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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一学期

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陽光の中で

 月曜日、憂鬱な日だが少なくとも天気が良いことは多少の救いにはなるだろう。長かった梅雨がようやく明けて日の光が地面に降り注いでいる。


「お兄ちゃん! 晴れの日は気分が良いですね!」


「そうだな」


 朝食を食べながら表を覗くと雨露がキラキラと輝いていた。日差しが今までの暗い天気から考えてみれば眩しく思える。手元のスマホには天気予報で太陽のマークが出ている。ニュースでも梅雨明けを発表していたのでしばらく雨は降らないだろう。じょうろから落ちるがごとく雨が降っていた昨日とはうって変わって夏の近づきを予想させる熱気とともに太陽が燦々と輝いている。


「じゃあお兄ちゃん! 登校しますか!」


 現在七時五十分、登校まであと少しだ。気分屋の睡だが学校に行く気があるなら大丈夫だろう。俺みたいに面倒なことから逃げるばかりの人間とは違うのだろう。もっとも、俺は逃げることが悪いとは思わないのだが。


「お兄ちゃん、ちゃちゃっと準備しますよ!」


「はいよ……」


 制服を整え、寝癖を直す、眠そうな目をしているような気がするがそれは生まれつきだ。睡の方は洗面所で身だしなみを整えている。アイツは身だしなみが整っていなくてもちゃんと可愛いと思っている、言うと絶対調子に乗るから黙っておくが。


「お兄ちゃん! 今日から夏服ですよ! どうですか?」


 クルリと回って袖の短くなった夏服を見せつける睡。可愛いな……


「いいんじゃないか?」


「お兄ちゃん……反応うすーい!」


 不満そうな睡を放っておいて玄関へと向かう、小走りに睡がついてきた。


「ところで睡、中間考査大丈夫か?」


 そう、そろそろ中間テストがある、俺は必死に勉強しておいたのだが睡がそう言ったことを熱心にやっているのを見た記憶が無い、大丈夫なのだろうか?


「私はやってますよ。ヤマを張ってますし、中学もそれで3年間トップクラスに入ってましたから」


 聞きたくない妹の成績の秘密を教えられてしまった……つーか三年も良くヤマを張って当て続けたな……


「お兄ちゃんにも教えてあげましょうか?」


 睡のその誘いに対して俺は……


「自分の力で何処まで行けるか試してみるよ……」


「つれないですねえ……」


 睡は微笑んで頷いた。俺は普通に勉強を続けるだけだ。一応それで中学時代に困ったことはなかった。多分高校でもいけるだろう。甘いと取られるかもしれないが、ヤマを張るのはリスクが大きすぎる。三年間の実績があるとは言えそれに頼るのはギャンブルだ。


 俺は断ってからさっさと靴を履く、睡も隣で靴を履きながら「私に任せて欲しいですねえ」などと言っていたが無視しておいた。


 玄関を開けるといつも通り重が家の前で待っていた。


「あらあら、重さん、もうじきテストなのに余裕ですねえ?」


「そうかしら? 私は普段の授業を真面目に聞いてるしね」


 そこで重が思いついたように発言した。


「ねえ、誠は勉強してないんでしょう? 私と勉強会しない?」


 勉強会か……青春の雰囲気が漂ってくるワードだ。


「ダメです! お兄ちゃんは私と一緒に勉強するんです!」


 睡がそれを全否定した。


「睡ちゃんも勉強したいの?」


「私は直感で答えが分かりますからね! そんな凡人じみたこと必要ないんです!」


「じゃあ誠、今日の放課後数学やる? あなた数学苦手だったでしょ?」


 睡がその言葉に吠えた。


「何しれっとお兄ちゃんと約束してるんですか! 私を通さないでお兄ちゃんにアポは取らせませんよ!」


 重はシンプルに一言言った。


「勉強しなくていいんじゃなかったの?」


「お兄ちゃんとの勉強なら別腹ですよ!」


 俺たちは肩をすくめて勉強をすることになったのだった。ちなみに勉強会の会場は「重さんの部屋にお兄ちゃんを入れるなんて言語道断」「お兄ちゃんの部屋に入れるのは私だけ」と強硬に主張したため睡の部屋になった。


 学校では担任が檄を飛ばした。


「お前ら! 赤点だけは取るんじゃねえぞ! 赤点になったら私の責任なんだからな! 真面目にやれよ!」


 そう言って出て行くのを見送りながら、俺は勉強会で勉強が出来るのか不安になっていた。


 そうして『三人』で帰宅後、勉強会は静かに始まった。


 カリカリ……カリカリ……


 ノートを埋めていくと時々分からないところが出てきた。


「そこは公式を使うと解けるわよ」


「ああ、加法定理か」


「そこはsinカーブを位相をずらして……」


「なるほど……」


 そんなやりとりを少ししていると睡が爆発した。


「ムカつくんですけど! 重さんお兄ちゃんと喋りすぎです! お兄ちゃんは私のものなんですよ!?」


 俺はその空気に耐えられず……


「ちょっとコーヒー入れてくる」


 そう言って部屋から逃げ出した。あの二人は時々怖いんだよなあ……時々切れそうになっている睡を見ると血の気が引く。今出てきた部屋の中で殴り合いになっていても不思議ではない。


 俺はその嫌な予感から逃げるべくキッチンに行ってコーヒーを淹れる。できるだけ時間が稼げるようにインスタントではなく豆からドリップだ。面倒くさくってあまり使っていなかったコーヒーメーカーが今日ばかりは有能な相棒に思えた。


 コポポ……コポッ


 どうやらコーヒーは淹れ終わったようだ。コーヒーカップを三つ用意して……砂糖を置いて……俺はカップの載ったお盆を持っていった。


 カチャリ


「コーヒー入れてきたぞ」


「ああ、はいありがとうございます!」


「誠ってコーヒー飲めたんだ?」


「ん? そりゃ高校生にもなるからな」


 思いのほか部屋の中は平和だった。どうやら俺がいない間喧嘩は起こらなかったらしい。俺は睡に三つ砂糖を入れてやり、重に何個要るかきく。


「私は二つで」


 というわけでスティックシュガーを二つ開けコーヒーに入れる。それを二人の前に置いて勉強を再開する。


 その日、勉強は日が落ちる寸前まで続いて何とか試験範囲は抑えることが出来たのだった。


 ――妹の部屋


「なんでお兄ちゃんが居ると喧嘩になっちゃうんでしょうねえ……」


 お兄ちゃん以外の誰かだったらきっと喧嘩は起きなかったのでしょう。それでも大好きなお兄ちゃんを取られるわけにはいかないのです! 例えそれが重さん相手だったとしてもです。


 私は勉強に苦労しない方だと自負していましたが、やはり人間多少の欠点派もていた方がいいのかもしれませんね……


 私はやりきれない思いとともに眠りにつきました。

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