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お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!  作者: にとろ
一年生二学期

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妹のスキルレベリング

「お・に・い・ちゃ・ん!」


 その休日に睡が猫なで声を上げてきた。今日は何か頼み事があるらしい。気がすすまないが無下にするわけにもいかずコーヒーの入ったマグカップを置いて聞く。


「何の用だ?」


「あれ? 私用事があるって言いましたっけ?」


「兄妹だからな、そのくらい声を聞けば分かる」


 睡は愉快そうに破顔してから俺への「お願い」を言った。


「実は……このスマホなんですけど……」


 睡が差し出したスマホにはゲームの画面が映っていた。何の変哲も無いソシャゲのOPが流れている。


「これがどうかしたのか?」


「実はですね……これから夕食の材料を買いに出かけようと思うのですが……歩きスマホをするのも問題ありますし、そもそも材料を買った後だと歩きスマホなんてできませんし……」


「何が言いたいんだ?」


 歯切れの悪い言い方をしている、なんだか奥歯に物が挟まったような言い方だ。


「それで、スタミナがたまってましてね……今回のイベントは豪勢なので素材回収をしておきたいんですよ」


 なんとなく察してしまった。要はクエストを回してくれということなのだろう。


「分かったよ、イベントクエストの周回だろ? このゲームってオートモードあったっけ? 手動で回すのは少し面倒くさいな」


「オートモードはあるんですが、スキップシステムはないんですよね……あれば楽でいいんですけど……」


 まあそこまで求めるというのは贅沢というものだろう。スキップシステムがあるとスキップ用に課金が求められることが多いのでそれも善し悪しだ。


「まあ画面をタップするくらいならやっておくよ、楽だしな」


 お互い様という言葉もあることだし、睡のゲームを周回するくらいはしても罰は当たらないだろう。運営も誰がクエストを回しているかなど分からないのだ。


「ああ、それからもう一つ。オートモードだと必殺技を打たないので終盤になったらオート切って一発撃っておいてもらえますか?」


 うへぇ……途端に面倒になった。周回は作業なので開始と再戦のタップだけで済むのに、途中でオートを切るとそれだけでタップ数が倍以上に増える。端的に言って手間が増えることこの上ない。


「必殺のスキルも上げてんのか?」


「ええ、スキルレベルも上げないと最近のイベントボスを倒すのが辛いんですよね」


「スキル使わないとダメか?」


「ダメです! スタミナが無駄になるでしょう?」


「分かったよ……操作は使ってれば分かるだろうし、買い物行ってこい」


「じゃ、お兄ちゃん! お願いしますね!」


 そう言って睡は家を出て行った。


 俺はクエストの先頭ボタンを押して周回を開始する。敵は初ウェーブでザコが二体、オートモードで戦闘が始まり三ウェーブ制だ。


 二ウェーブをこしたところで画面の隅にあるオートモードのボタンを押してオートを解除する。コマンド選択で『ひっさつ』を選択してスキル演出が入る。スキップできないのかなあ、などと思っていたら一発で敵が全滅した。この敵の強さの基準が分からないが一発で敵を全滅させられる程度には強いらしい。


 キャラが勝利エフェクトと共に跳びはねている。平和なものだ、たった今敵を消し飛ばした美少女キャラがキャッキャと楽しんでいる絵面だがやっていたことのエグさを考えると控えめに言ってサイコパスなキャラに見えてしまう。


 そうして延々とクエストを回す。一度スリープさせてしまうと睡でなければロックが解除できないため――そのくらいのセキュリティ意識はあった――中断もできずずっと操作し続けた。


 敵と向き合う、魔法や物理で二ウェーブ目までを片付けて最終ウェーブで必殺スキルを撃って敵を一掃する。毎回一確で敵が消え去るあたり廃人コンテンツなんだなと思った。


 そうしてタップをしてスキル演出を延々とみているとついに再戦をタップしたとき『スタミナが足りません、アイテムで回復しますか?』と表示された。


 さすがに課金アイテムかもしれないものを使用してまで続けるのは問題があるだろう。石を割るなら自分の手でやってもらわなければならない。


 そしてスマホの電源ボタンを押してスリープさせてスマホを置いた。


 少ししたところで睡が帰宅した。


「お兄ちゃんただいまー! レベルは上がりましたか?」


「さあな? 作業だったんで気にしなかったよ」


「お兄ちゃんは細かいところに気が回りませんね……そこはレベルアップ演出を確認しておくべきですよ?」


「そこまで求めるんなら自分でやれ」


 そう素っ気なく言ってスマホを返した。スマホをスリープさせないように維持するというのは意外と面倒なことだと理解した。


 睡は受け取ったスマホでゲームを開いている。起動時に『お兄ちゃん! おかえり!』と高音ボイスが響くゲームはあまり外でやりたくないなと思った。


 起動してからステータス画面を開いているのだろう。一通りチェックしている間に俺はコーヒーを淹れることにした。


「睡、コーヒー要るか?」


「一杯もらいます」


 スマホから全く目をそらすことなくそう言った。別に構わないのだが俺相手の時と他の人を相手にしたとき、同じ態度だと他人には嫌われるだろうなと思った。ただし、そんなことはカケラも気にしないのが睡であるのだが。


 コポコポとドリップが進んでいる途中で睡が声を上げた。


「よっし!!!! レベル上がってますね! 限凸ができます!」


 ソシャゲの凸仕様はいろいろあるが大抵のゲームで現在のレベルキャップに到達していることとなっているものも多い。さすがにキャラを重ねろという鬼畜仕様のゲームこそ減ったもののいろいろと金か時間がかかる物が多い。


 ピー


 ドリップが終わった音がしたのでマグカップに注ぐ、その時、ふといたずら心を覚えてスマホに熱中している睡にコーヒーをそのまま差し出した。


「ほら、コーヒー」


「ああ、ありがとうございます」


 そして睡が一口飲んで……


「ヴプ……お兄ちゃん、これ、ブラックじゃないですか……」


 渋い顔をして言う。俺はそれにさらりと返す。


「砂糖もミルクも注文してこなかったじゃないか」


「長い付き合いなんですからそのくらい察してくださいよ……」


 睡は渋い顔のまま砂糖を棚から取り出しまとめて注ぎ込む。あっという間に激甘のコーヒーが完成した。


「ふぅ……」


「そのゲームってそんなに面白いのか?」


「私並みに可愛い妹が出てきますよ」


「そうか……」


 基準がよく分からないが、睡の自己評価がどこまでも高いことを理解させる一言だった。


「じゃあお兄ちゃん! 晩ご飯作りますね!」


 一通りステータスのチェックを終えた睡が夕食を作るのだった。


 俺はその時話をしたいときは自宅のWi-Fiアクセスポイントを落としておくといいななどと考えていた。


 ――妹の部屋


『お兄ちゃん! 大好き!』


「フヘヘ……ぐへへへ……」


 いやあ、このゲームはいいですねえ、妹を好きなだけ甘やかせるとか最高じゃないですか!


 お兄ちゃんが私に意地悪をしていたのはもしかしてヤキモチなのでしょうか?


 だとしたら……それはとても素敵な……すぅ……

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