妹と六桁
「うわあああああんんんん!!! おにいちゃーーーーーんん!!!」
「はいはい、どうしたんだ?」
俺に泣きついてくる睡、いつものことだし一々真面目に相手をするのもキリがないがお話くらいは聞いてあげないとな。
「コレを見てください!」
睡が差し出してきたスマホはロック画面が表示されている。
「見てくれと言われても……ロック画面じゃん?」
「そうなんですよ! このスマホに寝ている間にアプデが降ってきたんです!」
OTAアップデートか、定期的にある話だがそれが一体どうしたのだろう?
「それでどうした? アップデートがちゃんと配布されたのはいいことだと思うんだが」
「パスコードを覚えてないんですよぅ……再起動後は指紋認証をできませんし……」
「あー……」
やっちゃったねえ……適当に入力することもできるが数回入力に失敗するとロックがかかる。以前は解除法もあったが最近ではセキュリティのために失敗すると初期化以外方法がなくなる。
「ちなみに何かヒントくらいは無いのか?」
「私のセキュリティ意識からしてそんな安直なことをするはずがないでしょう!」
自信満々に言う睡、だったら記憶しておいて欲しいものだな。俺は頭が痛くなるようなトラブルを前にアスピリンをドクペで飲み込んだ。
「意識が高いのも結構だが記憶力の方が追いついてないな」
睡は憤慨する。
「失礼な! そりゃあたくさんスマホを持ってるんですから一台一台覚えきれないのもしょうがないでしょう!」
だったらOTAアプデは止めておけよ……
そんな言葉が出かかったが今更言ってもしょうがないことだ。
「誕生日とかにしてないのか?」
「私がそんな単純なパスコードを設定するとでも?」
「だったらもう初期化しちゃえよ、それが一番手っ取り早いだろう?」
「ダメです! このスマホには無音カメラで撮影したお兄ちゃんの秘蔵写真が詰まっているんです! 絶対に諦められません!」
もはやそこに突っ込む気は無いのだが、手詰まりだった。ヒントも無いパスコードを推測できるほど俺は賢くない。
「手遅れじゃないかな?」
「そんなぁ……」
だってなあ……無制限にチャレンジできたら誰でも根気さえあれば突破できちゃうじゃん? 課金情報の入ったものをそんなぞんざいな管理をするわけにはいかないだろう。
「あっ!!!!」
「どうした?」
睡が急に声を上げる、パスコードを思い出したのだろうか?
「ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんが生まれた時の体重っていくらでしたっけ?」
「覚えてねえよ……え!? まさかパスコードにそんなもの使ったの!?」
「ふっ……コレなら推測不可能な完璧なパスコードでしょう?」
キメ顔で言う睡だが、俺としては自分の生体データをパスコードにされていると思うとなんだかむず痒い。
「まあいいです、母さんのおいていった母子手帳がありますからアレを見れば分かりますね」
「なんでお前が母子手帳を持ってるんだよ……」
言いたいことは山ほどあった。しかしまあ思い出してくれたということでそれ以上突っ込むのはやめておこう。
そして睡は部屋に帰って俺の部屋から出も分かるほどに部屋の中を探している音が聞こえてから『よっしゃあああああああああああああ』という言葉が聞こえて、無事解除できたことが分かって安心した。
なお隠し撮りについては決して口を割らなかったのでどんな写真家は分からなかった。
――妹の部屋
「ふへ……ふへへへへ……」
いやあお兄ちゃんとの思い出はいいですねえ……
じゅるり
おっと思わずよだれが……ふひひ……
お兄ちゃん関連の情報をパスコードにしていて助かりました。きっと私の情報だったら思い出せなかったでしょう。私がいつでもアクセスできる情報、そして明らかにそんなものをパスにはしないだろうと思われる情報、まさに適切!
私はその日、お兄ちゃんに関する情報を忘れないように出来る限り頭に詰め込んだのでした。




