄離れ出来ないというのも困った物だな……だがコイツの自立心が勉強を進めていたことからうかがえる。それは確かに嬉しいことだった。一歩ずつ、焦らなくてもいいから例え一人になったとしても生きていける強さを持って欲しいと思う。俺にはそんなものが無いのだから無い物ねだりだなとも思う。


「お兄ちゃん、ここなんかおかしいような気がするんですが?」


「だから俺は教えられないって……ああそこか、昔の人が誤訳してそれが広まったんだよ。今からすると編集仕事しろって感じだがな、いや、最も編集なんて職業があったかも怪しい時代の文だしな」


 昔の人の名文だって平気で誤用が入っている。パブリックドメインになっているものでさえそうだ。せっかくの改変自由なんだから原文の修正をしろよと思わないでもないが慣習なのかそのまま現代語に翻訳されている。


「お兄ちゃん、今日は結構勉強出来た気がします!」


 現在午前一時、確かに徹夜をする必要も無いしそれなりに頑張ったと言えるんじゃないだろうか? 俺は睡を『よく頑張った』と褒めてから自室に戻った。


 翌日、現代文と古文と漢文のテストを受けた。現代文は問題無し、古文は文脈から推測するという邪道な解き方をしたがそれほどはずれてはいないだろう。漢文は……難しいね!


 漢文なんて古典文学でも研究しないと使い道がないと思うが、必要も無いことを覚えるというのが『教養』というものなのだろう。幸いなことによくある故事から問題が出ていたので解くことは出来た。俺は漢文の授業は気もそぞろなのでよく覚えていないが、幸い漢文の日本語訳を読んでいる。たまたまそれがぴったりと出たので俺は楽々問題を解くことができた。


 そうしてテスト明けに早めの帰宅を許された。俺も睡も重も足取りは軽かった。


「面倒なところもどうにかなりそうですね! 昨日の数学ももう返却されましたけど赤点取りませんでした!」


 赤点を取らないのは最低ラインのハードルだと思うのだが赤点回避に成功した睡は意気揚々としている。一方重は……


「睡ちゃん……私も現代文の勉強したかったんだけど?」


「すればいいじゃないですか? 重さんは一人でも生きていける強い人だと信じてますよ?」


「はぁ……まあとにかく三人とも赤点回避って事で、どっかで買い食いでもしていかない?」


「たまにはいいな」


 俺がそう言うと睡も一応は同意したらしく祝勝会をマクドで開くことに同意してくれた。


 なお、祝勝会と言っても話題はもっぱら意地の悪い問題を出した教師への悪口だった。


 誰それが範囲外から出したとか、他の誰かはここが出るぞといっていたところが出なかったなど愚痴を延々と吐き出す会になってしまった。しかしこの祝勝会で本当に分かったのだが睡と重は仲良く出来るのだった。共通の敵さえ居れば睡も重も意見を同じくして仲良くなれる。後ろ向きな方法だが仲が良いことは良いことなので黙っておいた。


 そうして二つ目のハンバーガーに三つ目のポテトが空になったあたりで祝勝会はお開きになった。


 帰宅しながら重が言う。


「睡ちゃん、誠と勉強会してたら私ももっと良い点数が取れたと思うんだけど?」


「赤点を取らなかったんだからいいじゃないですか!」


 そうしてその話題は打ち切られて三叉路で俺たちと重は別れて家に帰っていった。


 なお、勉強会のお礼ということで夕食は睡が作ってくれた。カツドンだったのだが、本人が言うには縁起を担ぎたかったらしいがそれはテストの後にするものではないだろう。しかし睡の作ったカツ丼が美味しかったのは確かだった。


 そうして気苦労の多いテストを終え、ようやく俺たちは眠ることが出来るのだった。


 俺はベッドに入ると泥のように意識が消えていった。


 ――妹の部屋


「お兄ちゃんと勉強会……なんて甘美な響きなのでしょう!」


 私はお兄ちゃんと密室で二人きり、何時間も一緒にいたことに感動すら覚えていました。めったに二人きりになれないお兄ちゃんを独り占め出来る時間、それはなんと素晴らしいのでしょうか! 満ち足りた月のごとく私の心は眠ることが出来ませんでした。結局、お兄ちゃんの写真を枕の下に敷いたところなんだかお兄ちゃんに見守られているようで眠ることが出来たのでした。

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