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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一学期

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ある雨の日

 しとしとと窓の外では雨が垂れている。そろそろ梅雨時だが幸いなことにも今日は休日であり何処にも出かける必要は無い。こういう日はのんびりと音楽でも楽しみながら部屋に引きこもるに限る。


「お兄ちゃん! 暇なんですけど!」


 俺の妹様はそうとは思っていないらしく不平を垂れる。この雨の中どこかへわざわざ行く必要も無いだろうと思うのだけれどそれが不満らしい。雨の日でも元気な妹を微笑ましく思いながら、その気力がどこから湧いてくるのかはいたって謎の極みだった。


「この天気でなんでお前はそんなに元気なんだ?」


 ふとその事について聞いてみる。まともな返事が返ってくるとは思っていなかったが睡は簡単に断言した。


「人出が少ないのでお兄ちゃんと一緒にいても邪魔が入りませんからね、雨は好きです!」


 くだらない理由だとは思うが本人は大真面目に語っている、それに突っ込むと長ったらしい話になりそうなのでそれについて深掘りはせずさらりと流してしまった。


「しかしせっかくの休日が雨というのももったいないな……」


 俺がそうこぼすと睡はその言葉に反応した。


「では私と一緒にイチャイチャでもしませんか? 今日は誰の目を憚ることもないですよ?」


「休みなんだから気が休まらないことはやりたくないな」


「ほほう……お兄ちゃんは私と居るとドキドキしてるんですか」


「歪んだ解釈をしないで欲しいが……」


 ただ単に俺が誰かと一緒にいるのがあまり得意ではないだけだ。人にもよるのだろうが俺は家族関係であってもそれほど深入りしないことが美徳だと思っている。妹であっても個人的な距離感は持っているつもりだ、それに関係なく距離感を詰めてくるのが睡という妹ではあるのだが。


 俺としては世間の全てと没交渉というわけにも行かないので時々睡が俺にいろんな事を教えてくれる。それについては感謝している、しかし、個人の時間を楽しみたい時に距離を詰められると少々困ってしまう。


「お兄ちゃん! 退屈でしたらソシャゲで勝負しませんか?」


「PvP要素のあるソシャゲはプレイしてないんだが……?」


 睡も俺もプレイしているソシャゲで被っているものはあるが全てソロプレイ専用だ、基本的にランキングで廃人が競争している以外はプレイヤー同士で競う要素は無い。


「ふっふっふ……コレで勝負です!」


 そう言って睡が取りだしたのは……カードだった、青い色に見慣れたマークが載っている所謂ところの『魔法のカード』だ。


「課金されたら勝負のしようがないと思うんだが?」


 無課金で楽しんでいる俺には課金勢に勝てるわけがない、睡は意外と課金をしているんだろうか?


「お兄ちゃん、勝負のルールは簡単です! 十連十回の百回ひいてレアが多かった方の勝ちです!」


「不毛なゲーム過ぎる……」


 課金ガチャで勝負って……普通に廃人しかしないし、昔ガチャをひいた回数で勝負させるソシャゲがあって炎上していた。


「何しろこのカード買う時に10%ポイントバックキャンペーンやってましたからね! コレは課金しろということでしょう!」


「俺はお前が課金しすぎないか不安だよ……」


 テーブルにまかれた課金用バリアブルカードは千五百円から一万円までの金額で買える。十連一回三千円として百連は……ちょっとぞっとしない金額になるのに気がついて恐ろしくなった。


「ちなみにこのカードには千五百円払ったものと一万円払ったものがあります。お兄ちゃんと私で五枚ずつにわけましょう、そこから引けるだけガチャをひいて勝負です!」


「それはどっからどう見てもギャンブルなんだよなあ……」


 どうやらこの十枚のカードから選ぶところから始まるらしい、五枚全部千五百円なら二十連とちょっとしか払えない、何枚一万円を払ったものがあるのかは不明だがカードの引きから始まるギャンブルになるようだ。


「さて、私から選んでいきますね。私の一枚目はコレで」


 そう言って一枚を選び取る睡、やるとはいってないのだが選択肢は無いらしい。


「じゃあ俺はコレ」


 投げやりに一枚のカードを手に取る。コレが一万円の可能性があるのかと思うと軽く胃が痛くなるほど気が重かった。


「なるほど、お兄ちゃんはそれですか。私はコレでいきましょう」


 そう言って二枚目を取る睡、そうして五枚ずつ俺たちはカードを手にして裏面のコードをスマホでスキャンしていった。


 結果、俺は一万円が二枚、千五百円が三枚だった。睡は……


「どうだった?」


「千五百円ばかりでした……」


 泣きそうな顔で言う睡に俺はなんとも言えない感情を抱いた。俺がこんなにもらって良いのだろうか?


