妹と周回ゲーム
「ああ、面倒くさいなあ……」
俺は睡から勧められたゲームをプレイしている。何が面倒くさいってスキップ機能が無いのだ。昨今のソシャゲなら実装していてしかるべきだと思うのだが、数ヶ月前のローンチだというのにその機能を実装しなかった運営に、理由を小一時間問い詰めたい気分だった。
一応慰め程度のオートモードは実装されているので、再戦のボタンをタップすれば半自動での周回は可能だ。しかし、クエストクリアのタイミングで毎回再戦をタップするのは地味に面倒くさい。
しかししょうがないのだ、睡に『私と勝負しましょう!』と言われてしまったからだ。ちなみに勝つと新型iPhoneを買ってあげると言われて俺は即その勝負に乗ってしまった。
我ながらチョロいとは思うのだが、睡からの条件は『私が勝ったらデートしてください』と、それほどデメリットではないのだが、勝った時のメリットが大きすぎて俺は勝つ以外の選択肢はないと思っていた。
「お兄ちゃん! 朝ご飯ですよー!!!」
三時起きでクエストを回していたのだが、窓の外から日が差し込んでいることに気がついた。こんな時間になっていたのか……
「今行くー!」
そう言って部屋を後にする。ソシャゲについてはPCのエミュで動かして自動周回する
スクリプトを組もうかとも思ったのだがアカウントを消されては本末転倒なので地道な方法になった。
ふと机に置いて操作をしていたスマホを触って見る、裏面が随分と熱くなっていた。
「2Dゲームなのになぁ……」
今時のゲームはどんなものであれそれなりにマシンスペックを要求するようだ。はた迷惑な話である。旧時代のカードをぶつけ合うだけのガラケーでも動くゲームを見習って欲しい。もっとも、アレはアレで課金形態がエグかったのだが。
俺はiPhoneを手に取りゲームを終了させてキッチンへと向かった。
「おはようございますお兄ちゃん! デートの準備はいいですかね?」
「iPhoneを買ってもらう準備なら完璧だよ」
「ほほう……後悔しますよ?」
「ハッ! 俺だってキャラを育成してるんだぞ? レベルキャップまで育てれば後は実力と運の勝負だろうが!」
睡は楽しそうに笑う。
「自信がありそうですね、私はそういう無根拠な自信を砕くの好きですよ?」
「趣味の悪いことで……」
露悪的な趣味をしている妹だが、俺との約束を違えたことは無い。つまり運の勝負にまでは持ち込めると言うことだ。
「まあとりあえず朝ご飯をどうぞ」
「ああ、いただきます」
「いただきます」
つかの間の平穏、勝負をするとは思えないほど呑気な関係性、ホットサンドを食べながら睡に聞く。
「すごい自信があるみたいだけど何か必勝法でもあるのか?」
「ふふふ……さあてなんでしょうね」
あくまでも手の内は隠しておくつもりらしい。
「それにしても朝ご飯美味しいな!」
「それはよかったです! 頑張って作った甲斐がありますね!」
「ちなみに必勝法とかある?」
「さあ、どうでしょうね?」
ちっ……おだてても何も出ないか……
俺は何か必勝法があるのかもしれないと思ったが、それに根拠もないので気にせず自分のキャラを育てることにした。
「ごちそうさま」
「はい」
俺は部屋に戻る、ソシャゲの周回も一周くらいは終わっているだろう。周回プレイは一回でも多く回しておくに限る。なお、この周回ペースで今日一日続ければ全てのキャラがレベル上限まで育つ計算だ。勝負は明日になっている、時間的には一応大丈夫だ。
『お兄ちゃん! 大好き!』
何故こんな高音域のマシマシになったボイスを最強キャラに採用したのかは分からないが、とにかく一番強いキャラを育てきっておくのが目標だった。
そして討伐、再戦、討伐、再戦……を延々と繰り返してようやくレベルキャップまで育ちきったパーティが手に入った。コレで理論上は負けないはずだ。wikiを見て最強編成にしておいたはずだ。人権キャラで固めたパーティには愛も思い入れも微塵も無いがとにかく最強にはなった。
メインストーリーはクリア済み、エンドコンテンツの周回にまで達しているのでこれ以上は運が関わる勝負になるはずだ。
そして俺は明日新型iPhoneを注文する夢を見ながら眠りについた。
翌日……
「さあお兄ちゃん! いざ尋常に勝負です!」
「任せておけ、絶対負けないからな!」
こうして俺と睡との一マッチ勝負は始まった、複数回の勝負かと思ったのだが、睡は一回切りの勝負を条件にした。ゲームの上達度から言って勝負が続けば睡の有利に働くような気がするのだが何か秘策でもあるのだろうか?
『バトルスタート』
こうして睡とのバトルが始まった。俺はバフコマンドを使用して魔力を強化する。ここからの必殺技で大抵の相手は一撃で沈む。
はずだった……
睡のキャラは俺の予想と異なり魔法最強のゲームにおいて物理キャラで固めてあった。この調子ならあっという間に全員沈められるだろうと予想してバフを積んだ直後に重い一撃が入った。
キャラのHPがゴリゴリと削られる、相手の方がリキャストが早い。俺のキャラはバフまではどうにかなったのだが、せっかく積んだバフが効き目を出す前にキャラがどんどんと落とされていく。
「なんで……」
「ふっふっふ……お兄ちゃんは甘いですね! このゲーム、NPC戦でなら魔法最強ですけどPvPならそれに物理でメタを張れるんですよ!」
ドヤ顔で言う睡、ちっ、始めからそれが狙いか! 一マッチならこちらがメタ対策を立てる間もなく落とされてしまう、再戦無しならそれが最強になる。
『もうだめですー……』
俺の最後のキャラが気絶して勝負は付いたのだった。
「お兄ちゃんは甘いですねえ……人の心という奴を理解していませんね? その辺が勝負の境目なんですよ」
「何で俺が魔法キャラで来ると分かったんだ?」
こちらの編成が分からなければ対策を立てられないはずだが、睡はそれをやってのけた。
「ああ、それなら簡単なトリックですよ」
「え!?」
「お兄ちゃん、wikiは誰でも編集できるんですよ? そして私と約束をする前には魔法メタの情報は載っていました」
「な……まさかお前……」
「ふっ……ルールを隠すことなど私にとっては容易なのですよ! そうwiki編集したのは私です!」
こうして非常に卑怯な番外戦術に屈した俺はその日、睡とデートをするのだった。
――妹の部屋
「うーん……お兄ちゃんとのデートは何回やっても良いものですねえ」
私はお兄ちゃんがこうも簡単に私の手に落ちてくれたことに感謝をしています。
wikiを見ている人には多少迷惑をかけましたが勝負の後で復旧しておいたので問題無いでしょう。
私はお兄ちゃんと繋いだ手の感触を思い出して体が熱くなるのでした。