「その……俺も一枚買って返そうか?」


 もうアカウントに登録してしまったクレジットは返すことが出来ない、しかしこれだけの金額をもらうのは申し訳なかった。


「いえ! 勝負はこれからです! どっちがガチャでSSRを先に引けるかの勝負ですからね! まだ私は負けていません!」


「なあ……俺は素直にサブスクリプションにクレジットを使うのを勧めるぞ?」


「うるさいですね、私からすればサブスクに使うなんて安パイを選ぶのは敗北者のすることですね。課金と言えばガチャでしょう!」


 よく分からない信念の元に俺と睡のガチャ対決は始まった。まずは石の購入だ、しかしそこでふと気がついた。


「なあ睡……石って一回にたくさん買った方がオマケつくよな?」


「そうですね」


「この勝負俺が圧倒的に有利じゃないか?」


 何しろ石三十個で一回ガチャが回せるが、十連一回にあたる三百個を買った時におまけでついてくるのは三十個、三千円で合計三百三十個になる、これが一万円の課金だと……何と千個プラス五百個になってしまう。勝負の前から俺が圧倒的に有利じゃないか……


「構いませんとも! お兄ちゃんと勝負するなら私の豪運に対するハンデが必要ですからね!」


 自信満々な睡に対し、俺は言葉も無かった。俺は百個の購入ボタンを押してスマホの認証をした、チャリンと言う音とともに石の量が千五百個増える。ここまで高額な課金をしたのは初めてだ。


 睡は課金をためらわないらしくチャリンチャリンと決済音が響いていた。


 そうして二人とも先ほどの課金が全て石になったのを確認してからガチャページに移動した。


「お兄ちゃん、ここから先は地獄ですよ? 突っ込む準備はオーケー?」


「分かってるなら止まって欲しいんだがなあ……」


「いいみたいですね、ではレッツ勝負!」


 そうして俺と睡のガチャ勝負は始まった。同時に十連ボタンを押す、はじめの一回は俺がR、睡がSRになった。自分で豪運と自称しているだけはあって初回からSRを引いてきた。


「さあて、次あたりでSSRが来そうですね!」


「ほう……その自信がどこから来てるのかは知らんがSR引くとはなあ……」


「伊達に学校のテストで選択問題があったら九割取っているわけじゃないですよ!」


「テストを運で済ませるなよ……」


 大学入試までコイツは運だけで通りそうだから怖い、直感というのは往々にしてバカに出来ない力があるが睡についてはそれがずば抜けている。


 そうして二十連目に突入した。その時睡がガッツポーズをした。


「どうですお兄ちゃん! これが私の運命力です!」


 ドヤ顔で俺に差し出したスマホにはキラキラした画面にSSRの金色の文字がうつっていた。


「すげーな……一応俺もまだ引くからな」


 結局俺はその後何十連と回してもSR止まりだった。睡は自称しているだけあって運を引き寄せる力はすごいようだ。


「負けたよ……お前の運は確かに俺より良いみたいだ……」


「やった! お兄ちゃんが私に負けを認めました! 大勝利です!」


「フフフ、ではお兄ちゃん、私を褒めてください! 勝ちましたよ!」


「すごいすごい」


 そう言いながらガチャで溶かした金額を思うとコイツが笑っている理由が分からず怖かったのだった。


 ――妹の部屋


 お兄ちゃんに勝った! この征服感とかお兄ちゃんに負けを認めさせるとか気持ちが良いですね!


 ふえぇへっへ……私のこの運命力でお兄ちゃんをものにしたいのですが、まあそれは追々考えましょう。今日はこの小規模な勝利と気持ちよさを胸に寝るとしましょうか。


 そうして私はその時引いたSSRを眺めてから眠りにつきました。

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